年齢:33歳
居住地:地方都市
専門:数学
勤務先:中学校
担任:特別支援学級
「特別支援学級をお願いしたい」
私は、特別支援学級の担任をするようになってもう9年になります。希望していたわけではありませんし、教員を目指していた頃には考えてもいませんでした。最初の連絡は電話だったんですけど、電話口で「特別支援学級をお願いしたい」と。そのときは、やっぱりあまりうれしくはなかったですし、動揺しました。「何で俺なんだ」って。思春期ど真ん中の生意気な中学生たちと、どうやり合おうかとワクワクしていたところでしたから。
実際に勤務が始まっても負の感情は拭えず、しばらくすると「何で俺がこのクラスの担任をしているんだろう」と思うようになり、早く一般のクラスを持ちたいと感じるようになりました。
特別支援学級の子どもたちは、周りの子どもから疎外されていますし、担任である私もほかの職員から疎外されているように感じていました。指導の悩みに関しても一般のクラスとは少し違うこともあって、ほかの先生の話題についていけないんですよ。学級通信とかの配布物が私のところにだけ回ってこなかったこともあります。それも複数回。徐々に、ほかの先生から仲間外れにされているような気分になっていました。
でも、ほかの先生たちと個別に話すと、至って普通。冗談も言い合いますし、飲みにも行く。そこで気づいたのは、特別支援学級も私も、ただただ存在が薄かったということなんです。じゃあ、自分から発信すればいいんだと。「配布物ちゃんとこっちにもくださいよー」「忘れないでくださいよー」って。そうやってアピールするうちに疎外感もなくなり、自分の居心地もよくなっていきました。
最初の卒業生を送り出して、その子たちが高校に行ったわけですけど、しばらくして私のところに遊びに来てくれたんです。近況報告ですね。そこで、伸びているのが如実にわかったんです。これはうれしかったですね。
とはいっても、一般のクラスの担任を持ちたいという気持ちはその後の数年は変わらずあって、しばらくは校長に希望を伝えていました。それでも願いはかなわず、そうこうしているうちに5年が経とうとしていました。初任の学校は最長で5年なんですが、その時期が近づいてきていろいろと考えるようになりました。本当にいろんなことです。
自ら特別支援学級を希望
特別支援学級って、いろんな子がいるのでひとくくりにできませんが、例えばハサミを上手に使えない子が真っすぐきれいに紙を切れるようになるとか、できなかった掛け算ができるようになるとか、そういう子もいます。それだけで子どもたちの世界って変わるんです。それを喜々として語るんです。そこに立ち会えるのって幸せなんですよ。
中学生の本分って生意気なところかもしれないですけど、特別支援学級ではそういう生意気さというのはないんですね。むしろ、取り組んでいるレベルとしては小学生の延長線上かもしれません。それでも目の前でそういう出来事があると、うれしくなってしまうんですよね。
私の今の学校では、特別支援学級の子は週に2、3時間は一般のクラスに交じって同じ授業を受けることがあって、イベントでは一般のクラスと一緒になるんです。でも、そうなるとやっぱりうまくいかないことが多い。体育祭で大縄跳びが跳べない、合唱コンクールで音程が合わない。そういうことがあると、冷たい視線が飛んでくるし、実際に嫌なことを言われたりするんです。クラスのみんなで一つのものをつくり上げようとして、うまくいかない原因が明らかであれば、そりゃそうですよね。冷たい視線を飛ばす子の気持ちもすごくよくわかる。
でも、その一方で、障がいを理解して、助けてくれる子も出てくる。肩を持つような発言をしてくれたり、大縄跳びのコツを説明しようとしてくれたり。それでまたクラスの雰囲気が変わったりする。それはそのクラスの成長のタイミングだったりするんです。
それと、実際的な考え方の変化もありました。各教科ごとに研究会というものがあって、近くの学校から同じ専門を持つ先生が参加するんですけど、特別支援学級もあるんですね。その研究会も新任の頃、すぐに誘われましたが、しばらく断っていました。正直なことを言うと、一度入ったら抜けられなくなると思っていたんですね。そのときはすぐにでも一般のクラスを担当したいと考えていましたから。
でも断り続けるのも難しくて、研究会にも参加するようになったんですけど、やはり参加した分だけ少しずつ知識が深くなっていくんです。数年経つと新しい先生たちからの相談にも乗れるようになってきました。そうやって少しずつやりがいを感じるようになったんです。
そんなことがあって、次の学校に行くときには、自分から特別支援学級を希望しました。新しい学校に来て、もう4年が経ちます。
障がいの度合いで親の考えが変わる
経験が増えて思うのは、親御さんへの対応の難しさですね。親御さんはざっくりいうと子どもたちと同様、素直な方が多い。しっかりやっていると、それは見ていてくれて信頼関係ができますが、こちらが手を抜くとガンガン詰めてくる。
難しいのは子どもの障がいの度合いによって、親御さんの意識が違うということです。障がいがはっきりしている子の親御さんほど学力の支援より、「生活の支援」を期待するんですね。それが、障がいが軽度の子の親御さんになると、「学力の支援」を求めてくる。学力を何とかつけてもらって、ゆくゆくは普通の生活ができるようにという希望を持っているんです。
それぞれの事情があるので、それらの個別の要求は問題ないんです。ただ、その微妙な違いを理解していない先生が対応してしまうと、親御さんから不信を買ってしまうことになります。
特別支援学級には経験のある先生だけではなく、新任の先生や再任用という形で入る年配の人もいて、そういう人は、伝え方が上手ではなくてトラブルになるケースもあります。例えば、できないことがあってパニックに陥ってしまった子がいたとして、その事実をそのまま伝えてしまうとか。
親御さんからしてみれば、できないことがあるのもパニックになるのも、許容範囲内なんです。それを先生たちがどう指導してくれたのかが聞きたい。そういう細かいところは気を使いますね。今では、当初から比べたらだいぶ余裕が出てきました。
それで、今考えているのは「特別支援学校」という選択肢です。一般の中学校にある特別支援学級ではなく、支援が必要な子だけが通う専門的な学校です。
というのは、一般校の中の特別支援学級ってつらいこともやっぱり多いんですよ。障がいを持っている子が、友達の輪の中に加わりたいけど加われないとか、それどころか嫌がらせを受けるっていうのはしょっちゅうで、間近で見ているとつらいし、今の私ではその場しのぎの指導しかできないんです。専門的な支援や指導の方法を学べば、嫌がらせを受けた障がいのある子だけでなく、周囲の子に対してもできることが増えるんじゃないかと思っています。
ですから、専門的に学んでからまた一般の中学校に戻ることを考えています。その場での専門的な指導法も役立つでしょうが、先を見据えて指導ができますから。中学校を出て高校に行ってその後どうするのか、そういうところを考えて指導していきたいです。
中学校の教員を目指した頃には今の環境はまったく想像できなかったですけど、想像していなかったやりがいがあります。何でもそうだと思うんですが、やっぱり経験が増えると、見えてくるものが変わってくるんですよね。もうここまで来たら、今の道を突き進もうと考えています。
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