10月末までに端末の納品を完了する自治体は
文部科学省の「GIGAスクール構想の実現に向けた調達等に関する状況(8月末時点)について」(速報値)は、端末の整備が思うように進んでいない実態を浮き彫りにした。調査結果を見ていこう。
8月末までに、7割以上の自治体が関連経費の議会承認を終えたものの、事業者の選定まで終えた割合は約5割となり、納品の完了に至っては2%にまで減少する。10月末までに納品完了を予定している自治体は6.6%だ。文部科学省の通達でも、議会承認の状況は一定の進捗が見られるものの、事業者の選定(落札)から納品完了までに時間がかかっていると指摘している。
ICT環境が整っていない家庭に対して、全児童生徒に何らかの対策を準備している自治体は28.7%。最終学年の児童生徒に対して準備している自治体は5.1%となっている。具体的な対応策を見ると、貸し出し用端末、ルーターの整備、学校のコンピューター室利用が挙がっている。こうした実態について、文部科学省は学校の臨時休業など行われた場合、ICTを活用した児童生徒の学びの保障に支障が出る可能性があると懸念を示している。
一方、早期納品を実現するための取り組み事例も共有されている。その1つが、小学校6年生分、中学校3年生分を優先して分割納品する方法だ。ICT環境が整わない家庭への貸し出しを想定した端末の調達を優先する自治体もある。ICT活用教育アドバイザーやGIGAスクール構想に関するさまざまな相談機能も用意されている。取り組みのスピードアップが期待される。
各教科での1人1台時代の活用シーンとは
文部科学省では、整備された端末の活用方法についても情報提供を行っている。その中で、学校における新型コロナウイルス感染症の感染者発生などによる臨時休業といった緊急時、児童生徒が端末を家庭に持ち帰ることについても、前例にとらわれず、また、抑制的な思考に陥ることなく、前向きに検討することが不可欠だとしている。
通常授業におけるICTの効果的な活用事例も示されている。例えば国語。小学校ならば、タブレット端末を使って児童がスピーチする様子を録画し、声の大きさや抑揚など、表現方法の工夫につなげる。中学校や高等学校では、古典の紀行文について登場人物が旅した経路やその土地の特色を端末で調べることで古典への興味や関心を喚起することができる。
外国語ならば、端末を通じて一人ひとりが海外の子どもたちと英語で交流することが可能。ライティングの自動添削機能、スピーキングの音声認識機能を使うことでアウトプットの質と量を大幅に高めることができる。校外、そして海外とつながる本物のコミュニケーションによって児童生徒の発信力向上が期待される。
動画の記録機能は、さまざまな教科で活用できるはずだ。体育では、ゲームの様子を撮影した動画を見返すことによって次の作戦を考える。書道でも、模範動画を確認することで、より工夫した表現を促されるだろう。理科でも観察や実験の記録動画は児童生徒の分析や考察に寄与する。限られた学習時間を効率的に運用するためにも、ICTが果たしうる役割は少なくない。
文部科学省では、緊急時における端末の持ち帰りについて、前例にとらわれることなく、という姿勢の重要性に言及しているが、ほかにも、意欲的に取り組む教職員の創意工夫の試みを最大限に生かす姿勢を挙げている。実際、こうした姿勢は、1人1台端末環境が整った際にも、問われているといえるだろう。(写真:iStock)