今年1月、中央教育審議会がまとめた答申では、義務教育9年間を見通した指導体制の構築、小学校高学年から中学校への円滑な接続、個別最適な学びのための専門性を持った教員によるきめ細かな指導、授業準備の効率化による教員の負担軽減などを目的に、小学校高学年からの教科担任制を2022年度をメドに本格的に導入する必要があると明記された。

だが、その具体像はまだ定まっていない。今年6月に行われた「義務教育9年間を見通した指導体制の在り方等に関する検討会議(第3回)」で示された論点メモ(案)を見ると、教科担任制導入は「短期的・長期的な二段構えで検討することが重要。短期的な取り組みの中で有効な取り組みを抽出し、横展開していくうえで、各地域の取り組みの中でどういった形態を長期的な国の標準として制度設計していくか実証すべき」という意見が記されている。

推進の仕方については、中学校のような完全教科担任制、特定教科で専科指導を行う教科担任制、学級担任間の授業交換、学級担任を含む複数教員でのティーム・ティーチング――の4分類から「定数措置で特定教科の教科担任制(専科指導の充実)の推進を図ることを中心に考えてはどうか」という議論が示されている。

中教審答申は、対象科目について、グローバル化やSTEAM(Science、Technology、Engineering、Arts、Mathematics)教育への社会的要請が高まる、外国語・理科・算数を例示。検討会議では体育を加えることが検討され、教員の高齢化や専門性の観点から対象教科に加える意見と、円滑な学級運営のために学級担任が担うべきという意見の両論があるとされている。

教科担任制推進に向けて、小学校高学年で外国語、理科、算数などで専科教員による指導を拡充していくというのが、これまでの議論の流れのようだ。各教育委員会も推進校を指定するなどして、先行導入を始めているが、国の標準的モデルが示されるのは、まだ先とみられる。

学校現場で情報を共有して意識を高めよ

小学校の教員採用倍率が過去最低の2.7倍と低迷し、35人への少人数学級化による教員の増員もあって予算の制約も強まる中、十分な数の優秀な専科教員を迅速に確保することは困難が予想される。

こうした状況下で、教科担任制の導入は広がっていくのか。元帝京大学・帝京科学大学教授で明海大学客員教授の釼持勉氏は「目の前の仕事に追われて、教科担任制導入への意識が薄い学校も多いが、学校が自ら考えて、来年4月の本格導入に向けて動き出す必要がある」と訴える。

教科担任制に期待されるメリットは、以下の4点が主に挙げられてきた。

1. 専門性の高い教員による高度な学習を含めた指導力向上と児童の学力向上
2. 複数教員の関与による児童の多面的な理解
3. 中学入学後の環境変化に戸惑う「中1ギャップ」の解消
4. 授業準備のための時間の確保と、準備作業の削減による働き方改革
明海大学 客員教授 釼持勉(けんもち・つとむ)
千葉大学教育学部卒。兵庫教育大学大学院修士課程修了。福島県立西会津高等学校、東京都文京区立明化小学校、北区立滝野川小学校、杉並区立高井戸第四小学校、荒川区教育委員会指導主事、教育庁指導部指導主事、東京都立教育研究所指導主事、東京都教職員研修センター統括指導主事、国立市立国立第七小学校長、小金井市立小金井第一小学校長、帝京大学教育学部初等教育学科教授、帝京科学大学教育人間科学部教授を経て現職
(写真は釼持氏提供)

専科教員の配置による専科指導拡充だけでは、きめ細かな指導、多面的な児童の理解といった教科担任制の目的が十分に発揮できるかという疑問もある。「導入する以上は、きちんと児童のためになるようにすべき」と釼持氏は語る。

釼持氏がアドバイスを行っている東京・江戸川区立第四葛西小学校(校長:永浜幹朗氏)は、区教育委員会から教育課題実践推進校に指定されて、今年度から学年内の担任教員と専科教員で教科を分担する教科担任制を3年生以上で実施している。

学活や体育、総合的学習、道徳などは学級担任が担当。音楽や図工などは専科教員、算数は東京都の小学校で従前から実施されている習熟度別少人数クラスが受け持ち、国語や社会、理科などの科目については学年の教員同士の調整で教科担任を決めている。

時間割は教務主任が作成したが、学年ごとに教科担任を決める調整などもあり、結局、約3カ月もの期間を費やしたという。釼持氏は「来年4月から教科担任制を導入するなら、時間割作成だけでも年内に準備を始める必要がある。年度末に教育委員会に届け出る来年度の教育課程(各校の教育計画)も含めれば、さらに早く始めなければならないだろう。学校規模に応じて教科担任制のあり方に配慮する必要もある」と話し、早急に啓発し、取り組むべきポイントを挙げる。

実践校、交換授業型校、未実施校、現状に合わせた進め方

まず、教科担任制の目的の学校全体での共有を進め、教員全員が当事者意識を持てるようにすること。児童の学力向上のためには、教科担任する科目の教材研究を深化させるとともに授業改善も行い、学力変化の検証の仕方を考えなければならない。また、児童の多面的理解のためには、1人の教員による学級経営から、学年の教員チームで指導する学年経営へ意識を変える必要があり、その効果や反省点を記録し、改善できるようにすること。中1ギャップ解消は教科担任制への児童の反応、適応困難が生じないかを把握する、とした。また、教科担任制実施に向けた業務が教務主任に過度に集中しないよう、学校全体で取り組むという意識を高める必要もある。

学校の現状に合わせた進め方のチェックポイントを、釼持氏は以下のとおりまとめている。

さらに将来的には、教科担任制が、人事や人材育成上の問題を引き起こすかもしれないと釼持氏は指摘。「このままでは、専門性などに対応できる力量のある先生だけが高学年を受け持つことになる。高学年を受け持つことを忌避する教員も出てきて、教員が担任する学年が固定化される」ことを危惧する。

国語、算数を中心とする文部科学省の全国学力・学習状況調査の学校別の成績は、自治体の判断で公表可能になっているため「調査対象科目の順位に責任を負うことになる教科担任を引き受ける教員がいるのか」という問題も生じる。

釼持氏は「どの先生も低学年から高学年まで担任できる力量を持てるようにするという小学校教員の人材育成の前提が覆れば、卒業生を持つことができなくなった先生や、小学校教員志望者のモチベーション低下が懸念される。かつてティーム・ティーチングのために加配を行ったにもかかわらず、低学年の指導などに加配教員が活用され、本来の目的が達成されなかったケースが多くあった。その二の舞いにならないように、前向きで円滑な教科担任制を運営できるように考えるべきだ」と話す。

(注記のない写真はiStock)