わが子の活躍が見たい「自子中心主義」の保護者が招く「桃太郎役16人」の惨状 壮絶な運動会の場所取り、合唱祭の伴奏者選抜
こうした事情から演劇に代わって増えたのが、合奏(楽器演奏)です。その証拠に、昔からあった「学芸会」は、「学習発表会」や「音楽会」という名称に変わりました。しかしここでもまた、楽器の選定と割り当てをめぐって不満が出ることがあります。最近では、特定の子どもが目立つのを避けるため、集団でのダンスやパフォーマンスを取り入れるところも出てきています。
今後はピアノ伴奏者が複数人?オーディションの実態
それでも、小学校や中学校での「合唱コンクール」や「卒業生を送る会の学年合唱」ではどうしてもピアノ伴奏者と指揮者が目立ちます。
指揮者の選定でこじれることは少ないですが、ピアノ伴奏者の選定には教員たちも気を遣っているようです。20年近く前から、立候補者2名以上になった場合には「選考の公平さ」を期すために「オーディション」で選ぶことが増えました。
女子男子を問わずエレクトーンやピアノを習っている生徒が増え、本人がその腕前を見せたいだけでなく、親も晴れ舞台を見たいと願うのでしょう。高校入試で提出する内申書にピアノ伴奏の経験が記載されることもあります。そこで候補者(の保護者)は必死になり、通っているピアノ教室に課題曲の楽譜を持ち込んで特訓をお願いすることもあるそうです。
それゆえ学校側は、慎重に手続きを決めて、できるだけ客観的な審査を心がけるよう配慮するようになりました。昼休みの音楽室で音楽の担当教員を含めた数人で実施するのですが、甲乙つけがたい場合もどうにか判定せざるをえません。
過去に、とある音楽の先生が審査の途中から参加したため判定に加わらなかったケースがありました。すると、保護者から判定結果に不満の声が上がったのです。落選したわが子の落胆ぶりを心配して「ひいきしているのではないか」「音楽専科の先生を加えて審査をやり直してほしい」と言い出して学校側とトラブルになり、私が相談に乗った事例もあります。クレーム対策のために審査演奏をビデオ録画する学校も出てきました。
こうなると、主役が複数いる演劇のように、歌の1番はAさん、2番はBさんというように、ピアノ伴奏者が2名以上で瞬時にリレーしたり、もしくは2名が横に並んで連弾で伴奏するような未来も、ありえない話ではないかもしれません。
(注記のない写真:seAsOw / PIXTA)
執筆:大阪大学名誉教授 小野田正利
東洋経済education × ICT編集部
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