コロナ禍で大阪の志願者数減、兵庫の志願者数増の理由

中学受験の志願者数は、景気の動向に時間差で左右されるといわれる。

首都圏では、2015年ごろまで景気の影響を受けて志願者数が減少傾向にあったが、そのあと景気が上向くにつれて増加に転じ、来年も増加傾向は変わらないとみられる。では、関西圏の動きはどうなっているのだろうか。CLUMPON代表の萩原渉氏は次のように語る。

「関西では入試解禁日が毎年変わるのですが、ここ数年ほぼ横ばいの状況が続いています。今年も初日の志願者数、出願率ともに微減となったものの例年並みでした。新型コロナウイルスの影響について言えば、大阪の学校の志願者数が減り、兵庫の志願者数が増えましたが、これは兵庫在住の子どもが大阪の学校を受験しなかったことが影響しているようです。おそらくコロナ禍で通勤ラッシュを避けるためだと考えられます。そのため、神戸市の西半分から、加古川、姫路などの播磨地域の学校では全般的に志願者数を増やしています」

関西圏では、小学校6年生の児童のうち10%程度が私立中学校を受験するが、全体的にはどのような傾向があるのだろうか。

大阪、京都、兵庫を見ていくと、伝統的な有名進学校に大きな変化はないという。地域別では大阪は共学が人気。京都は男子校の人気が振るわない一方、女子校の人気は健在だ。兵庫は伝統的な男子校、女子校ともに人気を維持している傾向にある。

ただ、大阪は北野高校、天王寺高校をはじめ、進学実績で私立高と比肩する公立進学校の人気が依然として高いという。一方で、公立中を敬遠する人も多く、中学3年コースを持つ私立校が存在するのも大阪の特徴だ。私立では、男子は大阪星光学院、女子では四天王寺が人気。また、大阪は優秀な生徒が地域に分散しており、兵庫・奈良方面に進学する生徒も多い。奈良では東大寺学園西大和学園の人気が高いという。

兵庫と京都は、進学実績で私立校が群を抜いている。中でも関西圏で飛び抜けた存在である兵庫の灘高等学校の付属校である灘中は別格だ。京都は洛南高等学校附属洛星などが伝統的に人気が高い。

兵庫では、かつて西宮、宝塚、尼崎の地域で長らく総合選抜制度が敷かれ、成績順に高校が割り振られていた。進学先を自由に選べなかったことから、私立に生徒が流れる傾向が始まり、これらの地域を起点として中学受験の人気が高まった経緯がある。ただ、最近では兵庫の神戸大附属中等教育学校のほか、京都の高校では堀川高校、西京高校、洛北高校などの国公立の進学校が巻き返しを図っている。

どうなる?関西中学受験2022志願者動向

では、こうした傾向を踏まえて、22年の志願者動向はどうなるのか。ここは首都圏の動向と同じく、中学受験は小学校3年〜4年に準備を始めるため、来年も志願者数に大きな変化はなく、ほぼ横ばいの見込みだと萩原氏は話す。

萩原 渉(はぎはら・わたる)
CLUMPON 代表
『ミライノマナビ』編集長
(写真:本人提供)

「短期的な動向としては、大学入学共通テストが実施され、大学入試改革の中身がある程度見えてきたこともあり、ここ数年関関同立などの大学付属校に流れていた生徒たちが大学受験のある学校に戻ってくるとみています。

コロナ禍で、ICT教育が一気に進展したことで、その対応の差が各校で明確になりました。これまでは偏差値や進学実績でしか差がつきませんでしたが、ICT教育など新しいことを積極的にやっている学校が鮮明になり、長期的には『何で学校を選ぶのか』が家庭ごとに意見が分かれることも考えられます」

新学習指導要領がスタートして「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力」などの新しい能力の育成が求められるようになる中、それが家庭にも浸透し、学校の評価のあり方も少しずつ変化しているという。

「詰め込み型で進学実績ばかりを追っていた学校は評価されなくなり、むしろ、どんな教育をしているのかを明確に持つ学校に注目が集まっています。その意味で、保護者にわかりやすいのが、英語をはじめとしたグローバル教育や、あるいはアクティブラーニングをはじめとした探究学習に積極的な学校です。例えば、大阪の明星ではリベラルスタディーズという独自の取り組みを行っており、志願者数が増加しています。同じく大阪の女子校の帝塚山学院、兵庫の女子校である甲南女子や親和にも注目が集まっています」

首都圏の中学では、SDGsや最先端の研究に触れる機会をつくるなど社会とのつながりを意識した教育や、海外で定評のある教育指導法を取り入れた学校など、ほかにはない特色のある学びを行っている学校も人気を博している。関西にも、そのような学校はあるのか。

「大阪の茨木市にある追手門学院と大阪市の追手門学院大手前の2校はアクティブラーニングや探究学習に注力しており、最近ではロボットのプログラミング教育を積極的に進めているほか、米名門のハワイ大学と連携し、一定の成績を収めるとハワイ大学所属のカレッジに推薦で入学できる制度などが充実しており、注目されています」

また17年に女子校の大阪聖母女学院から共学化し、校名変更した大阪の香里ヌヴェール学院では、新しい時代の教育を指向し、「あなたならどんな自動販売機を作りますか」といった独自のユニークな入試問題にチャレンジするなど新味を出そうとしている。神戸では須磨学園系列の夙川のほか、神戸山手女子では著名校長が塾と連携しながら、アダプティブラーニング(個別最適化学習)を推進し、支持を伸ばしている。

「昔ながらの授業をやるのではなく、新しい学びに挑戦する学校が注目されています。国際バカロレアもそうですが、バージョンアップされた学習科学の成果を授業に用いて、生涯役立つ、本当の学力を習得させようとする取り組みが強化されているのです。

長い目で見れば、こうした取り組みをしている学校が将来的には伸びていくと考えています。20年ほど前に総合学習が学習指導要領に入り、それが“ゆとり教育”だと批判されたことがありましたが、当時まじめに総合学習に取り組んだ学校は、その後人気を集め、実績も伸びているのです。その意味でも、現在、新しい学びにチャレンジしている学校は期待して見ています」

こうした動向を見ていくと、関西圏も首都圏と似たような傾向にあることがわかる。だが、関西圏で特徴的なのは、損得勘定を重視する土地柄もあり、学校選びでも「元が取れる」実績重視の傾向が今もなお強いことだ。

首都圏では新しい教育や学びのあり方を提示すると志願者が集まってくるが、関西圏はそれだけでは動かない。表紙はよくても内実が伴っているのか。そこは超シビアな評価を下す。

「将来AIが人間の仕事を代替するという予測がありますが、その同じAIを子どもたちも手にします。誰もがAIを使う時代に重要なのは『何がしたいか』『世の中をどう変えたいか』という思いです。今の子どもたちが学ぶのは、この思いを育てるためです。最も避けるべきは、子どもが勉強嫌いになることです。楽しく学ぶ、勉強が好きになるためには、押し付けず、ダメと言わず、子どもたちがいろんなものに興味を持てるような機会をつくってあげることが必要です。受験は保護者ではなく子ども自身の課題です。自ら成長のきっかけをつかむまで、親は待つことが大事なのです」

萩原氏はこう話す。そういう意味で、昔に比べて学校の教育内容にもバリエーションが出てきている。保護者が子どもに合った学校を探すのはもちろんだが、学校側も自分たちの教育の特色を積極的に発信し、その教育がどのような成果をもたらすのか、実績とともにうまく保護者に示していく必要がありそうだ。

(文:國貞文隆、注記のない写真:ダイ/ PIXTA)