わが子の活躍が見たい「自子中心主義」の保護者が招く「桃太郎役16人」の惨状 壮絶な運動会の場所取り、合唱祭の伴奏者選抜

教頭のピストル音で保護者が開門ダッシュする運動会

大阪大学名誉教授
教育学博士
著書に『「迷惑施設」としての学校―近隣トラブル解決の処方箋』(時事通信社)、『イチャモン研究会―学校と保護者のいい関係づくりへ』(ミネルヴァ書房)などがある
(写真は本人提供)
日本の学校では、入学式・卒業式、運動会、マラソン大会、学習発表会、合唱コンクール、そして修学旅行に遠足あるいは野外活動といった「学校行事」がたくさんあります。その意図は、年間計画の適切な時期に行事をちりばめることで学校生活にいろどりと良いリズムを生み出すと同時に、集団への所属意識を高めることにあります。
この数年間は、長引いたコロナ禍の影響で、思い出づくりにつながる修学旅行が中止あるいは短縮を余儀なくされ、精選されたり廃止されたりした行事もありました。同時に、準備にあたる教員の労働時間の長さも問題視されていますし、一部の行事に対する子どもたちの嫌悪感も関係して「見直し」がおこなわれつつあります。
それでも、「わが子が活躍する姿を見たい」という保護者の期待を袖にすることはできないため、運動会や文化祭などは外せないでしょう。しかし「できるだけ良い条件で見たい」という思いが高じると、時としてトラブルが発生し、運営側の教員が悩ましい状態に陥ることがあります。
小学校では運動会の「場所取り」で、保護者席の確保のために熾烈な競争が起きることがあります。校門の開放は午前7時と決まっていても、その前からシートを抱えた人たちの列ができ、ちゃっかりフライングするケースもあって学校に苦情がきます。
私が思わず爆笑した事例では、定刻に開門するために教員が正門や通用門に張りつき、教頭が朝礼台に立って開門のピストル音を鳴らして猛ダッシュが始まるというものでした。この時点から運動会はもう始まっています。
20年ほど前には、一部の家族が昼の休憩時間にバーベキューをしたことが話題になりました。翌年から「火起こし禁止」にすると、カセットコンロを持参する。「火気厳禁」にするとデリバリーを頼む、といういたちごっこ。5年ほど前からは、強い日差しを避けるために家族用テントが乱立する学校もあります。さながらキャンプ場のような光景です。