農業高校が70年以上前から行う「プロジェクト型学習」、ICT導入で起きたこと データ収集・活用で地域と農業の課題を解決

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日本に約300校ある農業高校。そこで学ぶ生徒の数は約7万人に上る(※1)。農地の少ない東京23区内にも農業高校が存在する。その農業高校で70年以上前からプロジェクト型学習を行ってきたことはあまり知られていない。東京都立園芸高等学校では、ICT導入とデータ活用を導入し、地域課題やスマート農業に挑んでいる。こうした教育の変化は生徒や教員をどう変化させるのか。同校校長であり、全国農業高等学校長協会 理事を務める並川直人氏に話を聞いた。
※1 農林水産省ホームページ「農業高校等の紹介」

農業高校にSTEAM教育が欠かせない理由

正門から続くイチョウ並木を歩いていくと、左右に西洋庭園が現れた。さらに進むと、東京ドーム2.3個分もの広大な敷地に温室やバラ園、さらには日本庭園や畑が広がる。都心にいることを忘れてしまいそうになる、ここは東京都立園芸高等学校だ。

日本初の園芸の名を冠した学校として1908(明治41)年に設立され、現在は園芸科、食品科、動物科で構成されている。同校の校長で全国農業高等学校長協会 理事長も務める並川直人氏は、まずは農業高校についてこう説明してくれた。

「全国の農業高校は、農業が盛んな地域で農業の担い手の育成を目的に設立、発展してきました。東京23区でも町村組合が設立した杉並区の農芸高等学校をはじめ、分校から独立した葛飾区の農産高等学校、東京府が設置した世田谷区の当校がバランスよく配置され、戦後の食糧供給や人口増加に伴う食品産業の発達や人材育成を支えてきたのです」

並川直人(なみかわ・なおと)
東京都立園芸高等学校 校長
全国農業高等学校長協会 理事長
前日本学校農業クラブ連盟代表

農業高校は農業を専門的に学ぶ学校ではあるが、普通科目の授業もある。

「農業高校では、カリキュラムの3分の1に当たる25単位以上が専門教科、3分の2が普通教科・科目です。例えば肥料を作る際は数学を使いますし、食品科で試薬を作る際は化学の知識が必要ですから、普通科目の学習は欠かせないのです。近年、教科横断やSTEAM教育が注目されていますが、農業の学びはまさに総合科学といえるでしょう」

日本国内の気候は地域によって異なり、また同じ場所でも年によって気温が変わるなど、同じ気象条件は二度とない。そのため農業には幅広いアプローチが必要であり、STEAMや先進的な学習との親和性が高いのだという。

「自作のジャムを950円で売る」という学び

農業教育にはもう一つの特徴がある。それは地域の特産品の開発など、農業や地域社会の課題を解決してきたことだ。

「現在の農業教育の仕組みは、戦後に米国から入ってきました。中でも柱となっているのが、『身近な課題からテーマを見いだし、仮説を立ててPDCAを回す』というプロジェクト型学習です。こうした教育を70年以上前から続けていることが、農業高校の強みだといえます。さらに、全国の農業高校の生徒が自主的・主体的に行う農業クラブ活動では、地域と連携した活動も行っています」

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