運動会のパトロールや「子ども安全マップ」の制作を外注
「PTA会長に就任してから、保護者の負担軽減を目的に、活動の一部を外注できないかと考えていました」と言うのは、兵庫県姫路市立荒川小学校でPTA会長を務める三木貞徳氏。20歳から小学3年生まで3人の子どもを持つ三木氏は、いちばん上の子どもが小学5年生の時に本部役員を務めた後、2014年度から16年度、2期おいて19年度から再び同校PTA会長に就任した。今年度で7期目を迎える。
「就任当初は、『これまでの活動のやり方を変えないことがラクな道』と思う部分もあったのですが、続けるうちに全体を見渡せるようになり、PTAが抱えすぎていると思われる部分が見えてきました。これらをそぎ落とし、忙しい保護者の負担を減らしていく必要性を痛感したのです。その方法として思いついたのが、PTA活動の外注です」
初めて外注したのは、19年。荒川小学校PTAでは、運動会のパトロールを地元の警備会社にお願いしたという。
「それまでは、保護者から運動会のパトロールのお手伝いを募り、PTA本部役員が、自分の子どもの出番がパトロールの時間と重ならないようスケジュールを割り振って交替しながら行っていました。しかしこの方法だと、準備も当日も大変ですよね。そこで、運動会当日、6名の警備スタッフを雇うことにしました。費用は1日で4万円弱かかりましたが、全保護者が何の縛りもなく、子どもの運動会参観を楽しむことができるようになりました」
さらに同校PTAでは、SNSを通じてPTA活動の外注に関するサービスを知り、21年に登校班の区別や学区内の危険な箇所、「子ども110番」のお宅の場所、不審者の出没場所などをまとめた「子ども安全マップ」の制作を、横浜市のデザイン会社と印刷会社にオーダーした。
「それまではPTA役員を中心に、PTAで無償で請け負い、ソフトウェアを使って苦労しながら作っていたのですが、とにかく制作に時間を取られてしまいまして。外注により手間が省け、プロのデザイナーに依頼したことで仕上がりもよく、より見やすくわかりやすい地図になったと思います。この地図をクリアファイルに印刷して全児童1200人に配ったのですが、地図記号も入れてもらったことで、社会の授業にも使われたりするなど、学校にも子どもたちにも喜んでもらえました」
費用は、デザイン制作費と印刷費を合わせ、15万円未満で収まったという。
「PTA全体の予算から考えると、決して高い金額ではないと思います。このデータを基に、次年度以降は地図上の変更点を伝えるだけで毎年役員の手を煩わすことなくリニューアルできますし、引き継ぎの際も非常にラクになると思います。PTA活動を外注することによりコストは発生しますが、保護者の負担やストレスを考えるとベストの選択といえると思っています。コロナ禍が続き、役員さんや委員さんが対面で集まる機会が減っていますが、よりよいPTAにしていくためには、知恵を出し合うことが大切です。行事などでみんなが集まるときに短時間残るなど、“ついで”の時間を活用しながらコミュニケーションを図っていきたいですね」
外部団体の力を借り保護者向けのオンライン講演会を開催
PTA役員・委員の負担が大きい活動として挙げられるのが、PTA主催の保護者向け講演会や勉強会の開催だろう。
毎年恒例となっているPTAが多いものの、「いつ、誰を呼び、どのようなテーマで話してもらうか」など決めるべき事柄が多く、講演会担当役員の苦労話をよく耳にする。
中でも難航するのが「誰を呼ぶか」という人選であるが、富山県富山市立新庄北小学校PTA会長の酒井舞子氏は、インターネットを利用し講師を探す手間と負担を削減。少ない労力で、オンラインによる親子向け講演会を実現させた。
「毎年2月にPTA主催の講演会を開催していました。それまで、地元の教育やスポーツに関わる有名な方にお願いして対面で行っていたのですが、20年度はコロナで中止。21年度も新型コロナの流行が続いていたので『今年も中止にしようか』という意見も出たのですが、学校とも相談し、『オンラインで開催する方向で準備してみよう』ということになりました。このように決まったのが、21年の11月。翌年2月開催となると、地元の有名な方で探すには時間がないし、ピンとくる方もいない。どうしよう……と思いつつ、インターネットで調べることにしました」(酒井氏)
「PTA オンライン講座」で検索したところ、PTA保護者向けのオンライン講座や講演会の企画・運営をサポートする団体の存在を知った。問い合わせたところ、お薦めの講師を何人か紹介されたという。
「食育、子どものお金教育など保護者が興味を持ちそうなさまざまなジャンルの登録講師の方を、紹介いただいた中から頼みたい方に直接お願いすることができるのです。講師料も良心的で安心しました。PTA役員、学校と相談し、この団体のサービスを利用することに決め、英語講師の女性に『どうなる?これからの英語教育 〜これから子どもたちに求められる英語力とは?〜』というテーマでお話しいただくことにしました。土曜日の午後に開催したのですが、学校がオンライン開催を全面的にサポートしてくれ、子どもたちに配布されているChromebookを活用し、約60組の親子に視聴していただくことができました」
学校と対話を重ねながらPTA活動を外注し、GIGAスクール時代に即した保護者向けのオンライン講座を実現した好事例といえる。
「この企画の成功を機に、PTA本部内でも、『PTA総会の資料の印刷や製本を外注できないだろうか』など、負担軽減のための議論が活発に行われるようになりました。学校と話し合いながら、新しいアイデアを検討していきたいですね」
PTA活動の外注を支援するサービスも登場
こうした外注先を探しているPTAを支援するサービスが、注目を集めている。
「PTA’S(ピータス)」は、合同会社さかせる代表・増島佐和子氏が、保護者の負担軽減や誰もが参加しやすいPTAの実現を目的に20年11月にリリースしたマッチングサービスだ。
「PTAはもっとラクちんでいい」をコンセプトに、印刷・清掃・クリーニング・行事の警備やサポート・備品レンタル・デザインや撮影など、これまで保護者が行っていたり、やみくもに業者を探していた業務を業種やエリアから対応可能な企業を検索できる。登録企業は、PTA'S(ピータス)の審査基準を満たすもののみを掲載している。PTAは登録料・利用手数料無料で、22年3月現在、全国で420のPTAが登録している。
情報共有ツール「kintone」 を提供するIT企業サイボウズと協同開発した『PTA専用アプリパック』、母親の在宅ワークを斡旋するCapybaraと共同開発した『PTA’Sで書記代行』など、独自のサービスも展開している。
一方、「ファミリード」は、一般社団法人ファミリードの代表理事・星谷みよ子氏と理事・亀谷さおり氏が20年6月にリリースしたPTA役員・委員向けのPTA講演会開催支援サイトだ。
食育・マネー教育・英語教育などさまざまな分野の認定講師の中から希望に合う講師を探し、直接依頼することができるのに加え、保護者への案内状や講師への依頼状、当日進行表などのテンプレートのダウンロードも可能だ。
学校行事の警備やオンライン化で企業の手を借りることも
企業の力を借りることもできる。セキュリティー大手のALSOK(綜合警備保障)では、運動会をはじめとする学校行事の警備や防犯にも対応する。
「当社はもともと学校との契約も多く、児童生徒の登下校や学校行事の際に警備員を配置させていただくこともあります。PTAさんから運動会など学校行事の際には、スポット的に警備のご依頼をいただくケースもあります。
16年12月より、ガードマンや警備になじみのない方、初めて手配を検討される方でも気軽に見積もりやガードマンの仮予約・契約ができるWebサイト「ALSOK ネットdeガードマン」をリリースし、Webからの申し込みにも対応しています」(営業総括部 常駐・綜管営業室 業務推進課 課長 岩崎幸弘氏)
「ALSOK ネットdeガードマン」では、警備カテゴリーや契約の流れ、導入事例などがイラストなどでわかりやすく提示されており、外注する際のイメージが湧きやすい。
「もちろん、電話によるお問い合わせもフリーダイヤルで対応しています。電話の場合もWebの場合も、お申し込みを受けた時点で最寄りの弊社営業の担当者が現地にお伺いし、PTAのご担当者様と警備員の業務内容、人数や時間を事前に打ち合わせしたうえで、業務を実施します」(営業総括部 常駐・綜管営業室 業務推進課 課長代理 佐藤祐二氏)
「ネットdeガードマン」ではサイト上で希望条件を入力することで見積りも出せる。価格は1時間あたり5,000円(税別)から。
保護者でなく制服を着たガードマンが会場にいることで、「顔見知りの保護者に、観覧席以外からの撮影や駐輪の注意をしづらい」といった悩みが解消されるのに加え、防犯効果も上がったという声も聞かれるという。
コロナ禍により対面で集まる機会が減る中、オンライン化に着手するPTAをサポートする企業として知られているのが、グループウェア「サイボウズOffice」やクラウドサービスの業務改善プラットフォーム「kintone」などで知られるIT企業のサイボウズだ。
「チーム応援ライセンス」では、PTAやNPO法人などの任意団体に向け、これらのツールを年額9900円(税別)で提供している。導入に向けアドバイスを受けることもでき、PTA活動のオンライン化に向け導入を検討するPTAも増えてきている。
PTAは、「子どもたちの健やかな成長」を目的として活動する団体であるのに、負担が大きい部分があるがゆえに、仕事や家庭とのバランスの取り方に悩む保護者も少なくない。
活動をいま一度精査し、自分たちでできることは手分けしてこなしつつ、
・ 運動会のパトロールなど、これまで慣例的に保護者が請け負ってきたが、準備や当日の運営など保護者の負担が大きいと思われる活動
・ 交通安全や防犯を目的とした子ども安全マップの制作など、プロに任せることでクオリティーが上がる活動
・ PTA講演会の講師選定やオンライン化、IT導入など、専門的な知識や情報が必要な活動
などは、PTA本部と学校が対話を重ねながら「外注」を検討、実践することが、保護者の負担軽減、参加しやすさにつながっていくのではないだろうか。
(企画・文:長島ともこ、注記のない写真: Fast&Slow / PIXTA)