投稿者:豊島秋弘(仮名)
年齢:65歳
勤務先:私立中高一貫校(退職済み)

高学歴教員による巧みな排除で学級崩壊

豊島さんは、大学を卒業して大手企業に就職。その後、私立の中高一貫校にヘッドハンティングされて教員としてのキャリアをスタートした。手腕が認められ、複数の学校に勤務する中で、引っかかりを感じるようになったという。

「学級崩壊を起こすクラスには、共通点があるような気がしたんです。そういうクラスからは退学者も多く出ます。少ないときで年間10人、多いと30人を超えることもありました。何が原因なのだろうと注意深く観察したところ、どこも他校から着任したばかりの高学歴の先生が担任であることに気づきました」

豊島さんによると、“高学歴”というのは主に“旧帝大”と呼ばれる難関国立大学のこと。興味深いのは「他校から着任したばかり」という点だ。たいていは、公立中学校や高校から転職してきた人材だったという。

「それとなく話を聞くと、前任校でうまくいっていないことが多い。でも学歴は高いので、転職活動はスムーズにパスできるのです。こういう先生に共通しているのは、『失敗したくない』という強い思い。自分に落ち度がないように、学校側が求める“良いクラス”をつくろうと必死なのです。その結果、子どもたちを学校のルールや規則に当てはめることを何より優先してしまう。そして、そこから外れる生徒は巧みに排除していくんです」

たとえば、クラスの成績を平均点以上にするため、成績の低い生徒が学校からドロップアウトするように仕向けるという。「さすがにそこまではないだろう」と信じたいところだが、東京都が公表している「令和4年度における都内私立学校の児童生徒の問題行動・不登校等の実態」を見ると、そうも言えなくなってくる。

私立小学校および中学校における長期欠席の状況

これは、文部科学省が実施した調査から、東京都内の私立学校分を取りまとめたものだ。中途退学者数に関しては中学校分の調査がないため、代わりに「不登校の要因」を見てみよう。

「学校に係る状況」の「主たるもの」で最多なのは「入学、転編入学、進級時の不適応」。僅差で「いじめを除く友人関係をめぐる問題」「学業の不振」が続く。同じ受験をクリアしながら周りと比べて成績が落ちてしまう生徒が、学校や同級生になじめなくて不登校になる生徒と同程度いるということだ。

「実際、偏差値70の中高一貫校では、中1の1学期を終えた時点で数学の授業についていけなくなる生徒が何人も出ました。成績が落ちた生徒は、やる気がどんどんなくなり、ふてくされた態度をとるようになります。ある生徒は、『気を抜いてちょっとよそ見したら、すぐにわからなくなった感じ。新幹線みたいだった』と呟いていました。教員はこのような生徒に構わず置き去りにしてしまうんですね」

「今日から“殿上人”」?校長会で耳を疑う衝撃発言

この現象は、中学受験でしばしば問題視される「燃え尽き症候群」とはやや様相が異なり、「入学後の教員の対応に問題がある」というのが豊島さんの見立てだ。

「長年の教員経験で感じるのは、児童・生徒全員が同じスタートラインに立てる『小1』『中1』『高1』が非常に重要ということです。このタイミングで、担任が児童・生徒に対して1人の人間として接すれば、子どもたちは生き生きと成長していきます。

ところが、とくに小1や中1の場合、一部の教員は児童・生徒を必要以上に子ども扱いしてしまうんです。例えば、言うことを聞かない児童生徒を、事情も聞かずに押さえつけたり、排除しようとしたりしてしまいます。『支配』『強制』『監視』『命令』の要素があると、クラスは荒れてしまいます」

これは、私立学校だけでなく公立学校でも同じだという。別の中高一貫校で校長を務めた後に、公立小中学校のコンサルタントも経験した豊島さんが気になるのは、校長の姿勢だ。

「公立校の校長時代に参加した、地域の校長会での出来事が忘れられません。会長が、教頭から校長になったばかりの先生を壇上に集め、『あなたたちは、今日から“殿上人”になりました』と言ったのです。当時すでに教員歴は30年近かったので、学校特有の雰囲気は熟知していたつもりでしたが、公立学校は想定以上にヒエラルキーがあるのだと痛感しました」

この「教員のリアル」の連載でも、強い権力を持つ校長に配慮する教員が多く登場している。その背景にあるのが、人事評価制度「教職員評価システム」だ。2016年度から全都道府県で導入され、教員の能力と業績をA〜Dの4段階で評価する。この評価が給料にも反映されるのだが、評価者が校長のため、教員はどうしても校長を見ながら仕事をすることになる。

「この構造をとるのであれば、校長の見識が非常に重要だと思います。しっかりしたビジョンを持って、先生たちを導くべきです。しかし、実際校長たちは教育委員会ばかりを向いているように見えます。校長がこういう姿勢を取るから、先生たちも児童生徒ではなく校長の様子を窺ってしまうのではないでしょうか。本来は、校長自らも児童生徒に向き合い、先生方の先頭に立って子どもたちに教育を施す姿を見せる必要があるはずです」

豊島さんがこう話すのは、豊島さん自身が教員駆け出しの頃に、校長や理事長から綿密な指導を受けたからだ。

「教員として持つべき姿勢を、厳しくも愛情をもって指導してもらいました。とくに、『生徒と話すときは、必ず四半世紀先を見据えなさい』と教えられてからは、『子どもたち1人ひとりがどんな人生を歩むのかを常に考え、導くのが教員だ』と解釈して仕事にあたるようになりました。そのおかげで、私は教員という仕事に面白さを感じましたし、今でも情熱を持って取り組めています。新任から3年間は、校長がそうしたメンターの役割を担うことで、教員の質はずいぶん変わるのではないでしょうか」

児童生徒の「四半世紀先」見据えた指導すべき

実際、新任の教員にとって現在の学校は過酷な環境だ。教員不足はますます深刻化しており、全日本教職員組合の調査結果(※2)によれば、2024年10月1日時点で、調査に回答した34都道府県11政令市だけでも4739人の未配置があった。さらに、未配置の総数は同年5月から5カ月間で約1.38倍に増え、事態は収束どころか拡大している。

教職員未配置の状況、校種・未配置の内訳

欠員が出ている中で、新任教員をじっくり育成する余裕はないのも現実だろう。初任者研修こそあれど、配属されればすぐにクラスを持たされ、入学式・始業式から早速保護者とのやりとりも始まる。校長からの十分な指導が受けられなかったとして、学級崩壊を防ぐために教員個人でできることはないのか。豊島さんの回答は、「ホームルームを大切にする」というものだった。

「朝と帰りのホームルームで3分ほど時間を取って、自分の思いを語ります。それに対して子どもたちに意見を聞くことで、先生と子どもたちとの間にコミュニティが形成されるのです。私は『小さな共同体づくり』と考えていますが、これによりコミュニケーションが活性化し、いじめなども起きにくくなると感じています。ちなみに冒頭で話した、学級崩壊をしてしまったクラスには、ホームルームがありませんでした」

この回答の肝は、教員が人として児童生徒と向き合う時間をつくるべきだということだろう。もちろん、これだけでいじめや不登校が解決するとは限らないし、すべての教員に一律にマッチするわけでもないだろう。しかし、子どもたちが四半世紀後に生き抜く社会は、人と人がつながって形成されている。それを踏まえれば、校長も教員も、児童生徒に対して1人の人間としてじっくり向き合えているか、今一度振り返ってみることは決して無駄ではないだろう。

(文:高橋秀和、注記のない写真:吉野秀宏 / PIXTA)