サポート校増加の背景に通信制高校の「生徒層の変化」
近年、読者も「通信制サポート校(以下、サポート校)」という言葉を耳にする機会が増えているのではないだろうか。実際、サポート校は増加を続けており、文部科学省によれば全国約1800カ所に設置され、通信制高校に在籍する生徒(約29万人)のうち約4万3000人が利用している(2024年5月現在)。
しかしその役割や位置づけは、社会的にまだ十分に理解されているとは言いがたい実情がある。
そもそも通信制高校とは、レポートを提出し採点してもらう「添削指導」と、登校して教員から指導を受ける「スクーリング(面接指導)」および「テスト」によって、単位を取得して卒業資格を得られる学校だ。スクーリングもあるとはいえ、生徒の日々の学習は家庭などでの自学自習が基本となる。
一方、サポート校は、通信制高校と提携し、学習面や生活面での支援を行う民間の教育施設だ。愛知学院大学教養部准教授の内田康弘氏によれば、「サポート校の誕生は1992年頃といわれ、もともとは高校再受験や高校浪人、成績が振るわない子や学校になじめない子を支援するためにつくられた新しい塾や予備校」だったそうで、増加が顕著になったのは1990年代後半以降のことだという。
「背景には、通信制高校に在籍する生徒層の変化があります。かつての通信制高校は、働きながら高校卒業資格の取得を目指す勤労青少年が中心でした。ところが、しだいに不登校経験者や全日制高校の中退者の入学が増え、1990年代後半頃にはこの層が主流になっていきました。自学自習を前提とする通信制高校の卒業は決して容易ではなく、そうした生徒に対しては、学習面と生活面の両面でより手厚いケアが求められることもあります。そこで通信制高校だけでは対応しきれない部分を文字どおりサポートするために、サポート校は通信制高校と連携する形で拡大していきました」

愛知学院大学教養部准教授
専門は教育社会学。通信制高校やサポート校、定時制高校に関心を持ち、高校生の教育機会や生徒文化、進路選択に関する研究に取り組んでいる。主な論文に「サポート校生徒と大学進学行動」(『教育社会学研究』第98集)、共著に『改訂新版 通信制高校のすべて』(彩流社)など
(写真:内田氏提供)
サポート校は、とくに広域通信制高校(3つ以上の都道府県から生徒を募集できる通信制高校)と提携しているケースが多い。広域通信制高校の場合、各地に点在している生徒にきめ細かい教育を提供するのは困難なため、その役割をサポート校が担っているのだ。
「注意が必要なのは、サポート校は学校ではないということ。単位認定を行うのはあくまでも通信制高校であり、サポート校は生徒の単位取得を後押しするための支援施設です。いわば全日制の高校生が、放課後に通う民間の学習塾と同じ位置づけです。ですからサポート校に通うだけでは卒業資格は得られません。また、通信制高校の授業料は高等学校等就学支援金制度の対象になりますが、サポート校は学校ではないので費用は民間の塾に通うときと同様に国からの補助はなく、原則、家庭が全額を負担する必要があります」
一方で通信制高校とサポート校の両方に在籍する生徒にとっては、“通って学ぶ場”も提供し、日々の支援をしてくれるサポート校が実質的な“高校生活を送る場”になっているとみられる。つまり、法的には学校ではないのだが、実質的には学校のように機能しており、そのギャップがサポート校への理解を複雑なものにしている。内田氏は「実際にサポート校に通っている生徒や保護者の中にも、サポート校を学校であると誤解しているケースは少なくないのではないか」と語る。
不適切な運営実態が発覚、「サポート校の位置づけ」が明確に
年々存在感を増すサポート校だが、実は長らく文科省による法的な位置づけが不明確で、管理体制も整備されていない状態が続いていた。学校教育法の適用外にある民間の教育施設に対して、文科省が直接的な規制や指導を行うことは権限の範囲を超えるため、一般の学習塾等と同様に監督の対象外とされてきたからだ。
しかし2015年から2016年にかけて発覚した、ウィッツ青山学園高校の不祥事により風向きが大きく変わる。同校は就学実態を偽装して就学支援金を不正受給していた。さらに、同校のサポート校では土産物のお釣り計算を数学の授業とみなすなど不適切な教育も行われていた。これを受け文科省が全国の広域通信制高校に緊急調査を実施したところ、本来は通信制高校の教員が担うべき面接指導やテストをサポート校の職員が行っていたなどの不適切な運営実態が次々と明るみに出た。
これ以降、文科省は広域通信制高校に対してサポート校を含むサテライト施設数を把握するよう指示するほか、毎年抜き打ちの点検調査をするようになったが、「不適切な運営事例がなくなることはなかった」と内田氏は言う。
こうした流れの中、文科省は2021年に高等学校通信教育規程を一部改正し、サポート校を含むサテライト施設を「通信教育連携協力施設」として位置づけた。さらに同規程には、面接指導やテストを実施できるのは、実施校(通信制高校)のほかは分校や協力校(通信制高校に協力する他の高等学校)などの「面接指導等実施施設」のみであり、サポート校は学習面や生活面での支援を行う「学習等支援施設」であると明記されたのだ。このように各施設の役割が明確になるとともに、通信制高校には「連携協力にかかる活動について評価を行い、その結果を公表する」ことも義務づけられた。
■通信教育連携協力施設の類型

(出所)文部科学省「新時代に対応した高等学校教育に関する制度改正(令和3年)」参考資料
法改正後に起きた「JR東の通学定期券」騒動
さらに文科省は2023年に都道府県に対して法改正を踏まえた「通信制課程に係る私立高等学校の認可基準(標準例)」を通知、2025年度の学校基本調査からは通信教育連携協力施設(面接指導等実施施設、学習等支援施設、その他の施設)も調査対象に加えた。サポート校の法的位置づけと実態把握の枠組みが整ってきたのは、つい最近の話なのである。
内田氏は「文科省のこの10年の動きは堅実なものと考えられます。一方、あくまで示されたのは遵守すべき最低基準。これを土台に都道府県や各学校がしっかりと対応することが必要」と指摘する。
ちなみに、こうした制度面での整理が進む中で今春に起きたのが、JR東日本の通学定期券問題だった。これはサポート校の学校外施設としての位置づけが明確になったことを受け、同社が2025年4月よりサポート校を対象とした通学定期券の販売停止を決定したことが大きな議論を呼んだものだ。この決定に対して、サポート校に通う生徒や保護者などから多くの反対意見が寄せられたため、同社は方針を転換。引き続き2026年3月31日までは、サポート校も通学定期券の対象にすることにした。
「法改正によってサポート校は学校ではないことが明確になったわけですから、JR東日本が当初サポート校を通学定期券の対象から外すことにしたのは、法的には何ら問題はありません。とはいえ実態としてはサポート校が学校のように機能している中で、通学定期券が販売されないとなると、家庭の負担はさらに重くなります。最終的に通学定期券の延長を決定した今回のJR東日本の判断は、保護者や子どもに寄り添ったものとして評価できると思います」
誤解を招く広告も、「サポート校」を検討する際の注意点
文科省は、通信制高校に対しては「高等学校通信教育の質の確保・向上のためのガイドライン」も策定している。その中には、施設面などハードの整備に言及するほか、サポート校を含む通信教育連携協力施設に関して以下のような内容の指針が示されている。
●実施校が行う高等学校通信教育に係る授業料と通信教育連携協力施設が独自に行う活動等に係る費用の区別について、生徒・保護者に適切かつ明確な説明が行われるようにすること。
●通信教育連携協力施設において、実施校の名称のみを掲げた看板を設置するなど、通信教育連携協力施設が実施校であるかのような誤解を招くことのないように留意すること。
ガイドラインにこうした文言が盛り込まれたということは、これまで通信制高校の中には、サポート校があたかも「学校」であるかのように誤解を招く表示や説明を行っていたり、費用の区別を明確にしていなかったりするケースが少なからずあったということだ。
ではこのガイドラインにより、状況は改善しつつあるのだろうか。
「ガイドラインには現在のところ法的拘束力はありません。そのため実効性に限界があり、広域通信制高校やサポート校の広告などを見ると、いまだにサポート校が学校であると誤解させる表現が散見されます。必ずしも遵守されているわけではないと考えざるを得ません」
また内田氏は、「新たなタイプの施設が増えていることも、サポート校に対する子どもや保護者の正確な理解の妨げになっている面がある」と話す。
「繰り返しますが、サポート校の本来の役割は、生徒が通信制高校をスムーズに卒業できるように学習面や生活面での支援を行うことにあります。ところが学習支援よりも、例えばeスポーツやビジネス、ITといった分野の独自カリキュラムを強みにしたサポート校が近年目立っています。全体のカリキュラムの中で学習支援の割合が極めて少ない施設を、果たして『サポート校』と呼ぶのは適切なのか。むしろ文科省分類の『その他の施設』ではないか。制度上の問題はないものの、本来のサポート校の役割と実態にズレが生じ始めていることは、今後また別の混乱を招く恐れがあります」
不登校や高校中退によって進路を閉ざされかけた生徒や、全日制高校での学校生活が合わない生徒にとって、今や通信制高校とサポート校は未来への道を切り開くための重要な役割を担っている。だからこそ通信制高校とサポート校には、保護者や子どもたちを誤解させない透明性のある運営と正確な情報開示が求められる。
「読者の皆さんの中にも『通信制高校+サポート校』の進路を検討している方がいらっしゃるでしょう。しかしそれが唯一の選択肢ではありません。例えば不登校の方の場合、学校のある都道府県と隣県のみから生徒を募集している狭域通信制高校の中には独自に生徒に対して手厚いケアを行っている学校がありますし、多部制の定時制高校や全寮制高校もあります。そうした多様な選択肢の中から、制度を理解したうえで通信制高校およびサポート校の説明会や見学会にも足を運び、比較検討して『ここなら信頼できる。子どもを安心して通わせられる』と判断したのであれば、その選択は非常に力のあるものといえると思います」
(文:長谷川敦、注記のない写真:つむぎ/PIXTA)