世界各地にあるコミュニティー、TEDx(テデックス)とは
もはや、誰もが一度は見たことがあるだろう。大きなスクリーンの前に1人のスピーカーが立ち、身ぶり手ぶりを交えて多くの聴衆を引きつけながらプレゼンテーションを行うTEDは、ここ日本にもすっかり浸透した。
1984年に米国で設立された非営利団体TEDは、「ideas worth spreading(広める価値のあるアイデア)」を掲げ、世界中の著名人、専門家のプレゼンテーション動画を無料で配信している。その分野はサイエンスからビジネス、グローバルな課題まで多岐にわたり100以上の言語で展開されているという。見ているだけで知識や教養が身に付くのはもちろん、仕事のプレゼンテーションや資料作成の参考になる、また英語の勉強になるなど、日本でも学生からビジネスパーソンまで広くファンを獲得している。
そんなTEDの中核は「TED Talks」と呼ばれるコンテンツだが、TEDx(テデックス)と呼ばれるコミュニティーが世界各地にあるのをご存じだろうか。地域が主体となってTED本部にライセンスを申請して認定を受けるもので、日本にはTEDxTokyoやTEDxSapporo、TEDxFukuokaなどがある。TEDというと英語というイメージがあるが、日本のTEDxでは日本語のプレゼンテーションも含め、地域活性化などを目的として独自にカンファレンスを開催したり、動画の配信を行っている。
TEDに中学生、高校生、大学生が登壇
こうした中、今年4月に本部から認定を受けたTEDxOgikubo(テデックス荻窪)によるイベントが9月29 日に開催される。トークテーマは「Making a Better World」だ。
興味深いのが、登壇するスピーカーの中に中学生、高校生、大学生が含まれること。しかも全員が英語でスピーチを行うという。主催するTEDxOgikuboの共同代表を務めるピグマリオン恵美子氏は、その狙いについて「日本の子どもたちが英語で思いを伝える土壌を提供したかった」と話す。
英語圏の国ならばTEDは、その理念どおりシンプルに「広める価値のあるアイデア」を共有する場だ。しかし、ここ日本においてはオールイングリッシュでスピーチを行うこと自体、誰でも簡単にできることではない。グローバル化が進む中で、ビジネスの現場でも英語を使う機会が格段に増えているが、たとえ英語を話せる大人であっても身構えてしまう舞台に、子どもたちが登壇するというからすごい。
今回、公募で選ばれたのは、渋谷教育学園渋谷中学校の清水麻莉花さん、Camelot International Schoolの河野葉月さん、筑波大学附属坂戸高等学校のミギネス 大河 オーランドさん、国際基督教大学の宮島ヨハナさんの4名だ。
これまでも中学生や高校生、大学生が自分の思いを英語で発信できる場としては、英語の弁論大会やスピーチコンテストがあった。ただ、学校からの推薦がないと応募ができないものや、海外在住経験、学校種別などによって参加できるものが異なり、誰にでも広く門戸が開かれているとは言い難い状況にある。
そこで今回は、どんな子どもにも平等にスピーチの機会を与えられるようスピーカーの選定を公募制とし、その過程や努力にも焦点を当てたという。本人がチャレンジしたいと思えば応募ができるようにし、審査も本人が作製した3分の動画で実施した。「学校の先生や保護者に言われたからではなく、TEDに出たい、スピーチしてみたい、社会に対してどう思っているかを自分の言葉で伝えられているかどうかをポイントに選んだ」とピグマリオン恵美子氏は話す。単に子どもたちの英語力を伸ばしたいというわけではなく、世界で活躍できる人材を育てたいと考えているからだ。
そのために身に付けたい3つのCがあるという。「Curiosity(好奇心・探究心)」「Character(強み)」「Competence(社会的スキル)」だ。高い自己肯定感と、自律して物事に積極的に取り組む探究心、協調性を育てたい。自分の考えを世界に向けて発信するTEDのスピーチも、そうした能力を育むことのできる刺激的な場というわけだ。
今回は、4名の子どもたちのほかに11名が登壇する。建築家の隈研吾氏に加え、息子で同じく建築家の隈太一氏、モデルで社会活動家の国木田彩良氏、作家で東洋文化研究家のアレックス・カー氏、探究学舎 代表の宝槻泰伸氏など、実に豪華な顔ぶれだ。こんなスピーカーたちと同じ舞台に立つこと自体、子どもたちにとっては貴重な経験となるに違いない。
15名全員が英語でスピーチを行うが、今年はコロナ禍の影響で視聴はストリーミング配信のみとなる。学校単位で申し込みをしているところも多いというが、個人も事前に申し込みをすれば誰でも無料で視聴ができる。申し込みは記事末尾から。
グローバル化の進展で、社会では「読む・書く・聞く・話す」のバランスの取れた総合的な英語力が求められるようになっている。昨年から小学校で英語が必修となり、読み書き中心だった中高の英語の授業も、少しずつ4技能を意識したものになりつつある。より実用的な英語に教育も変わってきているが、英語はあくまでツールだ。それを使っていかにコミュニケーションを取るのか。その実践の場としてTEDは、またとない舞台といえるのではないだろうか。
建築家 隈研吾、建築家 隈太一、グレッグ・ストーリー博士、モデル&社会活動家 国木田彩良、作家・東洋文化研究家 アレックス・カー、建築家 アズビー・ブラウン、裸足のロブ・ヌジン、筑波大学附属坂戸高等学校 ミギネス 大河 オーランド、渋谷教育学園渋谷中学校 清水麻莉花、国際基督教大学 宮島ヨハナ、Camelot International School 河野葉月、探究学舎代表 宝槻泰伸、開発者 ピーター・フランケン、産婦人科医師 江澤佐知子、エンターテイナー スティーブン・ヘインズ
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(文:編集チーム 細川めぐみ、写真:すべてTEDxOgikubo提供)