学習意欲と強い相関がある「上手な勉強の仕方がわかる」こと

日本の子どもたちの学習意欲が低いという調査は、さまざまあります。中でも、諸外国に比べて学力は高いのに、勉強に対する意欲が低いことが問題視されてきました。

そんな中、コロナ禍を含むこの3年間で、子どもたちの学習意欲がさらに下がっているということが明らかになりました。東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が行っている共同研究プロジェクト「子どもの生活と学びに関する親子調査」によると、2019年から21年の3年間で、子どもたちの「勉強しようという気持ちが湧かない」という回答が半数以上になり、学習意欲が低下していることがわかったのです。

この傾向は、22年の調査結果速報でも同様で、子どもたちの学習意欲の低下に歯止めはかかっていません。

ではなぜ、子どもたちは勉強しようという気にならないのでしょうか? 最新の調査結果によると、学習意欲には、「上手な勉強の仕方がわかる」「授業が楽しい」「自分の進路(将来)を深く考える」などの要因が関連していることがわかりました。中でも、「上手な勉強の仕方がわかる」ことは、学習意欲と強い関連があり、成績との相関係数は学習意欲よりも強いという結果が出ています。

つまり学習意欲が湧かないから成績が上がらないというより、そもそも勉強のやり方がわからないから、勉強する気にならず、結果的に成績が上がらない。逆に言えば、上手な勉強の仕方がわかれば、勉強が楽しくなり、成績も上がるというよい循環が生まれるのでしょう。実際、「学習方法の理解」は「学習意欲」と正の相関があり、学習方法が理解できるようになると、連動して学習意欲も向上すると分析されています。

しかし、現実は「上手な勉強の仕方がわからない」という子どもが、19年から22年にかけて増加して、約7割になっているというのです。学校に通っている子どもたちの7割が、上手な勉強の仕方がわからないと感じていて、その結果勉強をする気にならない……。これって、かなり衝撃的な数字ではないでしょうか?

勉強ができる人は「自分に合った学習方法を見つけている人」?

私の周りでも、「いくら言っても勉強しない!」「塾に通っているのに子どもの成績が上がらない!」と嘆く親御さんは多いですが、もしかしたら、そもそも勉強のやり方がわからないことが原因かもしれません。

しかし、改めて自分自身の子ども時代や子育て中を振り返ってみても、学習方法について体系的に学ぶ機会って、あまりなかったような気がします。皆さんはどうでしょうか?

中曽根陽子(なかそね・ようこ)
教育ジャーナリスト/マザークエスト代表
小学館を出産で退職後、女性のネットワークを生かした編集企画会社を発足。「お母さんと子ども達の笑顔のために」をコンセプトに数多くの書籍をプロデュース。その後、数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。「子育ては人材育成のプロジェクト」であり、そのキーマンであるお母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。著書に『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)、『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)などがある
(写真:中曽根氏提供)

この調査では、メタ認知を使って自分の学習を客観的に捉え、自分で調整しながら学習するような方略が、学習方法の理解を促進するとありますが、そもそもメタ認知とは、自分の状態を客観的に捉えることができるということなので、それができるなら心配は要らないでしょう。

しかし、この調査結果を読んで、勉強ができる人というのは、「地頭」もあるかもしれないけれど、いろいろな勉強方法を試して自分に合った学習方法を見つけている人なのかもしれないと思いました。

実際、「上手な勉強の仕方がわからない」と答えた子どもは、そうでない子どもに比べて、採用している学習方略が少ないという結果が出ています。

麹町中学校で行った改革の1つ「フレームワーク」とは

でも、勉強方法って、最初は教えられないとわからない。ということは、子どもたちには早いうちに学習計画の立て方、勉強のやり方などを教えてあげるのがよさそうです。

参考になりそうなのが、横浜創英中学・高等学校の校長・工藤勇一氏が、麹町中学校の校長時代に行った改革の1つ「フレームワーク」です。当時、麹町中学校(千代田区)の1年生は、入学してすぐに「手帳・ノートガイダンス」で、A4の方眼ノートを使った基本フレームの使い方を学び、すべての授業で使っていたそうです。

方眼ノートとは、外資系コンサルタントらも使うノートの取り方で、例えばマッキンゼーでは、方眼ノートを黄金の3分割といわれるフレームに分け、「空・雨・傘」の順番で書いて問題解決をしていくそうです。空=今の状況、雨=その状況に対する解釈、傘=その解釈によりどのような行動を取るか、という順番でノート取ることで、論理的に思考し、説得力を持ってプレゼンテーションすることができます。

それを小学生でも使えるようにしたのが、『頭のいい人はなぜ、方眼ノートを使うのか』(かんき出版)などの著書を持つ高橋政史氏で、麹町中学校が方眼ノートを導入するサポートをしたそうです。学校で使われた基本フレームは「授業のねらい・結論」「板書=空」「気づき・疑問=雨」「まとめ・行動目標=傘」、そして「要約」の5つ。1つの授業で、見開き1枚の方眼ノートを使ってノートを取っていきます。

工藤氏がこのフレームワークを学校に導入した目的は「大人になっても使える、再現性のあるスキルを身に付けること」だったそうですが、ある卒業生の母親は「当時仕事で忙しく、子どもの勉強を見るなんてとてもできなかったのですが、娘は麹町中学校に通っているうちに、自分から勉強するようになりました。そのうえ物事を客観的に捉え、私たち親にも論理的に自分の考えを話すようになって驚きました。娘は今でもこのフレームでノートを書いています」と言います。まさに再現性のあるスキルになっているのですね。

これからは生涯にわたって学び続けることが必要で、そのためには、学び方を学ぶことが大切だといわれています。子どもたちの学ぶ意欲を引き出すためには、「頑張れ!」とか「勉強しなさい!」という叱咤激励ではなく、生涯使える再現性のある勉強の仕方を教えていくこと。そして「わかる!→楽しい!→もっと勉強したい!→成績が上がる!→さらにやる気が出る!」というよい循環を起こすためには、周囲の温かい励ましが大切ではないでしょうか。

実は私も最近このノートの書き方を学んで仕事で使い、とても役立っているので勉強のやり方の1つとしてノート術をお伝えしました。皆さんがこれまでにやってよかった勉強方法にはどんなものがありますか?

(注記のない写真:aijiro / PIXTA)