学校では、そろそろ夏休みが始まる頃ではないでしょうか。子どもを持つ保護者の皆さん、そして学校の先生や学童保育など日ごろ子どもたちと接する機会の多い教育関係者の皆さん、夏休みには子どもたちに読書をさせてみませんか?

子どもの頃に本を読んで教養を深め、本のよさに気づけるようになるというのは大切なことです。東大生も、やっぱり多くは読書家です。今も夏休みの宿題として読書感想文に取り組ませる学校は多いですが、読書感想文というのは、実は非常に大きな学習効果があります。「読んだ本の感想を言語化してみる」のは、とても学習効果の高いことなのです。

西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生。1996年生まれ。偏差値35から東大を目指し、オリジナルの勉強法を開発。崖っぷちの状況で開発した「思考法」「読書術」「作文術」で偏差値70、東大模試で全国4位になり、2浪の末、東大合格を果たす。そのノウハウを全国の学生や学校の教師たちに伝えるため、2020年に株式会社「カルペ・ディエム」を設立。全国5つの高校で高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。また、YouTubeチャンネル「スマホ学園」を運営、約9000人の登録者に勉強の楽しさを伝えている。著書『東大読書』『東大作文』『東大思考』(いずれも東洋経済新報社)はシリーズ累計38万部のベストセラーとなっている
(撮影:尾形文繁)

読書感想文のいちばんのポイントは、「アウトプットである」ということです。読書という行為は「インプット」でしかありません。「へえ、こんなことあるんだー」と本に書いてあることを頭に入れるだけの行為です。しかし、それでは記憶には残りません。記憶に残し、次に生かせるようにするためには、「アウトプット」が必要なのです。

例えば、皆さんが昔読んだ本の中で、内容を鮮明に覚えているものってありますよね。それって、友達や親御さんと感想を共有した本ではありませんか? 人と「このシーンよかったよね!」「ここびっくりしたよね!」といったように、その本について感想を共有すると内容を忘れにくい。読書で得た知識や情報について、友達と議論するのもおすすめです。人に説明することでインプットの質も高まります。とくに「感想」は自分の感情を乗せてアウトプットする行為なので、記憶に残りやすくなります。こうした「アウトプット」の習慣は読書はもちろん、勉強においても重要なんですね。

さて今回は、夏休みに読んでおきたい「子どもにお薦めの本」を3冊ご紹介したいと思います。高校生をイメージして選びましたが、小・中学生も興味を持つようであれば手に取らせてあげてください。また自由に作品を選んで読書感想文を書くことが認められているならば、アウトプットにもぜひ挑戦させてみてください。

ライトノベルの中にも教養になる面白い本がたくさんある

まずは、いちばん読みやすい本からご紹介します。

最近は、本嫌いという人も多くいますよね。本なんて読みたくない、と思っている子も少なくないと思います。そんな子には、まずはライトノベルをお薦めします。ライトノベルというだけで敬遠する方もいるかもしれませんが、ライトノベルだって千差万別です。ライトノベルの中にも、普通の小説以上に教養になる面白い本もたくさんあります。

『“文学少女”と死にたがりの道化』(ファミ通文庫/KADOKAWA)著/野村美月、イラスト/竹岡美穂

僕がいちばんお薦めなのは、野村美月著『“文学少女”シリーズ』(ファミ通文庫/KADOKAWA)。1つの作品ごとに文学作品をモチーフにしており、モチーフになるのは『人間失格』や『嵐が丘』などの王道で有名な文学作品です。その文学のこともわかるし、もっと文学を読んでみたくなる1冊だといえます。

文学の中には、いろんな感情や価値観が含まれています。その中には、エゴイズムもあれば復讐心も劣等感も人間的な欲望も、さまざまなものが凝縮されていますよね。それを、この作品では現代的に描いてくれています。文学の中に含まれるさまざまな要素を、しっかりと、それでいて現代の若者でも読みやすい形に編纂してくれているのです。文学を読む前に、一度この本を読んで文学を読む準備をしてみるというのは非常におすすめです。

読書感想文を書くなら、この作品の元の文学を読んでみるのがおすすめです。モチーフになった作品とこの作品を読み比べてみて、この作品の解釈と、自分が読んでみた解釈がどう同じで、どう異なっていたのかを考えさせてみると、読書感想文も書きやすくなると思います。

毎回絶対に「どんでん返し」が用意されている作品

『キノの旅 the Beautiful World Best Selection I』(KADOKAWA)著/時雨沢 恵一、イラスト/黒星紅白

続く2冊目も、ライトノベル作品をご紹介します。

時雨沢恵一著『キノの旅』(KADOKAWA)。主人公のキノが、さまざまな国を旅する短編集です。僕も実は、子どもの頃からこの作品のファンで、今でも最新巻を買っています。

この作品は「風刺」が利いている作品です。昔から、スウィフトの『ガリバー旅行記』やセルバンテスの『ドン・キホーテ』など、世の中を皮肉った本というのは評価が高く、面白いですよね。自分たちが考えている「正しいと信じているもの」が間違っているのではないかとハッとさせられたり、世の中の間違っている部分をユーモアも交えて紹介されて「確かにな」と笑いながら自覚させられたり……風刺には、そんな面白さがあります。

この『キノの旅』は、1つの国が何かの風刺になっていることが多いです。民主主義や科学革命、金銭といった具体的なものから、大人と子ども、愛や恋、うそと誠といった抽象的な概念も含めて、現実世界にある「何か」を題材にして、時に否定し、時に肯定したりしています。

それだけにとどまらず、この本はどこかで毎回絶対に「どんでん返し」が用意されています。「まあこういう話なんだろうな」「ああ、どうせこういうエピソードなんだろう」という大方の予想を裏切って、「え!? そういう展開になるの!?」と驚かされます。通常どおりでは終わらないからこそ心に響くし、また「当たり前」や「ありきたりな展開」を打破しているからこそ、「風刺」としても機能してくれるのです。

完全な機械化が達成された、仕事をしなくてもいい国に行ったはずなのに、なぜか人々は会社に行っている。人を殺してもいい国に行ったはずなのに、なぜかものすごく治安がいい。普通ならば考えられないことが起こっていて、そして同様に、オチも普通には終わらない。そういう面白さがあるのがこの作品です。

読書感想文を書くなら、風刺の部分にフォーカスして読んでもらうといいと思います。この作品は、現代のどんな状況を風刺しているのか考えてみよう!と。小学生や中学生が読んで、「これはこのことの風刺だろうな」と読むのは難しいかもしれません。しかし、それでも考える機会を提供し、「タネ」として小さいときに読んでおくことは重要だと思います。小さなタネでも、大人になり、後々勉強している中で、「そういえばこれってもしかして……」とか、「あれ、今の議論って、『キノの旅』の中で触れられていたような……」とか、そんなふうに芽が出て膨らんでいく。そのための作品として、『キノの旅』は強くお薦めできます。

老いも病気もない社会を舞台に、個人の幸せとは何かを描いた作品

『ハーモニー』(ハヤカワ文庫/早川書房)著/伊藤計劃

3冊目にご紹介するのは、SF作品の伊藤計劃著『ハーモニー』(ハヤカワ文庫/早川書房)です。この作品は、「地球上からほとんどの病気がなくなった、老いもせず病気にもならない」社会を舞台に、個人の幸福のあり方を問う作品です。

舞台は、大災害で大勢の人が亡くなり、多くの人々が「命」を大切にするようになった結果、高度な医療技術が発達し病気の元になるような酒やたばこ、雑菌の多い場所などが駆逐され、「長生きすること」が是とされる社会。さらにそんな中で、体内に埋め込まれたマイクロチップで栄養や食事が完全に管理され、個人個人が自分の体の状態を気にしなくても生きられるようになっています。老いることもできず、病気にもならず、体に悪いものは摂取できない。その代わりに、長く生きることができるわけです。

「老いたり病気になったりしないような優しい社会で、個人は本当に幸福だといえるのか?」。福祉・医療分野の科学技術が進んだ先で、個人の幸せとは何かを描いた作品が、この『ハーモニー』です。読書感想文を書くときは、この作品のそんなテーマに対して、どういう解答を出したのかを聞いてみるといいと思います。

SFというのは、科学の発展を喜ぶだけのものではありません。科学が発展した先に起こる問題を見せ、今を生きる僕たちに「考える」ことを求めてきます。これは未来の問題としてではなく、今を生きる僕たち一人ひとりが考えるべき問題だと、教えてくれるのです。

この『ハーモニー』も、切り取ってしまえば「未来の社会での」個人の幸福の話ですが、よく読んでみれば「今の社会を生きる」僕たちも考えなければならない問題だと気づかされます。

ネタバレになってしまうのであまり深くは言えないのですが、この作品では最終的に、「だったら個人であることをやめて、個人の意識を捨ててしまったほうが人間は幸せになる」という解答を提示しています。人々の命が管理された社会なら、いっそのこと体だけでなく意識すらも放棄してしまったほうが、人間は幸せになれるのではないか、と。

この幸福のあり方は、見る人にとっては受け入れがたいもので、見る人によっては本当に幸福なものです。幸福の捉え方は、人によって、価値観によって揺らいでしまいます。そして揺らぐからこそ、考える価値があります。考えて、結論が出ないとしても、きっと明日を生きるのに役立つはずです。この『ハーモニー』は、そんな難しいけれど考えるべき問いを提示してくれている作品なのです。

さて、この作品をお薦めする理由というのがもう1つあります。この作品はアニメ映画化もされているので、もし小説で挫折しても、アニメ映画から見てみることで読みやすくしてから読んでもらってもいいのです。

それだったら子どもたちはアニメ映画しか見ないんじゃ、と思うかもしれませんが、実はこの作品、小説版のラストとアニメ映画版のラストで少し違う部分があるのです。映画を見て、小説も読んで、比べてみることでより作品が楽しめるので、きっとどちらも見てくれるはずだと思います。

いかがでしょうか? 読書の秋とは申しますが、個人的には読書は夏にこそやっておくべきだと思います。コロナ禍で家にいることも多い子どもたちに、ぜひこれらの本を紹介してあげてみてください。

(注記のない写真はiStock)