端末1台当たりの金額は「5万5000円」で1万円アップ

公立の小中学校の児童生徒に1人1台を配布するGIGAスクール構想は、2019年度の補正予算で2300億円を計上。その後にコロナの感染拡大があり、多くの学校でオンライン授業が実施できなかったことから、2023年度に完了予定だった「1人1台端末」の環境整備が前倒しされ、2021年度には大半の学校で端末の配布が完了した。

その端末が順次更新の時期を迎えている。文科省は、公立学校の更新予算として2643億円を2023年度予算に計上し、都道府県に基金を造成し補助金として市町村に交付する。補助率はGIGA第1期と同様に3分の2で、残り3分の1 は市区町村が地方財政措置など市区町村予算を利用して整備する。

端末1台当たりの金額は1万円アップし、5万5000円となったほか、文科省は端末の更新や校務DXの推進について、都道府県単位での共同調達の方針を示している。前回は市区町村単位での調達だったが、今回は原則として都道府県ごとの共通仕様書をもとに共同調達することになる。

9割以上の市区町村が共同調達に参加

ICT市場調査コンサルティングのMM総研は9月5日、文部科学省のGIGAスクール構想により整備された「1人1台端末」の更新、いわゆるGIGA第2期について市区町村の方針を調査し、このたび結果を公表した。

全国にある1741すべての市区町村に対し、2024年7月から8月にかけて電話調査を実施。都道府県主導の共同調達への参加意向や課題、採用を予定しているOS、調達時期や台数などについて聞き、1279の市区町村から回答を得た。

この調査結果によると、91%と大半の市区町村が共同調達で端末を更新する意向であることがわかった。

多くの都道府県は市区町村の要望を尊重しながら取りまとめ、なるべく共通化する形で共通仕様書の作成を進めている。中には市区町村が要望するOSごとや、OSの中でもいくつか仕様書のパターンを分けることを検討しているところもあったという。

また「政令市や特別区など人口規模が大きい」「調達時期が合わない」「LTEモデルなど独自の要件がある」などの理由から、共同調達に不参加を表明した市区町村は4%だった。

端末価格が高騰していることに懸念

共同調達するうえでの課題や懸念を聞いた項目では、第1期と比べて円安の影響などでGIGAスクール対応端末の単価が上がっていることから、「端末の価格が高騰している」が48%で最多だった。これまでに高単価な端末を配備してきた市区町村では、更新にあたり「キーボードカバーやペンなどの周辺機器を購入する予算が足りない」との回答も多かった。

調達予定の端末単価については、政府補助金の範囲内である5.5万円以内とする市区町村が71%を占めた。5.6万円以上は15%だが、その中でも6万円台が多く、最大で8万円台を想定していた。

その他の課題については、「Microsoft Windows、Google ChromeOS、iPadOSを適切に比較できていない」という声が多かった。

次いで「県主導のため見えないところがある中で予算などいろいろと決める必要がある」「共同調達の内容が確定されておらず先行きが不透明」「県の統率力に疑問を感じている」「(共同調達の)協議会中で県と考えの違いがあった」「県の共通仕様書は本当に年度内に出るのか。出ないと動きが取れない」「端末価格、周辺機器、保守の条件など共同調達に際し意見の調整が難しい」「入札に手を挙げてくれる業者があるのかわからない」など共同調達プロセス全般に不安を感じる声があった。

各市区町村が想定する調達予定時期ごとに台数を集計すると、2025年度に更新が集中することもわかったという。第1期もそうだったが、今後は供給面でも課題が出てきそうだ。とくに今回は都道府県単位での調達となることから案件が大型化、広域化するため、共有体制や与信の面から応札できる事業者が限定される可能性もあり、供給体制に不安が残る。

また端末の更新にあたり、改めて都道府県主導で3つのOSを比較したという市区町村は約7割にのぼったが、「OSを切り替えない」とした市区町村が64%、「OSを切り替える」が12%、「検討中もしくは未定」は24%だった。

GIGA第2期で採用したいOSを聞いた項目では、すでに採用OSを決めている市区町村が73%、「検討中・未定」「どれでもよい」など決めきれていない市区町村が27%となった。

「検討中・未定」が3割近くとなった理由としては、調査時点で都道府県からの共通仕様書が示されていないことを挙げる市区町村が多かったからではないか。採用するOSを決めた市区町村の中ではChromeOSが37%と最も多く、次いでiPadOSが21%、Windowsが13%だった。

今回調査した時点において、要望するOSごとの調達予定台数を回答したのは796市区町村(全市区町村の46%)。この市区町村が調達を予定している端末台数の合計は約367万台で、この中でみるとChromeOSが211万台(構成比57%)、iPadOSが101万台(同28%)、Windowsが55万台(同15%)だった。

調達方針を決めている市区町村ではChromeOSの比率が高い

GIGA第2期では、予備機も含めると全体で1000万台強の端末が調達されると想定されるが、現段階で調達方針を決めている市区町村ではChromeOSの比率が高い状況にある。

その理由としては、本体と周辺機器や端末管理ソフト(MDM)を補助金額である5.5万円以内に収めることを念頭に置くと、クラウドと処理を分散することで端末価格を比較的安価に抑えやすいChromebookを選択しやすいからだろう。

MM総研は、「Windowsパソコンは、個人市場での平均出荷単価が10万円を超え、AI(人工知能)活用への対応でさらに平均単価は上昇する見通し。また切り替えの要因として、『前回導入のWindowsパソコンの起動に時間がかかる』『OS更新に時間や手間がかかる』など予算内で調達できる端末のハード性能や運用面について教育委員会から課題があげられており、解決策の丁寧な説明が必要だろう。iPadも最新機種、周辺機器ともに値上がり傾向にあり、MDMを含めた調達価格を複数年にわたり予算内に収めていけるのかが懸念される」と分析している。

今回は、共同調達により、端末の更新を一括で行うことでコストの削減や業務効率化が期待されているが、課題もあるとMM総研・取締役研究部長の中村成希氏は指摘する。

「市区町村の『事務手続きの軽減』『仕様書に沿った端末やソリューションの調達』などで、政府が狙った共同調達方式に一定の成果を出すことができそうだ。しかし、都道府県ごとに調達の準備状況にばらつきが出ており、市区町村からは懸念の声も上がっている。調達の大型化は、価格低減の可能性がある一方で、納入者にも規模の論理が働きやすく、全国規模のIT販売店や通信事業者など大手サプライヤーに絞られる可能性も高い。

前回調達で製品を納入した地場の販売店が実質的に市場に参入できなくなることで、納品場所(学校)や時期が分散するGIGAスクール市場では、地域によって導入支援や運用サポートが不足するなど『供給格差』が出る恐れもある。例えば、コンソーシアム方式での入札を認めたり、地域単位での入札など地域販売店も参入できたりするように実情に即した運用が必要だろう。共同調達を主導する都道府県担当者にとっては初めての大規模調達であり経験不足も懸念される。政府には共同調達の現状把握と円滑化に引き続き支援が求められる」

課題は価格や入札にとどまらないだろう。端末を共同で調達するとなると、端末の活用方法や授業での使い方、またその後の保守・管理までを市区町村全体で検討したうえで選定する必要がある。

単なる端末の選定にならぬよう、GIGAスクール構想がスタートして以降の3年について、どのように活用してきたのか、どんな課題があったのかを振り返り、しっかりと次につなげる機会としたいところだ。

(注記のない写真:Graphs / PIXTA)