「学校の働き方改革を進めるうえで、保護者の声が心配です。“学校(先生)は最近冷たくなった。去年まではもっとやってくれたのに”などと言われないか」

「学校の中でできる業務改善は進めていますが、保護者の関心が高いことについて、反発がこないか心配です。どう協力をお願いしたらよいでしょうか」

これらは、私が小中学校などの校長や教職員からたびたび聞いてきた話です。教職員組合などの調査を見る限り、まだまだ長時間勤務の先生は多いです。学校の働き方改革や教職員の負担軽減が進みにくいのは、保護者のせいなのでしょうか。

忖度し萎縮する学校

私から見ると、保護者にとても気を使っていて、忖度(そんたく)している校長や教職員は多いです。もちろん、学校差や個人差はありますし、逆にもっと考えてほしいケースもありますが。

例えば、小学生が休み時間に遊んでいる最中にちょっとしたケガをするなんてことは日常茶飯事ですよね。大したケガでなくても、その日のうちに保護者に電話して丁寧に事情を説明する学校は多いのではないでしょうか。

電話が日中つながらなければ、教員の勤務時間外だとしても夜にかけたりします。報告が遅れると、ごくまれですが「なぜ言ってくれなかったのか」「大ケガになっていたかもしれないじゃないか」などと保護者に詰問されたり、保護者ともめたりするケースもあるので、学校側は過剰なほど防衛策を講じておきたいのです。

保護者との面談や3者面談なども、「仕事の都合があるからどうしても日中に行けない」などと言われると、勤務時間外であっても遅い時間に設定する学級担任もいます。変にもめるくらいなら、保護者の要望に従っておくほうが無難という感覚があるのかもしれません。

児童生徒の宿題や提出物についてはどうでしょうか。“たいへんよくできました”というハンコや花丸だけという先生もいますが、丁寧なコメントを書く先生は大勢います。そのほうが子どもが喜ぶからという事情もありますが、それにしても、多大な時間を使っています。先生たちに聞くと、「去年の担任は丁寧にコメントしてくれたのに、今年の先生は素っ気ない、冷たい」と思われないか、言われないかという心配があるというのです。

(写真:タカス / PIXTA)

部活動の精選(一部を廃部・休部にすることなど)や地域移行を進めることにも、保護者から反対や反発がよく起こります。運動会や学習発表会などの学校行事のプログラムを大きく減らすことや一部の行事をやめることについても、新型コロナ対策を理由にしたものは各地で進んでいますが、「働き方改革や教職員の負担軽減のためとは言えない」という声を校長などからよく聞きます。

地域差、学校差がありますが、PTA活動でも、教頭が保護者の代わりに文書を作ったり、会計事務をしていたりするところもあります。もちろん、PTAにはTeachersも含まれますので、全部保護者任せでいいというわけではありませんが、ただでさえ超多忙な教頭にとって、ばかにならない負担です。私なら、PTAの作業に割く時間を教職員の育成などに使ってほしいと思います。でも、教頭らは、保護者と相談ができずにいます。

ひよったままでいいのか?

学校や地域ごとに取り組み状況や温度差はありますが、こうしたことを踏まえるなら、冒頭で紹介したような声が出てくるのも理解できます。ざっくり申し上げると、学校は保護者を恐れて、ひよっているのです。

一方、会議の見直しや書類の削減、定時退勤日の設定などは、保護者の反対はまず起きませんので(ほとんどの保護者はそうしたことにあまり関心はないでしょう)、学校としては進めやすい改善です。しかしその程度のことでは、大した時間を生み出すことはできません。

とはいえ、皆さんと改めて考えたいのは、働き方改革や教職員の負担軽減が進まないのは、本当に保護者のせいなのだろうかということです。

ちょっと意地悪な見方かもしれませんが、校長などが「保護者との関係でこれは難しい、あれはすぐにはできない」などと言い訳をするばかりで、しっかり対話していくことや根本的な見直しに着手しようとしないから、学校は忙しいままなのではないでしょうか。

もちろん、私は学校や先生たちだけが悪いと言うつもりはありませんし、保護者や地域社会にももっと理解、協力してもらいたいと思うことは多々あります。しかし、学校側も踏み込みが足りないのではないか、遠慮や躊躇をしすぎている側面もあるのではないか、ということを考えてもらいたいのです。

まずは事実の共有と趣旨説明から

多くの先生たちは、昨日も今日も、児童生徒のために一生懸命、さまざまなことをしてくれています。しかし、それでずっと長時間勤務や過重負担がかかったままだと、どうなるでしょうか。

長時間労働3つの影響 ー忙しい毎日を放置しておけない理由ー

1. 教師の健康への影響
・教師の過労死が相次いでいる
・精神疾患者も毎年約5000人

2. 教育すなわち児童生徒への影響
・心身が疲弊してよい授業にはならない
・AI(人工知能)などで便利になる時代、教師がクリエーティブに深く思考する時間がなくては、子どもたちの思考力や創造性が高まる教育活動にならない

3. 人材獲得への影響
・ワーク・ライフ・バランス無視な職場では優秀な人材は来ない
・すでに人材獲得競争の時代

出所:妹尾昌俊『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』を基に作成

第一に、健康を害します。最悪の場合、過労死などに至るケースが後を絶ちません。精神疾患などで長期に休まれる先生は多いです。欠員が生じても、昨今は教員不足、講師不足ですから、なかなか補充が利きません。すると、現場で何とかやり繰りして対処することなり、教職員はさらに疲弊してしまいます。こうした悪循環になっている学校は少なくありません。

第二に、教育や児童生徒のケアに関わります。眠いままでいい授業になるでしょうか。睡眠不足ではついイライラしやすくなるなどの影響もあると確認されています。協働的で探究的な学びが重要なことは言うまでもありませんが、先生たちが探究する時間や楽しく学ぶ時間がなくて、どうして子どもたちの成長を支援できるでしょうか。

第三に、人材獲得への影響です。プライベートを過度に犠牲にするような職場、1年目からそうとうむちゃ振りをするうえに支援も手薄なところには、喜んで就職したいとは思ってもらえません。

つまり、少なくとも以上3つの点で、先生が忙しすぎることは子どものためにもならないのです。このことを保護者ともしっかり認識を合わせていく必要があります。

「先生が過重負担で眠いまま授業をするほうがよいと思いますか、それともコメント書きや行事の一部は簡素化して、しっかり元気に授業してもらうほうがよいと思いますか?」

そう聞かれたら、保護者のほとんどは、先生が元気なほうがよいと答えるでしょう。変に遠慮や忖度をしすぎずに、率直に、働き方改革を進める必要性や趣旨をちゃんと説明、共有していけばよいのです。

学校の勤務実態や取り組み状況を保護者とも共有する

数年前ならいざ知らず、最近はタイムカードやICカードなどによって勤務時間(在校等時間)をモニタリングする学校がほとんどです。教育委員会にもデータを提出していますよね。

でも、こうした現実、ファクトを、どこまで保護者とも共有できているでしょうか。時間外の平均値だけでは実態は十分に伝わりません。定時で終業できている人はほとんどいないこと、月の時間外が45時間以上や80時間以上は何%くらいいること、こうした教職員は過労死などのリスクが高いまま働いていることなどを伝える必要があるのではないでしょうか。

個々の事情はありますが、おおよその傾向としては、民間企業では労働基準法が改正されたこともあって、ずいぶんと働き方は変わってきています。おそらく学校の実態に驚かれる保護者も少なくないと思います。

もう1つ重要なのは、残業が多い(勤務時間が長い)かどうかだけでなく、小中学校や特別支援学校などでは休憩もろくに取れていないこと、さまざまな丁寧な配慮やケアが必要な児童生徒が増えていて、ストレスのかかる仕事であることです。いわば、労働の量だけでなく、密度や質についての情報共有を進める必要があります。

こうした実態をお知らせしたうえで、学校でできることも進めてはいるけれども、保護者の理解、応援が必要であることを伝えてほしいと思います。

妹尾昌俊(せのお・まさとし)
教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表
徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年に独立。全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文部科学省委嘱のほか、埼玉県、横浜市、高知県等)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。Yahoo!ニュースオーサー、教育新聞特任解説委員。主な著書に『教師と学校の失敗学 なぜ変化に対応できないのか』(PHP新書)、『教師崩壊』(PHP新書)、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)、『学校をおもしろくする思考法 卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』『変わる学校、変わらない学校』(ともに学事出版)など多数。5人の子育て中
(写真は本人提供)

私は、数年前からずっと講演・研修会などでは申し上げてきましたが、保護者の協力を求める前に、もっと現実の「情報を共有する」こと、そして働き方を見直すことが子どものためにもなるという「思いを共有する」ことが先決だと考えています。

例えば、教職員の正規の勤務時間が何時何分から何時何分までか、知っている保護者はほとんどいないのではないでしょうか。ある公立小学校では、何度も保護者への説明会を開催しつつ、教職員の勤務時間に合わせた形で、児童の登校時間を遅らせることにしました。また、学校の管理外のトラブルは学校の責任ではない、保護者が対応していくことだということも、伝えていく必要があります(関連記事:勤務時間外の「保護者や近隣住民の電話」に学校はどこまで対応すべきか)。

児童生徒の命に関わるような緊急時や深刻ないじめ事案を除いて、保護者からの電話連絡や相談は、勤務時間外は原則受け付けないと言ってはいけないものでしょうか。医師でも、カウンセラーでも、あるいは市役所職員でも、よほどの緊急時を除いて、診察時間、勤務時間の中で対応することは当たり前です。

部活動も、休日のわずかな手当を除いて、ほとんど教員のボランティア、献身性に支えられていること、その体制にはさまざまな問題があり限界がきていること、教員は部活動指導のために採用・配置されているのではないことなどを伝える必要があります。ある公立中学校の校長は入学式の後でそうした説明をしたところ、部活動に関するクレームが激減しました。

これから、新1年生向けの説明会をするところも多いですし、また4月以降は入学式やオリエンテーション、PTA総会などが控えています。保護者の多くと接点がある、数少ないチャンスです。ここで紹介、提案したことのうち、よいと思ったことを始めてみてはいかがでしょうか。

(注記のない写真:Taka / PIXTA)