右肩上がりに増える公立中高一貫校
今さらではあるが、中高一貫校とは中学と高校を接続し、6年間にわたって一貫した教育を行う学校のことだ。従来は私立のイメージが強かったが、1998年に文部科学省が学校教育法の一部を改正して以来、公立でも設置ができるようになり全国に公立中高一貫校が広がった。
その目的は、中等教育の多様化を推進し、生徒一人ひとりの個性をより重視した教育の実現にある。計画的かつ継続的に教育指導ができるのはもとより、特色あるカリキュラムを導入している学校が多く、とくに公立は経済的負担も比較的少ないことから、今や私立をしのぐ人気となっている。
公立の中高一貫校には、1つの学校として一体的に中高一貫教育を行う「中等教育学校」、高等学校入学者選抜を行わずに同一の設置者による中学校と高等学校を接続する「併設型」、異なる中学校と高等学校が連携をして(市町村立中学校と都道府県立高等学校など)中高一貫教育を行う「連携型」の3つのタイプがある。文科省の「令和元年度学校基本調査」によれば、中等教育学校54校、併設型495校、連携型169校もの公立中高一貫校が全国にある。
これまで公立中高一貫校の数は右肩上がりに増えているが、茨城県では2020年度の5校に加えて、22年度までに新たに5校が中高一貫校になるという。
すでに県内には連携型の小瀬(現在は常陸大宮市立明峰中と連携)、中等教育学校の並木、古河、併設型の日立第一の4校があったが、20年度に太田第一、鉾田第一、鹿島、竜ヶ崎第一、下館第一、21年度に水戸第一、土浦第一、勝田、22年度に水海道第一、下妻第一が一貫化され、新たに10校(勝田のみ中等教育学校、そのほかは併設型)を加え、計14校が中高一貫となるのだ。なぜ、ここまで大胆に中高一貫校を増やすのか。
中学校卒業者数が少子化で激減
その理由の1つに少子化がある。これは日本全体に言えることだが、茨城県では中学校卒業者数等は1989年の4万9441人をピークに年々減少し、2018年に2万7454人になり、30年には約2万2000人まで激減すると見込まれている。これにより地域振興、そしてそれを担う人財育成において重要な役割を果たす高等学校の小規模化が進むことから、茨城県では「県立高等学校改革プラン」を策定。学校の再編等も含めた多様で魅力ある学校、学科づくりに努めている。
中卒年(3月)は、中学校卒業者等の各年3月の卒業年を示す
2017年以前の卒業者数は実数であり、18〜26年は17年5月1日現在の在籍者数に基づく推計による見込み数、27〜30年は17年4月1日現在の常住人口に基づく推計による見込み数である
では、なぜ中高一貫校なのか。茨城県教育委員会は、「県内各地域で中高一貫教育への高いニーズがみられる」と話す。また、既存の中高一貫教育校において、探究活動などの6年間の計画的、継続的な取り組みにより、学業だけでなく課題解決能力の育成などにおいて優れた実績が出ているという。そこで「より通学しやすい場所に中高一貫教育校を設置し、地域課題の解決的な学びを通して、『地域の中の学校』における中心的な役割を担い、地域のリーダー、地域での学びをベースに世界に飛び立つ人財の育成を目指す」(茨城県教育委員会)計画だ。
さらに、来年度開校する水戸第一、土浦第一、勝田では校長を公募で選考する。茨城県では、昨年度も校長を公募しており、63名の応募者の中から3名を採用している。うち2名は、国立大学准教授と私立中高一貫校で高等部の設置準備を行っていた「民間人」(任期4年)だ。文科省は00年、学校教育法施行規則を改正し、校長の資格要件を緩和。教員免許状がなく教職経験がなくても、学校運営上とくに必要な場合には民間人も登用できるようにしており、今年は横浜市や大阪市も校長の公募を行っている。
茨城県教育庁学校教育部高校教育課は、校長公募の狙いについて「これまでのキャリアで培われたマネジメントノウハウを十分に発揮し、過去の事例にとらわれない新たな発想に基づく、新しい時代の学校のマネジメントと人財育成に期待し、今回公募により幅広く募集を行うことにした」と話す。校長として求められるのは、優れたリーダーシップと組織マネジメント力、過去の事例にとらわれない柔軟な発想力と企画力、社会の変化への対応力と先見性を有し、地域の教育資源を取り込んでネットワークをつくるとともに、学校現場の課題を解決できる実行力のある人物だ。募集期間は11月27日まで。
これまで茨城県では中高一貫教育に加え、基礎学力の定着やキャリア教育を重視するアクティブスクール、不登校の子どもに対応するフリースクールを設置する一方、既存校の統合なども進めてきたという。少子化は、日本全国どこの自治体でも対応しなければならない問題だ。子どもの絶対数が減る中で、適正な規模を保ちつつ活力ある学校、教育を維持するにはどうしたらいいのか。さまざまな工夫が、今後も求められそうだ。
(写真:iStock)