
前回、日本の学校で探究学習が広がらないワケを書きました。取材を進めていくと、探究学習って何なのか、教員の理解が進んでいない、教員が忙しすぎる、そもそも何のために探究学習が必要なのか、その目的が言語化されていないなど、さまざまな理由が浮かび上がってきます。
それどころか、全国の学校では、統制的な指導をよしとするムードが広がっているという話も耳にします。のっけから、ネガティブな話で恐縮ですが、これも現実です。
2020年から新学習指導要領が施行され、いよいよこれから日本の教育が変わっていくのかと期待をした途端、コロナ禍による一斉休校から新学期が始まり、環境が未整備のまま急激なオンライン化に対応せざるをえなくなり、現場の先生は、目の前のことに追われて「それどころではない」状況に置かれているということもよくわかります。
しかも、探究学習って、言い換えれば教えない教育とも言えるわけで、教えることを仕事としている先生からしたら、「自分の仕事を奪う憎いやつ!」という感じかもしれません(ちょっと極端な表現かもしれませんが……。先生にとって痛みを伴う変化なのは、ある意味事実では)。
一方で確実に教育を変えていこうという動きもあります。そういうポジティブな実践例を紹介しつつ、子どもの探究力を育てるうえで、何が必要なのかを考えていきたいと思います。
正解を教えるのではなく、問いから始まる授業
まず、探究教育の事例を紹介しましょう。
今回紹介するのは、静岡聖光学院中学校・高等学校(静岡県・静岡市)です。横浜にある進学校・聖光学院の姉妹校で、近年、教育改革先進校として教育関係者から注目されています。そこで、どのような教育が行われているのか、取材をしました。
「枠組みを与えて、問いを中心に子どもたちを主語にした構造的な探究授業を行っている」という授業は、Ideas(アイデア)・Connections(つながり)・Extensions(応用)という3つの性質の異なる学習によって構成されます。
例えば、中2の物理分野では、日常的な事象を物理的な視点で捉えられるようになることを目的とし、力の単元では、「どうしたら紙飛行機をより遠くへ飛ばせるか?」という問いかけをします。生徒たちは、実際に紙飛行機を飛ばしながら、より長く飛ばすためにはどうすればよいかを、知識を基に力の大小関係の視点から考え、力を最大化するための方法を自分で導き出します。仮説・検証・結論のサイクルを繰り返していくのは、まさに探究サイクルです。
通常の授業なら、力について説明をしてそれを覚えさせるところですが、問いから始めることで、生徒たちは知識を複合的に使うようになり、さらには、力を学ぶ意義を自ら見いだしていくようになるのだとか。今では、問いを自分で立てることで、さらに意欲が高まるような学びのスタイルを実験的に行っているそうです。