自分の頭に浮かんだ考えを客観的に問い直すのが「メタ認知」

──新学習指導要領の中では、メタ認知は「自分の思考や行動を客観的に把握し認識する力」と表現されていますが、もう少し詳しく教えていただけますか。

「認知」とは、頭を働かせること全般を指します。人の話を聞く、自分で話す、文章を読む・書く、考える、意味を理解するなど、私たちは一日中、目を覚ましている間は認知活動を行っています。

ところが、この認知活動はつねに適切に行われるとは限りません。記憶違いや思い違いなどはよくあることで、この認知の誤りを正す必要があります。

例えば、教員の皆様であれば「この教え方でみんなわかるだろうか。もう少し説明が必要ではないか」と自分自身に問い直すことも多いかと思います。あるいは、「今日はミスが多い」「Aさんの説明はわかりにくい。結論を先に言ってくれればいいのに」などと考えることもあるでしょう。

このように自分自身、あるいは他者の認知について考えたり理解したりすること、認知をもう一段上から捉えることがメタ認知です。自分の頭の中にいて、冷静かつ客観的判断をしてくれるもう一人の自分というイメージを描くとわかりやすいかもしれません。

メタ認知は、「メタ認知的活動」と「メタ認知的知識」に分けられます。メタ認知的活動には、「ここがよくわからない」などと自分で自分の認知状態を観察する「メタ認知的モニタリング」と、「説得力のある意見文を組み立てよう」などの行動へつながる「メタ認知的コントロール」があり、両者は循環的に働いています。

このメタ認知的活動の多くは、メタ認知的知識に基づいて行われます。次の表のように、米国の心理学者であるジョン・フレーベルは「人間の認知特性・課題・課題解決の方略」の3つに分類しました。

例えば「一度に多くのことを言われても覚えられない」という人間の認知特性を知っているからこそ「記録しよう」などの対策が考えられるわけで、自分が偏りのない判断をしたり他者に適切な指導をしたりするためには、メタ認知的知識が非常に役に立ちます。

──メタ認知の力を育むことは、子どもたち自身に、そして社会にどのようなプラス面をもたらしますか。

子どもたちが主体的に学ぶためには、先生から言われたことを言われたとおりにするだけでは不十分。学習者自身がメタ認知を働かせて、自分の学び方を問い直し、よりよいものにしていく能動的スタンスが必要です。

私たちはVUCAと称される変動性・不確実性・複雑性・曖昧性の高い世界に生きていますが、今後はさらに予測困難な時代になっていくと思われます。こうした世界では、従来の学力観は通用しません。もちろん基礎的な学力は大事ですが、それに加えより広い視野で物事を捉え、多様な立場や考えを尊重しながら挑戦していかなければならないのです。

自分だけの利益や目先の繁栄だけではなく、世界全体の持続的な、そして多面的な意味での幸せ、つまりウェルビーイングを実現するための賢さが、社会を構成する私たち1人ひとりに求められているわけです。

私たちは今まさに環境汚染や自然災害、資源の枯渇といった課題を突きつけられていますが、こうした課題解決のためには、判断や行動の主体がほかならぬ自分であるという意識が不可欠です。つまり、メタ認知を十分に働かせた判断や意思決定を行うことで、私たちは未来を生き抜き、社会そのものが健全な形で存続していくことになるのです。

「メタ認知」を活用した効果的な授業のコツとは?

──子どもたちが学力や学習意欲を高めていくために、教員はメタ認知を活用してどのように授業を行うとよいでしょうか。

自分のものの見方を絶対視せず、ほかの考え方ができないかを考えさせるという視点が重要です。具体的に4つのポイントをご紹介しましょう。

三宮 真智子(さんのみや・まちこ)
大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授、学術博士(大阪大学)
専門は、認知心理学、教育心理学。コミュニケーションや思考・学習に関する実証研究、教育開発を行っている。主な著書に『メタ認知 あなたの頭はもっとよくなる』(中公新書ラクレ)、『メタ認知で〈学ぶ力〉を高める 認知心理学が解き明かす効果的学習法』(北大路書房)、『誤解の心理学 コミュニケーションのメタ認知』(ナカニシヤ出版)など
(写真:本人提供)

1つ目は、お互いに教え合う「相互教授」を活用し、子どもたちの理解を確かなものにすること。わかったつもりでいても実際にはよくわかっていないことがよくあるので、自分の理解を確かめるよい機会になります。

2つ目は、「多面的な考え方」の習慣化。方法としては、自分で考えてから多様な考えに触れる機会をつくってあげると効果的です。実際、「IPE(Idea Post-Exposure)パラダイム」と名付けたトレーニングを用いた私の研究では、「これ以上は無理」というところまで考え尽くしてから他者のアイデアを聞くことが、多面的な原因推理力を伸ばすことがわかりました。例えば何かを考えさせるときは、子どもたちが考え抜いた後に、先生があらかじめ用意しておいた複数の考え方を提示してあげるなどが有効です。これは対面でもオンラインでも効果があります。

3つ目は、「討論」の場を通じて、ある主張に対する賛成・反対の根拠を吟味させること。私たちは自分の考えや信条に偏ったものの見方をする「マイサイドバイアス」に陥りがちで、そこから脱却するには自分と異なる意見を聞くことが役立ちます。また賛成・反対の立場は同じでも論拠まで同じとは限らないので、他者の意見がどのような論理に依拠しているのかを知ることも大切です。「自分の考え方を複眼的にしよう」というメタ認知的な目的を意識させてから討論に臨ませると、より効果的です。

4つ目は、「失敗事例」を分析させること。例えば「私はチョコとバニラのアイスを食べた」など2通りの意味に取れるような文や誤解を招きやすい発言などの例を提示し、どこに問題があるのか、どう改善すればよいのかを子どもたちに考えてもらう。説明力やコミュニケーション力を高めてくれる実践になるでしょう。

日頃から「メタ認知」を意識した声かけやサポートを

──メタ認知の力を育むため、教員は日頃からどのようなサポートをするとよいですか。

認知的側面から6つ、非認知的側面から3つほど要点があります。

認知的側面からいうと、1つ目は、メンタルブロックから子どもを解き放つ声かけを心がけること。「今さら勉強しても賢くなれない」と諦めている子がいるとしたら、人は勉強すれば賢くなれることを折に触れて伝えてあげる、ささいなことでも成長を感じられたら「ね! やればできるでしょう」と声かけをしてあげるなどしてほしいと思います。

2つ目は、発達段階に応じて学びのメカニズムを教えてあげること。例えば、小さい頃は意味がわからなくても繰り返しにより覚えてしまうことがありますが、ある程度の年齢になると既知の情報と結び付けて意味を理解したほうが情報の記憶の定着がよくなります。そういった記憶や理解の仕組みがわかるとメタ認知が働き、効果的に学習できるようになります。

3つ目は、学習特性を自覚させること。「自分は計算が速いけどケアレスミスも多い」など自分の特性を知ることで、長所を生かし短所を補った学びにつなげられます。

4つ目は、学習方略のレパートリーを広げてあげること。認知心理学を学ぶと、自分なりに意味づけして覚える「精緻化方略」などさまざまな方略を知ることができますので、ご興味があればぜひ勉強してみてください。

5つ目は、小学校低学年以下だと難しいかもしれませんが、前述のメタ認知的モニタリングを促すこと。先生の説明がよくわからないときにモヤモヤしたり、何かが腑に落ちて頭の中の霧がスーッと晴れたりといった感覚を自分で捉えられるようになると、自分の理解に対するメタ認知がうまく働くようになります。

6つ目は、学習の方法や時間、環境を改善するよう促すこと。「机の上に勉強とは関係のないものがあると、気になっちゃうから片付けたほうがいいよね」「すぐ勉強に飽きちゃう人は、何分かごとに休憩すると勉強がはかどるか試してみて」などと声かけをし、実際に体感させてみることが大事です。

──非認知側面の3つの要点は?

自分で自分をコントロールできるのだと知ることが大切です。そのためにまず1つ目は、感情や意欲が認知の産物であることを理解させること。やる気が出ない、不安、怒りなどの学びを妨げるネガティブな感情がどこから湧いてくるのかを理解させ、可能であればネガティブな感情のもととなっている出来事に対する捉え方、解釈を変えてみるよう導いてあげたいです。

2つ目は、自分の感情や意欲の傾向を理解させること。自分はほかの人より怒りっぽいとか、へこみやすいといったことに気づかせます。

この感情や意欲の傾向がわかったうえで、それをコントロールする方略を考えさせることが3つ目のポイント。怒りっぽい人なら一呼吸置く、ご褒美で頑張れる人は勉強が終わったら好きなお菓子を食べるなどの方略が考えられます。

「メタ認知」を働かせれば、忙しい先生も効率的な学びが可能に

──学校の先生も自ら学ぶことを強く求められている時代です。忙しい中で、メタ認知を活用して効率的に学習する方法はありますか。

まず、人間の記憶は眠ることで定着するので、睡眠時間を削って学ぶことはお勧めしません。そのため時間管理のポイントは、寝る直前を学習時間に充てること。学んだ後にテレビやスマホを見ると、後から入ってきた情報が優先的に定着されてしまうので、集中的に学び速やかに眠りましょう。

また、暗記ものは隙間時間を活用して覚えること。5分、10分といった細切れの時間に適した教材(単語帳や専門用語集など)を用意し、いつでも取り出せるようにしておくのがお勧めです。

環境管理のポイントは、学びを生活の中に埋め込むこと。テレビCMを繰り返し見ていると覚えてしまいますよね。この原理を応用し、覚えたいものを書いた紙を目につきやすい場所に貼り付けるなどしましょう。負担感のない学習法だと思います。

もう1つは、ノイズを排除して集中できる環境を整えること。机の上の散らかり、雑音、不快な温度・湿度といった環境は、学びの妨げになります。お子さんがいると難しいかもしれませんが、騒がしい時間帯は資料の整理などの単純作業をする、自分の学習スペースだけでもスッキリさせるなど、可能な範囲でも環境を整えると短い時間で効率よく学べます。

(文:田中弘美、注記のない写真:Fast&Slow/PIXTA)