たった一人で2300人の児童・生徒を受け持つ「栄養教諭」が抱えるジレンマ 塩分調整・アレルギー対応、学校給食は課題山積
食品ロスに農福連携、食料高騰と課題は山積み
給食は多くの子どもたちにとって、学校に通う楽しみの相当な部分を占める。そのため、健康や社会問題に配慮しつつも、何より子どもが喜ぶメニューであることが求められる。実際に栃木市では、食品ロスを減らしてSDGsを意識した取り組みと、ユニークなメニューとの両立が実現している。例えば、形が悪かったり熟れすぎたりして売り物にならない野菜・果物をペースト状にして、学校給食に活用している。
「給食用のジャムなどを販売する栃木市のタカ食品工業さんに、地元で採れたトマトやイチゴ、ブドウなどの加工をお願いしています。トマトピューレはパスタソースやミネストローネなど幅広く使えますし、イチゴやブドウのペーストはクリームサンドのほか、栃木のコメから作った米粉パンの生地に練り込んで出すこともあります。“いちご米粉パン”は子どもたちに絶大な人気があるんです」(中田氏)


また、「農福連携」(農業と福祉の連携)も積極的に行っている。障害者が働く施設でイチゴのヘタを取ってもらい、作業済みのものをタカ食品工業が買い取るのだ。これで“いちご王国・栃木”の地域活性にもつながる。
一方で、栄養教諭はその土地ならではの課題にも対応しなくてはならない。「栃木は海に面していない県なので、魚の値段が高いのです。似たような状況にある地域では、小さくて市場に出せない“未利用魚”を活用し、何とか給食費を抑えているところもあります」。
最近では食材や調味料が軒並み高騰している。1年の給食費内で、年度末最後の給食まで質と量を保ち続けるには相当なバランス感覚と緻密な計算が必要だ。
アレルギーの子どもは激増も、栄養教諭の数は変わらない
こうした献立作りや管理のほか、栄養教諭の業務はさらに食育の授業の実施や個別の食物アレルギー対応など多岐にわたる。現在中田氏は、小学校4校・中学校2校の計6校を担当し、食数で約2400食、約2300人もの児童・生徒を受け持っている。
「食育の授業をするにしても、担当する学校の数が多いと移動だけでかなりの時間がかかり、ほかの業務にシワ寄せがきてしまいます。また、個別対応が必要な食物アレルギーを持つ子どもは年々増えているのに、その責任を負う栄養教諭の数は一向に増えません。純粋に、栄養教諭や学校栄養職員が足りていないのです」
栃木市では県の基準に従い、各学校に栄養教諭と学校栄養職員を割り当てている。しかし、その多くが中田氏と同様に複数校を掛け持ちしている状況だという。「本来、栄養教諭も各学校に1人ずつ、専属で配置すべきです。市が独自に予算を組んで学校栄養職員を雇い、全校に配置している自治体もあると聞いています」(中田氏)