すでに97%以上の学校が端末を整備

公立の小中学校における「1人1台端末」環境の整備は、当初の計画では2023年度が目標であった。それが新型コロナウイルスの感染拡大の影響により20年度に前倒しされたときは、目標達成に懐疑的な見方もあった。しかし、目標はほぼ達成された。

文科省が3月に公表した「GIGAスクール構想の実現に向けた ICT環境整備の進捗状況について」(速報値)によれば、全自治体*のうち1769自治体、97.6%が20年度内に各学校用の端末の納品を完了する見込みだとしていた。ここで言う「納品完了」とは、「児童生徒の手元に端末が渡り、インターネットの整備を含めて学校での利用が可能となる状態」を指す。

しかし、少数ながら20年度中という期限に間に合わなかった自治体もある。文科省によれば全自治体のうちの43自治体、2.4%が同年度内に納品が完了しない見込みとしている。理由としては、13自治体が「端末への需給のひっ迫等による納期遅延」を、6自治体が「入札の公示等はしたが不調になった」を挙げている。また24自治体などが挙げた「その他」の回答には、「OSの選定や仕様の決定、関係者との調整に期間を要し発注時期が遅くなった」「機器納品後のキッティング、端末設定に時間を要する」「端末本体は納品予定であるものの、インターネット接続回線の開通までに一定期間を要する」などがあった。

一方、校内通信ネットワーク環境整備等の状況については、整備に取り組んでいる3万2228校のうち、86.2%に当たる2万7787校が20年度内にすでに供用を始めており、97.9%の3万1538校が、本年4月末までに供用を開始するとしている。端末環境とともに、こちらも100%近い学校が、遅くとも4月末からはネットを使える状態になるということだ。

また、インターネットの接続方式に関しては、自治体等数ベースで見ると53.5%が学校から直接接続、40.6%が学校回線を集約接続、2.3%がLTEで接続、としている。学校数ベースで見た場合には、学校から直接接続は40.6%、学校回線を集約接続は51.5%、LTE接続は2.9%となる。

*都道府県、市区町村、一部事務組合を含む公立学校情報機器整備費補助金の対象である公立の義務教育段階の学校設置者

OS別では、やはり「Chromebook」が圧勝

では、学校に配備されたのはどのような端末なのか。それについては、ICT分野専門の市場調査コンサルティング会社であるMM総研が、昨年11月から今年1月にかけて実施した「GIGAスクール構想実現に向けたICT環境整備調査」を見るとわかる。

全国1741すべての自治体を対象に行われたこの調査では、1478自治体が端末の導入状況について回答している。それによると、Google Chrome OSの端末は327万8110台に及び、全調達台数の43.8%のシェアを獲得した。Google Chrome OSの端末とは、すなわち「Chromebook」のことだ。

これに次いでiPadOSの端末は210万7935台で28.2%、その次がMicrosoft Windowsで210万1357台で28.1%となっている。とにもかくにも「Chromebook」の圧勝といえる。

Google Chrome OS端末は、立ち上がりが速い、価格が安い、データをクラウド上で管理するため端末を紛失したり壊したりしてもデータを消失するリスクが低い、などの特徴がある。MM総研が20年10月に行ったOS評価調査でも、クラウド活用、運用管理、セキュリティーなどで好評価だったとされる。

この調査によれば、とくに人口密度の高い都市部で「Chromebook」を採用した自治体が多かった。逆にMicrosoft Windowsは地方での採用が多い傾向がみられ、iPadOSの端末は小学校低学年や特別支援学級、特別支援学校などキーボードレスでの入力活用を想定するケースでの採用が多い傾向があるという。

GIGAスクール構想向けクラウドサービスの利用状況については、Googleが提供している「G Suite for Education」を利用している自治体が最も多く、54.4%に達している。次いで多いのは「Microsoft 365」で38.4%となっている。どちらも利用していないは14.8%であった。

クラウドの利用率が高いことがわかるが、いまだにクラウドの利用についてはセキュリティーを問題視して学校での利用を禁止している自治体もある。だが、新型コロナ禍でクラウド化は一気に加速している。文科省も、クラウドを適切に活用することで、より効率的にICTを活用した学習環境の整備を進めることができ、教育現場の改善に向けた有力な解決策となるとしている。デジタル庁が設置されれば、学校でのクラウド利用がいっそう進む可能性もありそうだ。

メーカー別ではAppleがトップに

MM総研は同じ調査で、GIGAスクール構想で学校に導入される端末のメーカー別出荷台数も1480各自治体にヒアリングしている。それによると210万7935台でシェア28.1%を占めトップに立ったのはAppleのiPadであった。この結果については、OSではGoogle Chrome OSの端末の圧勝となっているのになぜ、と疑問を抱くかもしれないが、Google Chrome OSを搭載している端末は複数のメーカーが製造しているため、OS別では第2位につけたAppleのiPadとなったのであろう。

Microsoft WindowsとGoogle Chrome OSを搭載している端末を合計した出荷台数は538万4139台で、当然のことながらiPadよりはるかに多い。

この538万4139台の中でのメーカー別出荷台数では、Lenovoが151万1356台、シェア28.1%でトップに立っている。それに次ぐ第2位はNECで、出荷台数は107万6292台、シェア20.0%である。これまで同社はWindows PCを教育市場に投入していたが、この調査によれば「Chromebook」を139自治体に納入している。これが同社のシェアを大きく伸ばす要因となったものとみられる。

一方、小中学校向け市場で圧倒的なシェアを誇っていた富士通(富士通クライアントコンピューティング)の出荷台数は44万1399台にとどまっている。Microsoft WindowsとGoogle Chrome OS端末内のシェアでもわずか8.2%だ。

NECは自社の教育クラウド「OPE」の学習用IDを150万発行(予定を含む)したと公表するなど、教育向けサービスの強化に取り組んでいる。対して富士通は、オンプレミスの地域で高いシェアを持つ。今後、国内勢のこの2社がどのような展開を見せるかにも注目したい。

新型コロナの影響でGIGAスクール構想が前倒しされ、この1年で約750万台の端末が一気に教育現場へ入った。突如現れた巨大市場に端末メーカーは大きく沸いたわけだが、今後その主戦場は、高校の「1人1台端末」整備へと移る。高校はBYOD、あるいは都道府県による環境構築となるが、今回後塵を拝することとなったメーカーの鼻息はすでに荒い。

だが、何より重要なのは、こうして入った端末が確実に教育現場で活用されていくことだ。ハードが入っただけで教育が変わるほど甘くはない。4月から端末の本格活用が始まっているが、多くの学校、先生が混乱状態と聞く。教員の研修を含めた持続的な活用に向けた取り組みが、今後も求められる。

(写真:iStock)