約8割の教頭が過労死ライン超え
全国の小中学校の副校長・教頭(以下、副校長・教頭をまとめて教頭と表記)のほとんどが過労死リスクの高い働き方を余儀なくされている。
こうしたことは、10年以上前から、少なくとも教育関係者(教職員、教育委員会、文部科学省など)の間ではよく知られていたことではある。だが、事態は一向に改善しないどころか、悪化しているところもある。
全国公立学校教頭会によると、2021年の公立小中学校の教頭の通常日(行事前や特別な日を除く)の勤務時間は、11時間以上が約83%にも上る。1日11時間というと、月当たりの時間外勤務は70時間近く。土曜、日曜などに残業する人も多いから、こうした教頭の多くは過労死ラインとされる80時間を超えているとみたほうがよい。
1日13時間以上という人は、2年前よりは多少マシになっているとはいえ、直近でも約3割に上る。これは120時間以上の水準(1日5時間以上×24日と仮定した場合)で、いつ倒れてもおかしくないような働き方だ。数日前も、ある小学校教頭から「周りの教頭は朝7時から夜の9時、11時まで働いている人が何人もいる」ということを聞いたばかりだが、本当に心配だ。
書類の山は増えるばかり
どうして、教頭はこれほど過酷なのか。いくつもの背景・要因が絡み合っていて問題解決を難しくさせているが、ここでは主なものとして、4点に整理して解説したい。
第1に、教頭の仕事の範囲は広く、多岐にわたっている。次のグラフは、先ほどの全国公立学校教頭会の調査で、教頭が時間と労力を費やしている主な職務を回答したものだ。多種多様なことが教頭の仕事だとわかる。
この調査でもトップに挙がっているが、各種調査でとくに負担が重い業務としてよく挙がるのが、教育委員会などから求められる事務手続きや調査への対応だ。
きちんと検証できているわけではないが、おそらく、数十年前の学校と比べても書類は増えている。というのも、事故や不祥事が起こると学校の責任が強く追及されかねないため、日頃から計画や記録の書類を作っておく必要性が高まったのだ。そのうえ評価に関する事務も増えている(人事評価、学校評価など)。
こうした「教育改革」には必要性の高い側面もある一方で、書類作りに現場、とりわけ教頭職が忙殺され、本来の改革、改善につながっていないケースも見られる。
さらに、議会対応や財政当局への説明(予算要求)などで、教育委員会が学校にデータを求めるシーンも増えている。どの教育委員会も、調査などが現場の負担になっていることはよく知っているはずだが、各校に照会をかけないとわからないことが多いのは、多くの教育委員会の実情だろう。
さらに、「チーム学校」「働き方改革」などが数年前から学校でも言われているが、スクール・カウンセラー、スクール・サポート・スタッフ、学習支援員、部活動指導員など多様な人材が教育に関わるようになってきた。教育・学習上よい点はたくさんあるし、教員の負担軽減になっている部分もあるものの、さまざまな勤務形態の人材をマネジメントする教頭にとっては大きな負担増となっている。
しかも、ここに挙がっている仕事以外にもたくさんある。学校によっても異なるが、例えば教頭が部活動の顧問となっている学校もある(本人が好きでというケースもあるが、少ない教員数ではカバーしきれないためという事情のところもある)。また、そのほか雑多なこと、誰の仕事か不明確なものがすべて教頭の仕事になる。ある教頭からは「シュレッダーの紙の片付けや鳥の死骸の処理まで教頭の仕事なんでしょうか」と聞かれたことがある。
緊急対応も多く、コロナ禍でさらに負担増
第2に、緊急性の高い対応が多いことが、教頭の仕事をより大変にしている。
保護者との関係がこじれかけているときは、もちろん担任や学年主任も対応するが、教頭(あるいは校長)が関わることも多い。さまざまな特性や障害を持つ児童生徒が増えており、教室にいづらい、いられない子をケアする教頭も多い。教育委員会や地域の人が来校すれば、接遇するのも教頭だ。
教頭は通常業務だけでも十分忙しいのに、その時々の急な対応で中断されることも多い。ある教頭は「調査ものが負担といっても、10分、15分で終わるものが多いです。ですが、たびたび中断されて、夜にならないと集中して事務処理ができないんです」と話してくれた。
第3に、以上の2点(業務の多さと緊急性)を、新型コロナを含む昨今の学校教育事情が、さらに悪化させている。
児童生徒や教職員に陽性者が出れば、濃厚接触者の特定作業などを、教頭が教育委員会や保健所と連携しながら対応しているところは多い。「24時間携帯が手放せず、気が休まらない」とある教頭は話している。加えて、教員不足の深刻化も教頭らをさらに苦しめている。学級担任や授業の穴を埋めるのに教頭が対応しているケースも少なくない。
さらに、働き方改革の副作用も大きい。「先生方、早く帰れるようにしてくださいね」と呼びかけている立場上、以前から雑多に引き受けていた教頭の仕事について、ほかの教職員といっそう分担しにくくなっているのだ。
第4に、教頭への評価の問題もある。「教頭の仕事は大変だけど、頑張ります」という人が評価される風潮は、まだまだ多くの学校現場、教育行政にあるのではないか。教頭の中には校長を目指している人が多いこともあって、校長や教育委員会に悪く思われたくないという心情になりやすい。
そのために何か問題や不満があっても、校長や教育委員会に訴えづらい。「つらくても我慢するしかない」「あと数年、とにかく乗り切ろう」という思考回路になりやすい。こうなると、業務を改善したり、業務分担を見直したりという発想にはなかなかならない。
特効薬はないが、今すぐ取りかかれる解決策はある
以上、少なくとも4つの背景・要因が教頭の多忙、過酷さには絡んでいる。特効薬はないが、仮にこの見立てが当たっているなら、解決策も見えてくる。
業務量の多さについては、やはり書類や手続き、調査などを一つひとつ確認して、断捨離していくことが必要だろう。文書や調査の多さは、おそらく教育委員会の縦割りも影響している。各部署の論理、必要性で学校に注意喚起をしたり、データを求めたりするのだが、第一線にいる教頭にあれもこれも集中している。これは中学校などで、各教科の先生がよかれと思って宿題を出し、教科間の連携が取れておらず生徒の過重負担になるのと似ている。
このまま過労死リスクの高いまま教頭を放置してよいと思う教育長はいないはずだが、教育長らが各部署に働きかけて、できることは多々あるのではないか。
そうした業務そのものの見直しや業務量を精査したうえで、分担、分業も検討していくべきだ。例えば、PTA関連の負担が重い学校もある。保護者向けの文書などを教頭が作って印刷までしている学校もある。お便りを電子配信にしたり、保護者ともっと作業を分担したりすることが必要だろう。国または教育委員会では「教頭がやらなくていい仕事リスト」を作成してみるのもいいと思う。ただし、分担できる人がいないと、画餅となってしまうだろう。
中断が多いことに対しての1つのアイデアは、教頭が事務作業などに従事する「集中タイム」を日中に設けることだ。例えば、14時~15時半の間の電話や来客はほかの職員で担う。よほど緊急性の高いもの以外は教頭に取り次がない。教育委員会にも電話をかけてくるな、という約束を取り付けてはどうだろうか。
評価の問題にもメスを入れるべきだ。問題提起や問題解決に積極的な教頭を評価する仕組みにする。くれぐれも教頭個人の能力や仕事のスピードの問題に矮小化してはならない。それらも改善の余地はあるだろうが、教頭の業務そのもののあり方や周りの仕事の振り方、組織体制などが影響している問題なのだから。簡単な問題ではないが、今すぐにでも取りかかれるものは多い。
(注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)