シングルマザー世帯は過半数が貧困に直面

日本において子どもの貧困がどのような状況にあるのか。社会的な関心が高まる一方、全体像はわからない状況が続いていた。これまでも一部の自治体で調査が実施されていたものの、全国レベルでの調査は行われてこなかったからだ。

内閣府による今回の調査は、2021年2月から3月にかけて行われた。調査の対象となったのは全国の親子5000組で、有効回収数は2715組(有効回収率54.3%)だった。

ここでまず注目しておきたいのは、子どもの貧困調査として、子どもだけではなく保護者も対象としたことだ。親が貧しくて子どもだけが豊かだったり、その逆もまた考えにくい。子どもの貧困は、家庭の状況と密接に結び付いていることから、親の経済状況や就労状況、子どもとの関わり方などについて聞いており、対象とした子どもは中学生に限定されている。

経済的な状況については、世帯全員の年間収入(税込み)を尋ねる設問に対して「1000万円以上」という回答が15.3%で最も多く、次いで「500万~600万円未満」が12.2%、「700万~800万円未満」が11.2%、「600万~700万円未満」が10.5%などとなっている。一方、「300万円未満」と答えた割合も10%を超えている。「50万~100万円未満」(1.0%)、「50万円未満」(0.3%)という回答もあった。

まず、この調査の報告書では、等価世帯収入(各収入の選択肢の年間収入の中央値をその世帯の収入とし、同居家族人数の平方根で調整したもの)の水準が、「中央値の2分の1未満に該当する」貧困の問題を抱えている世帯を「貧困層」、「中央値の2分の1以上で中央値未満」に該当する貧困の課題を抱えるリスクの高い世帯を「準貧困層」と捉え、分析を行っている。

等価世帯収入の分類について
貧困層:等価世帯収入が中央値の2分の1未満
準貧困層:等価世帯収入が中央値の2分の1以上で中央値未満

これに基づいて経済的な状況の回答を見ると、「準貧困層」は全体の36.9%、「貧困層」は12.9%となっている。「ひとり親世帯」では「貧困層」が50.2%、「母子世帯」では「貧困層」が54.4%となっていた。シングルマザーの世帯は過半数以上が貧困の問題を抱えているということがこの結果からわかる。

高学歴世帯ほど貧困率が低い

保護者の学歴による違いについては、母親、父親ともに学歴が高いほど「貧困層」に該当する割合が低い。「父母のいずれも、大学またはそれ以上」の学歴の場合、「貧困層」の割合は3.9%、「父母のいずれかが、大学またはそれ以上」だと6.4%、「その他(不明等を含む)」の場合は19.0%となっている。

また家庭内で「日本語以外の言語も使用しているが、日本語のほうが多い」または「日本語以外の言語を使うことが多い」と回答した世帯における「貧困層」の割合は22.2%で、「日本語のみを使用している」世帯の「貧困層」の12.6%と比べて高くなっている。

暮らしの状況に関しては、全体としては「苦しい」が19.7%、「大変苦しい」が5.6%だが、「貧困層」の世帯に限ると「苦しい」と「大変苦しい」を合わせた割合が57.1%にも及んでいる。また世帯の状況別に見ると、「苦しい」と「大変苦しい」を合わせた割合は、「ふたり親世帯」だと21.5%だが、「ひとり親世帯」全体では51.8%、「母子世帯」だけで見ると53.3%になっている。

では、実際にどんな苦しさがあるのか。これについては「過去1年間に必要とする食料が買えなかった経験があったか」という設問があり、「よくあった」「ときどきあった」「まれにあった」という回答を合わせた割合は、「準貧困層」で15.0%、「貧困層」では37.7%となっている。

同じ割合を世帯状況別に見ると、「ふたり親世帯」では8.5%、「ひとり親世帯」では30.3%、「母子世帯」では32.1%となる。そう回答した世帯の中にはおそらく、子どもに食べさせるものが買えなかったケースもあっただろう。

進学を諦める子どもたち、コロナのダメージも大きい貧困層

この調査では、子どもとの関わり方も聞いている。

例えば「お子さんに本や新聞を読むように勧めているか」という設問に対して、「どちらかといえば、当てはまらない」「当てはまらない」と回答した割合を合計すると、等価世帯収入が「中央値以上」の世帯では33.9%だが、「貧困層」では48.4%と10ポイント以上高くなっている。同じ割合は、「ひとり親世帯」全体でも46.8%、「母子世帯」でも45.2%と高い。

子どもが将来どの段階まで進学すると思うかという設問に対しては、「大学またはそれ以上」という回答が全体では50.1%だったが、「準貧困層」では36.5%、「貧困層」では25.9%となっている。経済的な余裕がなく成績が優秀な高校生が大学進学を諦めるという話を時々耳にするが、この調査結果からはそうしたケースが決して少なくないことが推測される。

学習の状況については、「普段学校の授業以外で、どのように勉強しているか」という設問を子どもに聞いている。それに対して「塾で勉強する」という回答は全体では47.2%、「家の人に教えてもらう」が24.4%だったが、「貧困層」ではそれぞれ28.7%、20.1%で、ほかの世帯より低い割合になっている。逆に「学校の授業以外では勉強はしない」という割合は全体では4.9%だが、「貧困層」では12.3%とほかの世帯より高くなっている。

また、「クラスでの成績」については、「やや下のほう」と「下のほう」という回答の割合を足すと、等価世帯別収入が「中央値以上」の世帯では26.0%だが、「準貧困層」では36.3%、「貧困層」では52.0%となっている。これはあくまでも子どもが自分の成績をどう思っているかを尋ねたものだが、収入が少ない世帯ほど学業成績がよくないというのが現実なのだろう。

進学希望を聞いた設問では「高校まで」と答えた子どもにその理由も尋ねている。全体では「家にお金がないと思うから」が7.8%、「早く働く必要があるから」が7.3%だが、「貧困層」ではそれぞれ15.6%、14.7%と2倍近くになっている。経済的な状況が、明らかに機会の平等を阻害している現実が浮かび上がってくる。

この調査では、新型コロナウイルスの感染拡大による影響についても調べている。「世帯全体の収入の変化」について、「減った」という回答は全体では32.5%だが、「準貧困層」では39.6%、「貧困層」では47.4%となっている。収入の少ない世帯のほうが、より大きなダメージを受けているようだ。

また、感染拡大により「お金が足りなくて、必要な食料や衣服を買えないこと」が「増えた」と答えた世帯の割合は、全体では10.6%だったが、「準貧困層」では14.8%、「貧困層」では29.8%とやはり高くなっている。

戯れ言ではない「親ガチャ」、貧困の連鎖を断ち切るには

報告書を見ると、保護者の経済状況が子どもの学習環境に大きく影響していることがわかる。この状況を放置しておけば、経済的に豊かな保護者の子どもは学習環境にも恵まれ、その結果、子どもも豊かになる可能性が高く、「貧困層」世帯の子どもは学習環境に恵まれず、進学の機会も狭められ、結果として子どもが経済的に豊かになる可能性も低くなる可能性が高くなるということだ。これは「貧困の連鎖」が生まれやすい状況といえる。

「貧困」は、学習習慣や生活習慣にも大きな影響を及ぼす。この調査では、「朝食を毎日食べる」かどうかも聞いているが、「食べる」と答えた割合は、「準貧困層」や「貧困層」のほうが等価世帯別収入が「中央値以上」の世帯より低くなっている。子どもが学習習慣や生活習慣という文化資本を身に付ける機会が明らかに少なくなっているのだ。

「貧困層」の子どもは、学習塾に限らず習い事をする機会も裕福な世帯に比べれば少なくなる。子どもの頃にいろいろな経験をし、多様な人間関係を結べば、文化的にも精神的にも豊かになり、ウェルビーイングも高まるとは一般によくいわれることだが、「貧困層」の子どもたちはそうした多様な経験をしたり人間関係を構築したりする機会も限定的にならざるをえない現実がある。

しかもコロナ禍で、そうした現実はいっそう厳しさを増している。近頃「親ガチャ」なる言葉が流行しているが、それが決して戯れ言(ざれごと)ではないことを、この報告書は明らかにしている。それでも大人や政治家は、「貧困層」に生まれ育った子どもに対して「自己責任」という言葉を投げかけるのだろうか。

自己責任と言うのなら、まず機会の平等がなければならない。だが見てきたように、機会の平等はないに等しい。貧困の連鎖が今に始まったことではないとしたら、今、経済的に困窮している保護者自身、「貧困層」の世帯で生まれ育った可能性が高い。

ならば、そうした保護者に対して経済的な支援をするだけでなく、労働スキルの向上や就労支援などの手を差し伸べることも必要だろう。そして何より今、経済的に困窮し、食事の回数を減らしたり進学を諦めている子どもたちに、政府や自治体、さらに民間も含めて総出で支援をすべきではないのか。

未来を担う子どもたちは、この国の財産なのだということを忘れてはならない。

(文:崎谷武彦、注記のない写真:Fast&Slow/ PIXTA)