「単Pの活動で手いっぱいでP連まで手が回らない」

「P連」とは、「PTA連合」の略。各学校のPTAは「単位PTA」=単Pと呼ばれるが、地域のP連は市区町村ごとの単Pを束ねる団体で、「○○市PTA連絡協議会」「△△区立小学校PTA連合会」「◇◇PTA協議会」など、地域により名称は異なる。

P連に加入する単Pは、P連の運営資金としてPTA会費の一部を分担金(地域により金額は異なるが、1児童もしくは1世帯につき年額10円単位〜100円単位が多い)としてP連に支払う仕組みになっている。

多くのP連は、「研修の開催などを通して単P同士の横のつながりをつくり、情報発信する」「学校横断的な声をまとめ、行政に伝える」などを存在意義に掲げているが、「役職が“輪番”で回ってくる」「目的不明の懇親会が常態化している」などの強制的、前例踏襲的な運営方法が疑問視され、近年、退会校が増加傾向にある。

市内に70の小学校がある東京都八王子市。同市の八王子市立小学校PTA連合会の加盟校は、2012年度は70校中46校(加盟率65.7%)。その後も年々減少傾向が進み、22年度の加盟校は、70校中39校。加盟率は5割強まで減少してきているという。

櫻井励造(さくらい・れいぞう)
2020年より、八王子市立小学校PTA連合会顧問。11〜16年小学校PTA会長、17〜19年八王子市立小学校PTA連合会会長。3人の子どもの父親
(写真:本人提供)

八王子市立小学校PTA連合会顧問の櫻井励造氏は、その背景について、「単に、P連の運営方法や、加盟することによる負担の大きさだけが問題なのではない」と分析する。

「P連を構成するのは、各校のPTA会長など本部役員であることが多いのですが、PTA会長や本部役員に初任者が多い場合、まずは自校のPTAを理解し自校のPTA活動と向き合うことが最優先となります。『単Pの活動に手いっぱいで、P連の活動にまで手が回らない』『P連なんかに関わっていられない』という切羽詰まった状況から、P連を退会するケースが多いのが実情です。また、単Pの皆さんのお仕事や私生活の状況は毎年変わるものなので、それに伴う部分もあるとも思います」という。

保護者のスポーツ大会は、参加校による自主運営に移行

櫻井氏は、10年度に八王子市の公立小学校でPTA副会長を1年務めた後、同校でPTA会長を6年間務め、17年度から19年度に八王子市立小学校PTA連合会会長を経て20年度から顧問となった。

豊富なPTA活動経験を通じ、「地域のP連のいちばん大切な役割は、“単Pの上部組織”ではなく “単Pの集合体”として、運営上の困り事の相談に乗ったり、支援を行ったりなど単Pの下支えを行うこと」と捉える櫻井氏。

P連会長時代は、P連本部やさまざまな事業における不要な確認、無駄な作業、非効率な運用を可能な限り排除しつつ、運用とそれに係る資料の簡素化を進めたのに加え、自らの発信を通して「P連は単Pを下支えする組織であること」という意識を浸透させ、単P会長やP連本部役員の“自分事化”に努めた。

オンライン化も推進し、Googleフォームを利用したWeb総会、Zoomによる定例会、ビジネスチャットツールLINE WORKSによる情報共有などを行ってきた。

さらに、ホームページをリニューアルし、活動内容や単Pの取り組み事例などを可視化。事業の具体的な実績や資料だけでなく、PTA活動で使える文例のテンプレートなどもわかりやすく掲載しており、八王子市内だけでなく、全国のPTA関係者から問い合わせが来るという。

八王子市内だけでなく、全国のPTA関係者から問い合わせが来るという八王子市立小学校PTA連合会のホームページ

「今年度は事業の簡素化、省力化をさらに加速させていく予定です。これまで連合会主催で運営してきた保護者のソフトボール、バドミントン、バレーボールのスポーツ大会は、参加校による自主運営に移行、子どもたちから募集し選考、表彰まですべての運営を担ってきた『川柳コンクール』は、地域の方を含めた希望者から協力を募る形で行います。

加盟校は減少傾向にあるものの、単Pの厳しい状況を打開できる“相談先”としてP連を利用してもらえるよう、発信を強化していきたいですね。せっかくP連に携わってもらうなら、負担が少ない前提で、関わった単Pの会長や本部役員が単純に楽しむことができる事業やメリットのある事業を展開し、そのノウハウや情報を単Pに持ち帰ってもらって、自校での活動に生かしてもらいたいと考えています」

地域のP連には上部団体が存在する。それが「日P」こと公益社団法人日本PTA全国協議会だ。日Pは、都道府県や政令指定都市の組織で構成、その下に市町村や学校単位の組織が連なり、活動規模人員は約800万人いる。

PTA活動の意義などの広報、教育分野などの調査・研究、課題を国に提言するなどを活動内容に掲げているが、実際にどんなことを行っているのか不透明な部分も多く、毎年各地域が持ち回りで担う「全国大会」については、その存在意義を疑問視する声も聞かれる。

「八王子市立小学校PTA連合会は、上部組織である東京都小学校PTA協議会(都小P)には加盟していませんので、日Pともつながっていません。単Pにいちばん近しい存在である、市区町村のP連が下支えするミニマムな組織として、有益な活動をすべきであると考えています」(櫻井氏)

P連は、単Pを支えるための組織

「P連は、単Pを支えるための組織。単Pにとって役立つ組織でないと意味がありません。今最も求められているのは、単Pの活動のスリム化や適正化を後押しし、保護者が安心して参加できる組織となるよう、P連としての方針の作成や、オンラインなどシンプルな形で単P同士の情報共有、課題共有ができる仕組みづくりだと思います」と言うのは、21年度に京都市PTA連絡協議会会長を務めた大森勢津氏だ。

大森勢津(おおもり・せつ)
2021年京都市PTA連絡協議会会長、20〜21年京都市小学校PTA連絡協議会会長、19年より、小学校PTA会長。2人の子どもの母親
(写真:本人提供)

京都市には幼稚園、小学校、中学校、高等学校、総合支援学校の5つで構成されるPTA連絡協議会=P連がある。

これらの学校・園を束ねるのが、京都市PTA連絡協議会=市P連だ。京都市では、夜間中学や定時制高校など、PTAを組織していない学校を除く全市立学校(総数252)が市P連に属している。

大森氏は市内の公立小学校で19年からPTA会長を務め、今年で4年目を迎えるが、20〜21年度は小P連の会長も務めた。21年は市P連、小P連、単Pの3つの会長を兼任したことになる。

「正直しんどかったですが、自校のPTA会長として、委員さんの数を減らしたり、やりたい人やできる人が手を挙げてできる体制へと改革するうえで、P連にどうあってほしいか、という当事者の視点をつねに持つことができました。単Pとしては、P連関連の負担は減らしてほしい、単Pだけで改革するのは難しいので、方針を示してほしい、情報が欲しい。それをかなえることが、市内のすべての単Pの底上げにつながる、という信念を持ってP連の活動に取り組みました」

コロナ禍のため、ICTを用いて、会員のニーズに応じた仕組みづくりに力を入れた。ハード面の整備に始まり、Zoomなどのオンラインツールを利用して会場とのハイブリッドでの会議や、「ブレイクアウトルーム」に分かれての小グループでの情報交換会を行った。

研修会は、動画をYouTubeで配信し、期間内であれば、いつでも視聴可能にした。「PTAしんぶん」には、先進的なPTA活動の事例を掲載したり、市P連のホームページをリニューアルし、Zoomの使い方が簡単にわかる動画を掲載するなどオンラインに慣れない保護者に配慮した。FacebookやTwitterなどSNSによる情報発信なども積極的に行った。

各PTAの改革例をはじめZoomの使い方や研修会の動画配信なども行う京都市PTA連絡協議会のホームページ

「単Pの底上げのためには、学校の協力も欠かせません。京都市P連は、教育委員会といわば車の両輪で運営を進めています。また、市P連は校長会からの代表が役員の半数を占め、理事の半数弱が校長先生方なので、全市のすべての校長先生方にPTAの適切なあり方について理解を深めていただくよう働きかけていくことも大切なのではないかと考えています」

京都市には、市内各校の保護者約6万5000人に対して一斉配信できる「京都市PTA・学校幼稚園メール配信システム」が存在する。

「課題共有という意味では、20年のコロナ休校の際、メール配信システムを利用し、臨時休業期間中、教育活動再開後に心配なことや必要だと思うことについてGoogleフォームでアンケートを行いました。2万件を超える回答が集まり、集計結果を教育長に届けました。P連には、“保護者の思いを伝える受け皿”としての役割もあると思います」

都小Pに先駆け上部団体「日P」からの退会を提案

つい先ごろ、都小Pが総会にて日P退会を決議し、話題となっている。これに先駆け、22年3月に大森氏は市P連の理事会で、これまで加盟していた日Pからの退会を提案した。

「都小Pさんと課題意識はまったく同様。財政難の市からの補助金が削減される中、日Pへの年84万円(21年度)の会費負担が重いこと、PTA会員の意見を広く吸い上げ国に伝えるとともに、課題を共有し共に歩むという全国組織としての役割を果たせていると思えないこと、毎年約8000人を集める全国大会や運営方法などをめぐって課題があるのに、改善を求めても応じられなかったことなどが主な理由です。今は、コロナ禍の影響を受けたPTAを、新しい形で再起動する必要がある重要な時期。京都市は、“上”ではなく、市内のPTAをしっかり見て支援することにお金と労力を使っていきたいと考えました」と、大森氏。

都道府県や政令指定都市のP連が日Pを退会した例はこれまでになかったため、京都市P連の一連の動きは、メディアで大きな話題となった。

同年5月、京都市P連理事による投票を行った結果、わずかな賛成しか得られず、日Pからの退会の提案は否決。「残念な結果となりましたが、課題を全国で共有する役割は果たせたのではないかと思います。これを機に、P連や上部団体の存在意義についての議論が深まってほしいと思っていたところ、都小Pさんの動きがありました」。

都小Pの総会では、圧倒的多数の賛成により、退会提案が可決された。

「京都市とは、採決結果が正反対となりました。退会提案が否決されたことに対し、市内でも違和感を感じた関係者も多かったように思います。京都市P連の理事の判断には何が影響したのか。対照的な結果の原因。そこに、全国に共通する、“変われない”PTA問題解決のカギがあるのではないかと考えます」

半強制加入に輪番制、時代と逆行するP連に“反旗”

「単P以上に参加のモラル(士気)が低いのに、負担だけは多大なままのP連。このままではうまく回るはずがない」と言うのは、東京都世田谷区の公立小学校で18年から20年の3年間PTA会長を務め、その活動記録や所感を書籍『政治学者、PTA会長になる』に記した岡田憲治氏だ。

岡田憲治(おかだ・けんじ)
2018〜20年、世田谷区の小学校PTA会長。現在は、地域学校運営委員。22年2月『政治学者、PTA会長になる』(毎日新聞出版)を出版。2人の子どもの父親
(撮影:尾形文繁)

岡田氏がPTA会長を務めた小学校は、世田谷区立小学校PTA連合協議会(世小P)に属しているが、「そもそもの問題は、P連から単Pに、加入の意思確認を行わない慣例が続いていること。つまり憲法違反です。区内61の小学校が8つのブロックに分けられ、ブロック代表の役割が輪番制で回ってくるのですが、半ば強制を伴う輪番なら『意思確認』が必要です。

しかし、ブロック代表に当たった単Pは、本部役員1名がP連の役員として駆り出されるうえに、その仕事内容はP連が決めるというのです。会長3年目のときにブロック代表が回ってきたのですが、年間20回の平日開催の会合に出席を求められる、まったく時代と逆行したような役に対し、無理やり人を立てるのは理不尽だと感じました。代替案として、3人の役員を連名で『世小P担当』とし、都合のつく人が交代で出席する旨を伝えました」という。

子どもが所属するスポーツクラブやPTA活動に関わり、人望の厚さから、18年に他薦でPTA会長に就任した岡田氏。前任のPTA会長から「引き継ぎに5時間かかる」と膨大な資料を渡されたときは、呆然としたという。

「PTAは、自分たちで考え、自分たちでどうするかを決められる任意団体なのだから、これまで引き継がれてきたものを無理して続けていく必要はない」と、役員の声を聞きながら、運動会に訪れた来賓へのお茶出し廃止、地域の先輩方をもてなす会のスタイル改善など、ルールや習慣を少しずつ変えた。

また、新入生の保護者を中心に、

「PTAには、仕事はありません。活動があります。企業じゃないですよ」
「PTAには、目の前の子どもたちの命を守ることとお金の管理以外に失敗はありません」
「PTAは、生活の延長にあります。家族の暮らしを優先してください」

などと発信を続け、これまでのPTAを覆っていた義務感、強制感、前例踏襲感の払拭に努め、“空気”を変えた。PTAを学校や教育委員会の「下部機関」だと誤解している人が大量にいるからだ。

P連の役割は、“地域密着を機能させるために油を差す”こと

「単Pで、風通しのよい、参加しやすい風土をつくれば、質の高い意見や優れた意見が出始め、持続可能な組織となっていきます。核家族化、少子化が進む現代、地域の力が弱っていて、学校の先生も疲れています。単Pは、学校と地域を応援する組織であり続ける必要があるからこそ、P連は、単Pが横でつながり、各校がどのような運営でこの難局を乗り越えようとしているのか、そのアイデアを紹介し合う場をつくり、“地域密着を機能させるために油を差す”役割に特化すべき。慣例的な“充て職”などで、単Pの活動の邪魔をしてはいけないと思うのです」と、岡田氏は言う。

P連とは、何のためにあるのか。岡田氏は、単Pのリーダーとして抱いた問題意識を他校のブロック代表会長らと議論を重ねて、「次年度以降の世小P活動に関する提案事項覚書」としてまとめ、

・ 輪番制を廃止し単Pの保護者の物理的・精神的負担を軽減
・ P連も「任意団体」であることの認知の徹底化と、入会の「意思確認手続き」の明確化
・ 役員選考制度の見直し(ルールの明確化)
・ スポーツ大会や活動への「役員関与」の縮小(自主運営化)

などを提案。この提案が役員会に等閑に付されたため、志を共有する仲間とともに変革していくことの必要性を感じ、世小P会長選挙に推され立候補したが、1票差で落選した。

さらに、「連合には、“声を束ねる”という意味もあります。日Pなどといった『自称上部団体』の活動に目を向けると、全国大会を開催して“人員”を束ねてはいますが、声を束ね、国の文科政策に対して集約的提言をしているとは到底言えず、各政党に窓口もありません。つまり統括団体の役割を果たしていません。何のための『連合』なのか。目的があいまいな中で前例踏襲を続けても、名誉役職の供給とそのための形式的な運営だけが残り、地域に不幸が繰り返されるだけなのではないでしょうか」と言う。

三者三様の視点から見えてきた「P連」の役割とはーー。地域のP連は、単P同士が横でつながり、情報共有、課題共有しながら単Pや地域を元気にしていくこと、県P連や日Pといった上部団体は、その目的を改めて見直し、今の時代に合った運営方法を考慮する視座が求められているといえる。

(企画・文:長島ともこ、注記のない写真:NOV / PIXTA)