記事の目次
自ら問いを立てて情報を集め、考え、行動する
世界の教育は?フィンランドの探究的な学び
日本の教育現場で探究が広がりにくい理由

自ら問いを立てて情報を集め、考え、行動する

今、日本の学校教育は、明治以来といわれる大きな改革が行われようとしています。そのキーワードが「探究」です。「探究」とは、辞書で引くと「物事の意義・本質などをさぐって見きわめようとすること」(三省堂『大辞林』)とありますが、学校で行われる探究型学習は、「正解を暗記する勉強法ではなく、自ら問いを立てて、課題を解決するために情報収集をし、みんなで意見を出し合い、解決へと導く能力を育んでいく学習」のことを言います。

しかし、そう言われてピンときた方は、どのくらいいらっしゃるでしょうか?

一般の方が「教育改革」と聞いて、まず思い浮かぶのが学校教育のICT化かもしれません。実際、GIGAスクール構想の下、小中学校では1人1台の端末が配布され、授業で使われるなど、目で見える変化はあります。しかし、それは、教育改革を進めるツールの1つです。

日本の教育は、10年ごとに改定される学習指導要領によって、その方向性が定められていますが、今回の学習指導要領では「子どもたちが自分で未来・社会を切り開いていくための資質・能力を育んでいく」ことを重要な指針として位置づけて、学校教育の中で育成することを目指しているのです。このことを理解している人がどのくらいいるでしょうか。

そして、そのための手法として、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)を取り入れて、探究学習を行うとしています。

今年度から、高校ではその名も「古典探究」「理数探究」「地理探究」など「探究」の付いた科目が新設されました。また、「総合的な学習の時間」は「総合的な探究の時間」に改められます。

では、いったいなぜこれほどに「探究」が重要視されているのでしょうか。

それは、社会がものすごいスピードで変化し、複雑化しているからです。AI(人工知能)やVR(仮想現実)などデジタル技術の革新で、Society 5.0の波が到来しているといわれています。また、地球温暖化に伴う気候変動や異常気象による自然災害、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック、そしてウクライナへのロシアの侵攻に象徴される世界情勢の変化など、予測も解決も困難な事象が次々と起こっています。まさにVUCAな時代です。

こうした激しい変化に対応していくためには、物事を自分事として捉え、自ら問いを立てて情報を集め、考え、行動するというサイクルを回していく必要があります。これはまさに、探究学習のサイクルと同じです。

つまり、変化が激しく予測困難な社会に対応し、自分らしい生き方を選択して幸せに生きていくためには、「探究」する力を子ども時代から身に付けていく必要があるということなのです。

※ Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった造語で、予測困難な状況を指す

世界の教育は?フィンランドの探究的な学び

では、世界の教育はどうなっているのでしょう。

OECD(経済協力開発機構)による「Education 2030」というものがあります。下図は「ラーニングコンパス」と言って、2030年に向けて必要な能力の再定義と学習フレームワークが描かれています。これには、生徒が、未知なる環境の中を自力で歩みを進め、進むべき方向を見つけ舵取りをするという意味を込めて、コンパス(羅針盤)と名付けられています。

出所:OECD Learning Compass 2030 Concept Note,2019

ここで注目したいのが、学びの目的地が、ウェルビーイングであるということです。ウェルビーイングとは、「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあること」を意味しますが、自分自身そして社会のウェルビーイングを実現するために、自ら行動できる意志を持った人を育成することが、世界の教育の目標になっているのです。

では、世界の国々の教育は、実際どうなっているのでしょうか?

ここでは、かつてOECD生徒の国際学習到達度調査(以下、PISA)で世界一となり、教育先進国として注目されたフィンランドの現状を紹介します。

PISAの世界ランキングの結果は、日本の教育政策にも大きな影響を与えていますが、フィンランドは近年ランキングを下げていることから、学力が落ちたと評する人もいます。しかし、18年度調査でも、平均を上回る順位を保持していますし、とくに読解力に関しては、日本とは反対に高いスコアを出しています。

そんなフィンランドの今の教育の目的は、「何を学ぶかではなく、学び方を学ぶ」こと。なぜなら、学習の方法とプロセスを知っていれば、いつでも自ら学ぶことができるから。そして、近年、教師は教える人ではなく、ファシリテーターとしての役割だという考え方が定着しているといいます。

フィンランドの生徒たちは、学校で、インターネット検索、図書館、オンラインアプリやゲーム、ほかの人へのインタビュー、実践的なプロジェクト、学校以外の場所や自然のスポットへの訪問など、さまざまな方法を通して学んでいます。

例えば、環境問題やSDGsについて、森林を訪れたり、自然学校で学んだり。STEM教育を通じて独自の製品を作って販売しながらアントレプレナーシップについて学ぶなど、体験や教科横断型の授業も頻繁に行われています。これらはまさに、探究的な学びですね。

フィンランドでは、日本の学習指導要領に当たる教育目標が、3〜4年に一度アップデートされますが、その理由は社会変化のスピードに合わせる必要があるから(日本ももう少しフレキシブルに変化に対応していったほうがいいのではないでしょうか)。

その結果、今のゴールは、PISAの学力を上げることではなく、「地球市民への道」だといいます。そして、多文化を背景に持つ仲間と一緒に、多言語や異文化について学びながら、心の知能指数(EQ)を上げることが、今日のフィンランド教育における大事な項目の1つになっているのです。

日本の教育現場で探究が広がりにくい理由

どうでしょう? 正直、私は、日本とは教育の目的の捉え方が違うと感じました。

では、日本の先生たちは、今回の教育改革や探究的な学びについてどう受け止めているのでしょう。複数の公立小中学校の先生に聞いたところ、上がってきたのは、「探究的な学びが実践できている学校とできていない学校が二極化している」「小学校では20年前から総合学習をしているから、それが探究だが、やることが多すぎてカットカットの日々。コロナ禍で外にも出かけられない」という悲痛な声。

それでも、ICTを活用して学び合いをしたり、地方の学校や海外の人とつないで授業を行うなど、今だからできることで探究的な学びを進めている公立小学校もあります。

調布市立多摩川小学校の授業の様子

教育現場で探究が広がりにくい理由をある公立中学校の先生は、「探究的な学びを教員が受けてきていないので、実感が湧かないし、学習指導要領が目指す方向性を市教育委員会や校長先生が本質を理解していないので、具現化できない」と言います。

一方で、探究的学びができている学校の子どもたちは、主体性があり、自律している。主体性を持って学べているから、全国学力調査の結果も全国平均を超えているのだとか。

ある母親は、「学校が変わるには時間がかかることもわかる。でも理想論かもしれないけれど、一人ひとりの子どもたちの自主性を尊重するそんな教育が広がってほしいと思うし、まず私自身がそうありたい」と話してくれました。そうなのです。大きなシステムを変えるのは難しいけれど、探究は家庭で十分できます。

18 年に小学校に入学し、子どもが成人として社会に出ていくことになるのが30 年。子どもたちは、現時点で開発されていない技術を使い、今は存在していない仕事に就き、多様な価値観を持つ海外の人と交わって生きていくことになります。

その子どもたちが、自分で幸せな未来を切り開いていけるように、できない理由を並べるのではなく、できることから始める。そして、いい事例やグッドニュースがどんどん広がっていってほしいと心から思います。その役割を私も果たしていきたいと考えています。

中曽根陽子(なかそね・ようこ)
教育ジャーナリスト/マザークエスト代表
小学館を出産で退職後、女性のネットワークを生かした編集企画会社を発足。「お母さんと子ども達の笑顔のために」をコンセプトに数多くの書籍をプロデュース。その後、数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。「子育ては人材育成のプロジェクト」であり、そのキーマンであるお母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。著書に『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)などがある
(写真:中曽根氏提供)

(注記のない写真:調布市立多摩川小学校提供)