「いい子症候群」とは?
金間 特徴をパッと見てもらえたらわかると思うんですけど、最近の若者というのは、とくに素直でまじめでいい子って言われますし、受け答えはしっかりしていて、若者らしさも一見あって、話をするとそれなりの協調性がある。で、まぁ話をよく聞くし、言われた仕事はしっかりきっちりこなす。
あと、ちょっと異色かもしれませんけど、会社の飲み会にはそれなりに参加するっていうのが、一見した行動の特徴というふうにみられます。これを称して、「最近の若者は、まじめでいい子」って言われると思うんです。
一方で、多くの社会人の皆さんから、「最近の若者は何を考えているかわからない」ってよく質問されるんですけど、それはこういったところからくる疑問ではないかなと思っています。
例えば、自分の意見は言わないとか、言っても当たり前のことしか言わないし、「質問はありますか?」と聞いても、誰も手を挙げないし質問もしない。あと、何か行動するとき、単純に散歩や買い物でもいいんですけれども、必ず誰かが先頭に立たないと、その後に続こうとしない。つまり、自分が真っ先に動こうとはしない。
また、演技というのは少し強い言葉かもしれませんけど、その場の空気を非常に重んじるがゆえに、それを乱さないように、絶えず小さな、ささいな演技をし続けている状態っていうのが行動に表れてるんじゃないかなというふうに思います。
どうしてそういう行動になるのかっていう感情をまとめると、次のようなものが特徴として挙がってきます。
まさにですね、目立ちたくなくて、100人のうちの1人に埋もれていたいっていう感情が強いです。その背景として、変なことを言って浮いたらどうしようと、いつもその恐怖におびえている状況があります。
ですから、自分で決めたくない、あるいは決めるときは「みんなで決めました」と言いたい。で、その背景としてさらに、自分に対する人の気持ち、つまり他人が自分をどう思っているのかっていうところに非常に敏感で、その変化を怖いと感じています。
ですから、生きるうえで重要なのは、精神的な安定っていうのがいちばんになってきます。安定っていうのはキーワードなので、また後でお話しできればなというふうに思っています。
最後の2つは、まさに社会人になってからという構造なんですけれども、そういった臆病で、ちょっとかわいらしさもあるんですけれども、そういった気持ちの反面、「君はどんな仕事がしたいのか?」って聞くと、こんな感じの言葉を皆さんよく聞いてるんじゃないかと思います。
自分の個性や能力を生かした仕事をしたい、能力や個性を生かして社会課題の解決に進んでいきたい、そうやって社会に貢献したいっていうふうに、「いい子症候群」の若者は、まさに口をそろえて言うっていう状況になっていると思います。
「いい子症候群」に着目した理由
『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』という書籍の中で紹介しているデータをここでも共有したいんですけれども、これが、私が興味を持ったきっかけの1つです。
何らかの成果に関する分配方法について、どれがいちばん公平か、もっと簡単に言うと、しっくりくるかっていうような質問をした結果です。
例えばプロジェクトで1つ何か事業を成したときでもいいですし、単純にみんなで買い物をした後、それを分配することでもいいかもしれません。どんな方法があなたにとってしっくりくるかという質問があります。で、選択肢としてこの4つ。この4つからお選びくださいっていうふうに聞いてみるんですね。
1つ目が単純均等「平等分配」です。2つ目が「必要性分配」。例えば、おなかが空いている人によりたくさん分配するであるとか、給与・報酬であれば、必要な人に少し多めに分配するっていうことですね。これが2番目です。
3つ目は、頑張ったかどうかは関係なくですね、それに貢献した、この人がいちばん成果を上げるのに役立ったという人に多く分配するっていう「実績に応じた分配」になります。で、4つ目がいちばん頑張った人。つまり貢献とは関係なく、誰がいちばん成果を上げたかは関係なく、いちばん努力を費やした人に分配するべきだと考える「努力に応じた分配」になります。
これは、2000年に佐藤俊樹さんが書かれた本の引用なんですが、その結果がこうなります。
興味深いので、男女比も合わせてこのように示してあります。パッと見ておわかりのとおり、「努力に応じた分配」が日本人の最多層だということが、数字を見て明らかだと思います。
日本の過半数の人は当時、全世代が対象になっているんですけれども、いちばん頑張った人にいちばん多く分配するのがしっくりくる。それがフェアだと考える。次に多いのが成果を上げた人だと。とくに男性は、努力よりもいちばん成果に貢献した人に多く分配するべきだって考える人が約3割になっています。
で、ここからが本題なんですけれども。これをコツコツ大学生相手にデータを取ってきました。結果はこうなりました。
強調して申し上げますね。②③④のように、必要な人に多くするではなく、いちばん成果を上げた人に多くするでもなく、いちばん頑張った人に多くするでもなく、それらはすべて無視して、単純頭割りが自分にとってしっくりくる。これが今の大学生の過半の考え方になっています。
このへんが「いい子症候群」、まさに目立ちたくない、100人のうちの1人に埋もれていたいっていう気持ちを反映しているデータなんじゃないかなというふうに思って、いろんな調査を進めるに至っています。
「いい子症候群」の若者とそれ以外の人の違い
「いい子症候群」の若者が持っている感情って、多くの人が感じることではあるんですよね。人前でほめられると恥ずかしいと思うこともあるし、とくに複数の中で何かを決めようとしているときって、自分で責任を取りたくない、できれば誰か決めてくれないかな、みたいな感情は絶対ありますよね。もちろん、精神的な安定っていうのは大事ですし。
こういった気持ちって、少なからず多くの人にあると思うんです。で、ここからが私が注目する最近の変化点なんですが、こういった気持ちはあるんですけれども、われわれの日常の行動、あるいは人生における意思決定のメインにはなりにくかったとは思うんです。
つまり、「わかります、わかります」とは思うんですけれども、それを主軸に人生を決めていくっていう状況になっていたかというと、そうでもなかったのではないかなというふうに思うんです。
ですから行動も、先頭で歩きたくない人はたくさんいると思うんですよね。信号が青になったときに、ゆっくり歩き出す人ってたくさんいると思うんです。気づいたら必ず先頭の2人は毎回同じってグループありませんか? これって大体同じだと思うんですよね。で、「いい子症候群」の若者は、この感情や行動が徹底してきているというのが私の考え方です。
同時に、最初にご紹介した少しポジティブな行動、ポジティブに見られる行動、これが逆にすごく浮き彫りになってきているなとも思うんです。ですから、かつては目立ちたくないっていう人は、本当にそのとおりの行動をしていたということが、わかりやすさとしてあったんです。
彼はあまりしゃべらないし暗いし、でも、まじめで何かコツコツやっているらしい。趣味は何か持っているけど、聞いても教えてくれないっていうような感じのキャラと、積極的で遊びも仕事も頑張る。こういうわかりやすい構造にあったと思うんですけど、今はこれが見えません。
なぜかというと、「いい子症候群」のこういった行動を、一見さわやかで協調性を持って人の話を聞き、「かしこまりました」「承知しました」「頑張ります」と言うんです。でも感情は、先ほどご紹介したような特徴があります。そこのギャップが最近すごく際立っているので、より「最近の若者はよくわからない」というふうに思われるんじゃないかと思います。
※インタビューの全編は、YouTubeチャンネル「探究TV / 東洋経済education×ICT」で配信中
金沢大学融合研究域融合科学系 教授、東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授、LFOR 共同創業者・取締役
北海道生まれ。横浜国立大学卒業。同大学大学院工学研究科物理情報工学専攻修了。博士(工学)。バージニア工科大学大学院Visiting Scholar、文部科学省科学技術・学術政策研究所研究員や北海道情報大学准教授、東京農業大学准教授などを経て、2021年より現職。専門は、イノベーション論やマーケティング論など。『イノベーションの動機づけ』(丸善出版)や『イノベーション&マーケティングの経済学』(共著、中央経済社)など著書多数
(写真:Getty Images)