後悔しない「受験プランの立て方」3つのポイント

西村創(にしむら・はじめ)
教育・受験指導専門家
早稲田アカデミー、駿台、河合塾Wings、栄光ゼミナール、明光義塾などで25年以上の指導歴がある
(写真は本人提供)

最初に受験プランの立て方を紹介します。受験プランは受験の流れを左右します。例えば初めて受けた学校が不合格だった場合、「これから受ける第一志望に受かるわけがない」と落ち込む子もいれば、「受験は甘くない。第一志望の受験日までもっと勉強しないと」と腹をくくる子もいます。

子どもの力を存分に発揮させるために、どんな受験プランを組むかを考えるのは、親の重要な役割の1つです。もちろん、塾からも併願パターンに関する資料が配られたり、個別面談で受験プランを提示されたりします。でも、最終的にどれを採用してどうアレンジするか決めるのは塾ではありません。わが子の性格をいちばんよくわかっている親御さんが、お子さんとよく話し合って組んでいきましょう。

受験プランを組む際の基本的な考え

①早い入試日で合格できる学校を受験する

まずは、受験日が早くて無理なく合格できそうな学校の受験をおすすめします。成績上は余裕で受かるとわかっていても、模試ではなく本物の受験で合格をもらえたという事実は、自信と安心につながるものです。また受験本番の緊張感に慣れておけば、その後に受ける学校で想定外の事態が起きても、落ち着いて対処できる可能性が高まります。

②入試傾向が異なる学校を選びすぎない

次に、入試傾向があまりに異なる学校はなるべく選ばないことです。傾向が異なる学校を複数受けるとなると、その分タイプの違う過去問をやり込まなければならず、時間がかかります。可能な範囲で入試傾向が近い学校を選ぶとよいでしょう。同じ学校を複数回受験するというのもおすすめです。同一校を複数回受けると、合否判定の際に加点してくれる学校や、受験料を割引してくれる学校もあるので、調べておきましょう。

③受験プランを複数用意し、先に受験した学校の合否次第で後の受験校を決める

A校に合格できたら、つぎに受験する学校はB校とC校、不合格だったら、つぎに受験する学校はD校とE校……というように、特定の学校の合否によって、その後に受ける学校の選択が枝分かれしていくプランをシミュレートします。最悪のシナリオを想定してプランを考えておくことで、入試期に慌てずに済みます。

また受験校を検討する際は、合格可能性80%偏差値の表だけでなく、合格可能性50%偏差値の表も見ておきましょう。学校によって、合格可能性80%偏差値と合格可能性50%偏差値の差が1ポイントしかない学校もあれば、5ポイントもある学校もあります。80%偏差値が同じ学校でも、50%偏差値表で比べると差が出るケースがあり、この偏差値の幅が広いほど、合格できるチャンスも大きいということです。

第一志望校の過去問は「10回分」、解き方と復習の仕方

次に、入試過去問の解き方と、復習の仕方についてお伝えします。

入試過去問の解き方

「過去問を何年分解けばいいのか」は、受験生の保護者がよく悩まれることでしょう。第一志望の過去問については「10年分」が一般的とされますが、ここで注意したいのが、「10年分」とは10年間の過去問を解くのではなく、「10回分」を解けばよいという点です。学校の中には、1年のうちに2回目入試、3回目入試を設けているところがあります。そのような学校は、例えば直近5年間の1回目入試と2回目入試を解けば十分です。また、まったく同じ過去問を3回解いても、3年分とカウントすることができます。5年以上前になると問題の傾向が変わっている可能性が高いので、あまり遡って解く必要はありません。

「第一志望の過去問は10年分」というのはあくまでも一般論です。過去問はその学校の出題傾向をつかむには最適な教材ですが、別の見方をすれば「本番では出ない問題」ともいえます。必ずしも10年分解かなくても対策不足にはなりません。自分の点数とその年の合格最低点とのギャップが大きかった場合も、さらに過去問を数多く解くより、浮かび上がった理解不足の単元を塾のテキストや市販教材で復習するほうが合格に近づきます。

なお、お子さんにはあらかじめ、「第一志望に近い学校の過去問で合格最低点とのギャップが大きくても、ショックを受けないように」と伝えてください。そもそも、過去問の得点が年内に合格点を超えることはまずありません。最低点とはいえ、過去の受験生が入試当日に取った点数ですから、入試の数カ月も前にはなかなか取れませんからね。

第二志望以下の学校についてもお伝えしておきましょう。第二志望の過去問は5年分、第三志望以下の学校は3年分を解くのが一般的です。これもあくまで目安なので、もっと少ない回数でも問題ありません。大事なのは解いた年度の多さではなく、過去問を解くことでその学校の出題傾向をつかむこと、そして理解不足の単元を浮き彫りにすることです。

入試過去問の復習の仕方

次に、過去問の復習の仕方についてです。目的は、志望校合格と現状のギャップを数値化して本番までの学習計画に反映することです。まず志望校の合格最低点から、自分の過去問の点数を引きます。例えば、志望校のある年の合格最低点が、4科目400点満点中250点だったとしましょう。合格最低点が公表されていない時は、満点の6~7割とします。その過去問で自分が150点だった場合、合格最低点と現状の点数差は100点です。この100点を、4科目それぞれにどう割り振るかを決めます。
具体例として、過去問で取った合計150点の内訳が、

算数 50点
国語 30点
理科 40点
社会 30点

 

だった場合、あと100点を取るには平均して各科目25点アップしなければなりません。しかし、入試問題で50点を75点まで上げるのは結構大変です。それであれば、30点を60点まで上げる方が比較的楽です。というのも、偏差値50ほどの学校の入試問題は、その6割程度が基本的な知識の組み合わせで解ける問題だからです。

そのため、一般的には得意を「超得意」にするより、超苦手を「やや苦手」くらいにするほうが現実的です。とは言え、「社会はもう30点でいい、その代わり何がなんでも算数で80点取るんだ!」と強気に攻めた姿勢で勉強するのもアリです。大事なのは、入試本番までに各科目あと何点ずつ上乗せするか、そのために何をどう勉強をするのかを決めて、行動に移すことです。

冬休みや入試直前期の学習方法と過ごし方

冬休みと直前期の学習

最後に、入試に向けた冬休みと直前期の過ごし方についてです。多くの子は、冬休みは塾の冬期講習に参加すると思います。中には、正月特訓や冬期講習のオプション講座を検討している方もいるでしょう。ただし、小6の冬期講習や正月特訓、年明けからの志望校対策講座は、実は必ずしも受講したほうがいいというわけでもありません。受験を終えた保護者からは「冬休みから直前期は無理して塾に通うより、家でわが子に合った勉強をやらせればよかった」という声も少なくありません。塾に通うことで、志望校の過去問対策や理解不足の単元の復習がままならなくなるのであれば、自宅学習に専念したほうがよいでしょう。一方、塾の講座を受講したほうがよいのは、自宅だと勉強があまり進まない子や、志望校の入試過去問対策がある程度計画通りに進められている子です。

冬休みと直前期の生活

また、「入試本番に備えて、朝型の生活に切り替えていったほうが良いか」という相談もよく受けます。もちろん、無理なく朝型に切り替えられるのであればそれがベストです。

とはいえ、朝が苦手な子は一定数存在します。人間の生活リズムや、朝型/夜型は遺伝子で決まっていると言われており、必要な睡眠時間にも差があります。夜型の子が無理に早く起きても、日中の眠気で集中力はかえって落ちてしまうでしょう。

生活リズムや睡眠時間には個人差があるため、無理をすればむしろ日中の集中力が落ちてしまうことも
(画像:miyuki ogura / PIXTA)

そこで、生活リズムを強引に変えようとはせず、お子さんの過ごしやすいようにさせて勉強に集中するほうを優先させるのがよいと思います。入試本番が心配かもしれませんが、大丈夫です。受験当日は気分が高揚するので、覚醒して集中できるはずですよ。

入試直前期で最も大切なのは、気持ちよく入試に向かうために、これまでどおり過ごすことです。昨今の入試では、書かれている情報を読み取って深く考えたり、発想を広げたりすることが求められています。睡眠時間を削って知識を詰め込んだり、パターン演習をくり返したりすれば合格できるものでもありません。親としては、勉強量を増やしてラストスパート……といきたいところかもしれませんが、お子さんの体調やメンタルの安定を優先したほうが、むしろ合格に近づくと思います。入試本番でお子さんが力を出し切れるよう、応援しています。

(注記のない写真:タカス / PIXTA)