保護者から電話で1時間お説教も…
私は、こうした話を何人もの小中学校等の教職員から聞いてきた。「保護者から電話で1時間以上お説教です。少しでも反論しようものなら、火に油を注ぎますから、こちらはひたすら聞くしかありません。耳と肘が痛くなりました」というケースも。
世間ではカスハラ(カスタマーハラスメント)対策に注目が集まっている。うちの子どもが通う保育園でもカスハラ防止について注意喚起する文書が保護者あてに配られた。ところが、学校はどうだろうか? 公立小中学校では「イヤなら、よその学校に行ってください」と、悪質な保護者であったとしても断ることはできない。
それで「傾聴が大事」「保護者の怒りが子どもに向かってはいけない」といった配慮を重視して、最前線の学級担任の先生、あるいは学年主任や教頭、校長らがひたすら我慢しながら、粘り強く接している風景が多いのではないだろうか。
あまりにも、教職員を守る仕組みが弱すぎる。今回はこの問題について考えたい。もうすぐ子どもたちの夏休みが終わる。夏休み明けの登校がつらい子どもが多いことは広く知られるようになってきた。先生たちはどうだろうか。

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表
徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年に独立。全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文部科学省委嘱のほか、埼玉県、横浜市、高知県等)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。Yahoo!ニュースオーサー。主な著書に『校長先生、教頭先生、そのお悩み解決できます!』『先生を、死なせない。』(ともに教育開発研究所)、『教師崩壊』『教師と学校の失敗学』(ともにPHP研究所)、『学校をおもしろくする思考法』『変わる学校、変わらない学校』(ともに学事出版)など多数。5人の子育て中
(写真は本人提供)
若手の「高ストレス」要因で保護者対応が上位
もちろん、さまざまなケースがある。保護者が100%理不尽で、学校は何も悪くないといったケースよりは、両者に何かしらの非があるということも多い。安易に「クレーマー」扱いしてもいけない。
とはいえ、学校側に落ち度があっても、あまりにも一方的に責めたてるなど、言い方や態度がひどいケースもある。個人的な印象論とはなるが、私も自分の子どもが何かひどい目にあったら、カッとなりやすいだろうなとは思う。
また、当初は子ども同士のちょっとしたトラブルだったものが、いつの間にか親同士のもめごとになっていて、にっちもさっちもいかなくなっている。子どもたちはケロっとしているのに、親同士が解決できない。だから学校が仲裁せざるをえない、なんてことも各地で起きている。
よく考えてみれば、学校は多様な子どもたちと保護者を相手にしている。仮に児童生徒数が500人の学校であれば、(ひとり親家庭や祖父母もいる家庭などさまざまだが)ざっと、保護者は1000人いる。99%の保護者とは何もこじれなくても、仮に1%の保護者が攻撃的な言動や理不尽な態度をとるようになると、10人と粘り強く付き合うことになる。これは相当キツイ。実際、以下のとおり、精神疾患で病む先生は増え続けている。

とりわけここ数年休職者の増加が大きいのは20代、30代の比較的若手なのだが、20代、30代の教員のうち、高ストレス者の要因としては「対処困難な児童生徒への対応」「事務的な業務量」に加えて、「保護者対応」が上っている(ストレス要因を回答者が2つまで選択する調査)。


しんどいときには早めに休むことも大事なので、休職が悪いとは限らないが、休職者を減らすためにも、保護者との関係づくりは最重要課題の1つだ。
異常事態(事故対応)を学校、教育委員会任せでよいのか?
この難題、どうしたらよいだろうか。各校ですでに行っていることが基本にはなる。学級担任1人に任せすぎず複数人で対応する、こじれた場合は実際に会って話し合うなど、チーム対応だ。
教員の精神疾患の事案、最も深刻なケースでは自死に至る事案では、保護者対応そのものに加えて、職場で支えてくれる人がいなかったケースなどが多く報告されている。
また、ケースバイケースのところはあるにせよ、多くの事案に共通する技術や有効な方法もある。関連する書籍もかなり出版されているが、研修をしたり、グッドプラクティスを全国的に共有したりする必要性は高い。
ただし、これらでうまく事がおさまらないケースも多い。元小学校教員の鈴木邦明さん(帝京平成大学)は、「通常と特殊(異常)な場合を見分けて対応することが大事」と述べる。通常時の対応としては、傾聴することなどは大切なのだが、相手が特殊な場合(重い精神疾患、ストレス発散、金銭の要求など)は、通常時と同じ対応をとると、収拾がつかなくなるときも多い。
それに、学校の先生は保護者向けのカウンセラーでもなければ、精神科医でもない。クレーム対応のプロでもない。特殊な場合では、心理カウンセラー、医師、弁護士など、事案に応じて専門家の支援を早期から受けることも必要だ。交通事故のときには警察と損保会社が入る。当人同士だけで示談するのはまれだ。信頼の置ける第三者が必要なときに応援に来られる環境をつくるのは、教育委員会の責務だと思う。
こうした学校現場の大変さは文科省もわかっているようで、直近の中央教育審議会特別部会でも、「保護者等からの過剰な苦情や不当な要求等の学校では対応が困難な事案への対応」については、以下の一番左、「学校以外が担うべき業務」と仕分ける案を示している。

とはいえ、文科省案では不十分なところもある。「教育委員会が直接苦情等に対応する相談窓口の設置や、学校が弁護士等の専門家を活用できる環境の整備等により、教育委員会等の行政機関の責任において当該苦情及び要求等に対応できる体制を構築すること」となっている。
私は以下のとおり、会議の場で、文科省に意見を出ししている。
保護者の相談に時間制限を設けられないか
もう一歩、踏み込んだ対策についても考えてみたい。電話にせよ、対面にせよ「いじめ対策など真に緊急性の高い事案を除いて、保護者との相談は原則30分以内(もしくは20分以内など)にする」「話して解決しないケースは、前述のこどもの権利サポートセンター等において、第三者が双方の事情を把握したうえで仲介する」といった約束事を保護者にしっかり共有しておくことが必要だと思う。
「妹尾はクレームを受ける当事者ではないので、気楽なことが言えるんだ」というご意見を(教職員から)たまにいただくが、私から見ると、学校はあまりにも丁寧すぎる。例えば、1時間その保護者に付きっきりになったら、その分、ほかの児童生徒のための時間が奪われることになるし、教職員が疲弊しては子どもたちにとってよいわけがない。仕事がイヤになってやめる人が増えても、欠員補充は昨今なかなかできない。
一定の枠組み、約束事を決めておき、少しでも教職員を守る仕組みにしていったほうがよい。教育委員会が上記の約束事に関する文書を出し、入学式などで校長は説明、説得に向けた努力をしていくべきだ。
精神科医だって、自殺願望のある患者に対して2時間も3時間も応じない。カウンセラーも、数十分の面談に限られる。以下は、私が講演のときによく使うスライドだ。

プロは自身を守りつつ、限られた時間でよい対応をすることを目指すべきだし、前述のとおり、教職員は子どもの成長の支援がメインであり、保護者へのケアのプロである必要はない。
※本記事は、妹尾昌俊『校長先生、教頭先生、そのお悩み解決できます!』教育開発研究所の一部を加筆修正して作成しました。
(注記のない写真:mits / PIXTA)