コロナ禍での学校の取り組みを3回にわたって調査

2020年から続く新型コロナウイルスの感染拡大は、学校教育にも多大な影響を与えた。しかし、臨時休業中や再開後の学校の取り組みについて、学校再開段階では国レベルでも包括的な調査が行われなかった。

そのため埼玉県では、各学校の状況について、昨年3月から今年1月にかけて3回にわたって県独自の調査を行った。調査対象は、さいたま市を除く県内の公立小学校702校、中学校355校、義務教育学校1校で、それぞれの期間と調査内容は下記のとおりだ。

1回目「臨時休業期間中の児童生徒の学習の保障等のための取組状況調査」
期間:20年3月2日から5月31日
調査内容:
1. 臨時休業期間中の家庭学習(支援状況、状況把握、ICT活用等)
2. 児童生徒の心身の状況把握と心のケア等(不登校、虐待、いじめ、特別支援教育、日本語指導が必要な児童生徒の状況把握等)
2回目「学校再開後の学習への取組状況等の調査」
期間:学校再開(分散登校期間は除く)から夏季休業日まで
調査内容:
1. 学校再開後の学習状況について(ICT活用状況を含む)
2. 学校再開後の教育指導について(ICT活用状況を含む)
3. 再び臨時休業になった場合の家庭学習支援について(ICT活用状況を含む)
4. 特別な教育的支援を必要とする児童生徒への支援について
3回目「夏季休業期間以後の取組状況等の調査」
期間:夏季休業期間以後から21年1月31日まで
調査内容:
1. 複数年度にわたる教育課程編成について
2. 再び臨時休業になった場合の学習支援について
3. 夏季休業期間以後の児童生徒の学習状況について
4. 授業や家庭学習でのICT活用状況について
5. 学習プラットフォームについて

小学校と中学校でICTを活用している教員の割合に差

「授業や家庭学習支援での教員のICT活用の状況」について聞いた項目では、小学校では「すべての教員がICTを活用している」と回答した学校と「8割程度の教員が活用している」と回答した学校の合計が、3回目調査で80%を超えていた。それに対して中学校では、同じ回答の合計が50%ほどにとどまっていた。ICTを活用している教員の割合に、小学校と中学校とではかなりの差がある実態が浮かび上がった。

また、「各教科等でのICT活用の状況」を聞いた項目では、小・中学校ともにどの教科においても「教員による挿絵や写真、動画等教材の提示の場面で活用した」という回答が最も多く、「グループや学級全体での発表の場面で活用した」という割合も高かった。

教科ごとの活用の特徴を見ると、国語では「インターネットを用いて個人の情報収集の場面で活用した」という回答、算数・数学では小・中学校ともに「シミュレーションなどのデジタル教材を用いて個人の思考を深める場面で活用した」という回答が多く見られた。

一方、ICT活用の課題については、小・中学校の両方で「ICT活用能力が高い教員はいるものの、教員の活用能力の差が大きい」と回答した学校が80%以上で最も多かった。2番目に多かったのは「ICTの研修が不足している」という学校で小・中学校ともに70%前後あり、「家庭のハード環境やネットワーク環境が整っていない」という学校も60%前後に達している。また、今後実施を希望するICT研修については、小・中学校ともに「各教科等におけるICT活用に関する研修」と回答した学校が90%以上に及び、「端末やソフトウェアの使い方に関する研修」と回答した学校も小・中学校で85%以上だった。

ICTの活用状況についての調査結果まとめ
・ICTを活用している教員の割合が、小学校と中学校でかなりの差がある
・ICT活用能力の高い教員はいるが、教員の活用能力の差が大きいことを課題に挙げる学校が多い
・ICTの研修が不足していて、とくに各教科におけるICT活用に関する研修を求める声が多い

大半の学校が年度内に教育課程を終了

新型コロナの感染拡大は、教育指導そのものにも大きな影響を与えた。

この調査でも「令和2年度の教育課程の状況」について聞いていて、「複数年度にわたる教育課程を編成し、指導内容を年度を超えて令和3・4年度に先送りする予定がない」と答えた学校は小・中学校いずれも99%以上だった。一見影響はなかったようにみえるが、実はこれは3回目調査の結果で、2回目調査では70%前後の学校が授業展開を早める工夫をしていると回答していた。その努力が功を奏して、大半の学校で年度内に教育課程を終えることができたと考えられる。

一方、学習面ではかなりの影響があったようだ。「令和2年度の教育課程の学習面への影響」についての質問に対しては、小・中学校の約80%が「実験・実習等が制限されることで、実感を伴った定着が十分でないこと」、小学校の約75%、中学校の約80%が「年度当初に考えていたより『主体的・対話的で深い学び』に取り組む機会が持てないこと」を課題と感じていた。

さらにこの調査では、「主体的・対話的で深い学びの視点での授業について、とくに『対話的な学び』ではどのような感染症対策を踏まえた工夫を行ったか」という突っ込んだ質問もしている。それに対して『対話的な活動は極力行わないようにしている』と回答した学校の割合は、2回目の調査では小・中学校とも30%弱あったが、3回目の調査ではいずれも0%だった。すべての小・中学校が、何らかの感染対策を行ったうえで「対話的な学び」に取り組んだのだろう。

教育指導についての調査結果まとめ
・99%以上の小・中学校で年度内に教育課程を終えることができた
・実験・実習等が制限され実感を伴った定着が十分でない、主体的・対話的で深い学びに取り組む機会が持てないことを課題に感じる学校が多い
・だが、すべての学校で何らかの感染対策を行ったうえで「対話的な学び」を実施している

教員のICT研修が課題として浮上

こうした調査の結果について、埼玉県は今後の取り組みにつなげるための分析も行っている。

ICT活用に関する調査結果については、「教員間においてICT活用能力の差があるため、スキルを上げる研修やより具体的な指導に係る研修を実施する必要がある」「小・中学校ともに個別学習および協働学習で活用する学校が少ないため、1人1台環境を前提としたICT活用の推進を働きかける」「中学校は、小学校と比較しICT活用の割合が低く、すべての教科等においてICTの積極的な活用を図る必要がある」と同県は分析している。

また、教育指導に関する調査結果については、「大半の学校が授業ペースを速めるなどにより年度内に指導を終える見込みとなっていたが、速めたことにより児童生徒の学習の定着が十分になっていないことが懸念される」「各学校が感染予防対策を徹底し『対話的な学び』を継続していく必要がある」としている。

さらに埼玉県では、慶応義塾大学 教授の中室牧子氏の協力を得て「埼玉県学力・学習状況調査」とのクロス分析も行っている。それによると令和元年度の学力調査結果データと比較すると、小学校4、5年生の算数の学力が昨年度より低下した可能性がある。国語への影響は見られなかったという分析結果も公表していて、今後も「令和2年度の教育課程が学力に与えた影響」についての分析や「令和3年度埼玉県学力・学習状況調査結果」データとのクロス分析も引き続き行うという。

埼玉県教育委員会は4月、ICT教育推進課を立ち上げ、ICT教育支援体制を強化。「ICT活用プロジェクトチーム」を通じてICT教育の均質化を図る方針も示している。これまでに国や県が作成したさまざまな資料を用途に応じてパッケージ化するとともに、教科等の研修でICT活用研修のさらなる充実また優れた実践事例を周知していく。それにより各学校で1人1台環境を活用した個別学習、協働学習を推進。校内研修などと併せて教員のICT 活用能力向上にも取り組む考えだ。

新型コロナウイルスの感染拡大は、学校教育に大きな影響を与えた。だが、実際にどのような影響を与えているのか。学力への影響など、こうした埼玉県の調査は非常に興味深い。ほかの都道府県はもちろん、さまざまな調査が行われることを期待したい。

(写真:iStock)