トラブルの多いオンラインゲーム、入り口は「オフライン」

――スマホ所有の低年齢化やゲーム業界の盛り上がりなどを背景に、ゲームに夢中になる子どもが増えています。ゲームによるトラブルも多いといわれていますが、教員はどう対応すべきですか。

とくに小学校高学年くらいになるとオンラインゲームのトラブルが増え、教員がそれに対応して疲弊するという話も聞きます。トラブルに発展する経緯は、だいたい似ています。

オンラインゲームはネットを介したゲームなので「ネトゲ」とも呼ばれていますが、多くの場合、実はネット接続を介さない「オフライン状態」でもストーリーを楽しめます。なので、始めた頃はオフラインでストーリーを進めることに熱中します。

ゲームに慣れてくると、学校の中で同じゲームをしている子と攻略の話題で盛り上がるようになります。「あの攻略サイト、知ってる?」「あのユーチューバーのゲーム配信、面白いよな!」と、共通の興味・関心事なので、話が尽きることはありません。

そしてある日、「オンラインで一緒にやってみない?」という話になります。現実とは異なる世界で、チャットや音声通話で会話しながら冒険を進めるのはとても楽しいです。協力しながらミッションをクリアしていく達成感は、現実で得られるものとは一味も二味も違います。しかもどんどんアップデートされるので終わりがない。僕自身、ネトゲ廃人になるほどはまりましたのでよくわかります。

ゲームの3大トラブルは「暴言・あおり・課金」の加速

こうしてのめり込む中でトラブルが起こってくるのですが、主に3つの傾向が見られます。

1つ目は、「文字によるチャットや音声によるボイスチャットを通じた暴言の過激化」。最初は仲良くゲームしていた仲間と、しだいにささいなことでけんかが生じ、暴言を吐くようになるのです。

「ログイン時間を合わせろよ! パーティー組めないじゃん!」「一緒にパーティーを組んでも、お前の装備は貧弱すぎて足手まといだ!」「その装備をくれないと、今後一緒に遊ばないぞ」「お前のせいでチーム戦に負けたじゃないか。責任取れよ!」

また、「うわ、雑魚! 弱っ!」とバカにするような言葉を相手に浴びせる「あおり行為」も起こりやすい。実際、学校で物静かだった子が、オンラインゲームを始めてから言動が荒くなったという事例を見聞きします。

オンラインゲームを始めてから言動が荒くなった事例はよくあるという
(イラスト:田中氏提供)

2つ目は、「ゲーム内での競争の激化による、勝ち負けへの執着からくるトラブル」。あおり行為が加速し、仮想空間と実生活を切り離せない子が出てきています。ゲームの中の「あおる・あおられる」という関係性が、地続きで学校生活に侵入してくるのを僕も何度か見てきました。

アンガーマネジメントができない幼少期に「大人が介入できない場所でのトラブル経験」が重なると、よくないコミュニケーションが強化されてしまうように感じます。そうなると、メタ認知(※1)の力が育たず、粘り強さがなくなり、安易に面白いかどうかで物事を判断するようになっていく。ここは非常に心配しているところです。

※1 心理学用語。自分の認知活動を客観的に捉えていること

3つ目は、「課金などの金銭が絡むトラブル」。当初は「無料」のゲームも、難易度が上がるにつれ、課金による新たなアイテムの使用が求められます。「お年玉をゲーム内課金にすべてつぎ込んでしまった」という子も。保護者のクレジットカード番号を聞き出して友達と番号を共有し、40万円程度の課金をしてしまった事例もあります。

いつでもどこでもスマホで気軽に遊べるソーシャルゲーム(※2)は、SNS上での情報共有が盛んで、「ガチャでこんなアイテムをゲット!」などの情報を目にする機会が増えます。射幸心があおられ、とんでもない額の課金をしてしまう人が後を絶ちません。

※2 略してソシャゲ。オンラインゲームの一種で、SNSの登録が必要

僕もソシャゲをやめるまで、2年半ほど課金し続けました。四六時中スマホが気になるのです。子どもは大人以上に自分をコントロールできませんし、「親に頼んで課金しろ!」なんてあおられて課金してしまうおそれもあります。

このほか、小学生が個人情報をチャットに書き込んでしまい、ネット上にさらされることも。そこで心の傷を負っても、親に言えないのでケアが届きにくいという難しさがあります。10年前に僕が初めて対処したトラブルに比べ、質の変化を感じています。

――10年前のトラブルとは?

10年前は、中学校で「学校内掲示板」「学校裏サイト」などが問題化した頃。小学4年生の間で、「アメーバピグ」というアバターを使った交流の場が流行し、そこで「仲間外れや悪口の言い合いが発生している」と保護者から相談がありました。

当時、同僚でアメピグをやっている人は皆無。担任の先生は、子どもたちに聞いても「どうせ先生わかんないでしょ」「先生に相談すると禁止されるから言いたくない」と言われてしまい、困っていました。

そこで、アメピグにはまっていた僕が、潜入捜査をすることになりました。保護者と管理職の了承を得て、アメピグ内で子どもたちと交流。僕が仲介役となってルーム内で話し合いを進めた結果、問題は解決されました。僕が「同じ世界にいる大人」だったからこそ介入できたというのもありますが、学級トラブルの延長線上の問題だったから対応できたんですよね。

ところが今は、全然知らない人と日常的にやり取りするので人間関係の幅が広く、課金も簡単。かつ暴言やあおりがエスカレートしやすい仕組みの中、リアルとネットの境界線があいまいになっている子が増え、問題が複雑化しています。

「家庭の問題」を学校が対処するのは「無理ゲー」だ!

――教員や学校はどう対応したらよいでしょうか。

オンラインゲームのトラブルは、すべて学校外で起きています。そもそも、ゲームには「年齢別レーティング制度(※3)」があり、ゲームの内容ごとに対象年齢が定められています。

※3 ゲームが青少年に与える影響への配慮が求められるようになって始まった制度。NPO法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)が独立した運営を行っている

子どもが対象年齢を無視してゲームを購入したり遊んだりしても罰則はありませんが、学校に寄せられるゲームトラブルの多くが、この「年齢別レーティング」を無視した状況下で起こっています。ゲームを与え、許可するのは家庭の責任ですよね。

つまり、ゲームを購入し、与え、遊ぶことを許可している「家庭の問題」を学校内で対処してほしいと言われているわけです。それこそ「無理ゲー」です!

なので、僕は保護者会などの場で「オンラインゲームをめぐるトラブルは、家庭同士の問題です。学校側は介入できません。どうぞ、当事者間で話し合って解決を目指してください」と明言しています。

――ゲームを許可したものの、ゲーム依存を懸念するご家庭も多いです。保護者はどう関わっていけばよいでしょうか。

お子さんにスマートフォンやパソコンを買い与える際、家族でルールを作るのが一般的になってきました。このとき、一方的な「大人の都合」だけでなく「子どもの希望」を取り入れ、両者で合意形成を目指すことが有用だといわれています。

ゲームも同様に、家族間での「契約」としてルールを定めることが大事。とくに以下の5つが話し合いのポイントとなります。

(1)時間:ゲームをしてもよい時間
(2)場所:自宅外で遊んでよいかどうか
(3)内容:どのようなゲームなら遊んでよいか
(4)金銭:課金を認めるかどうか
(5)オンライン:オンラインで仲間と遊んでもよいかどうか

まずは「時間」。帰宅から就寝までの約6時間の中で、「遊んでもよい時刻帯・時間」を決めることは大切。これを定めないと、食事の時間やベッドの中でもやりたくなってしまいます。

自宅外で遊んでもよいか、親の目が届く範囲でならよいかなどを「場所」も話し合って決めましょう。

「内容」は、年齢別レーティングは意識したいです。「ほかの子もやっているから」と認めてしまうと、大人が内容を把握できないゲームで遊ぶことになります。

「金銭」は要注意。あらかじめ課金の有無を取り決めておかないと、なし崩し的に課金が進んでいきます。

「オンライン」は、先ほど説明したようなトラブルがたくさんあるので、リスクについて話し合ったうえでルールを定めましょう。

安全に遊べる「枠」を設定することで、初めて「安心」が生まれます。親子で定めた契約があればこそ、与えた側・与えられた側の責任が明確になり、互いの権利を尊重し合おうという関係でゲームを楽しむことができるのではないかと考えます。

教員も、保護者会などでリスク情報を共有したり、ルール作りの有用性を伝えたりすることはできるのではないでしょうか。

「リアル」とつなぎ、「体験」と捉える

――ゲームをポジティブに活用する方法や働きかけなどはありますか。

ゲームを手放しで推奨することはしません。僕は「読書」や「野外体験」の楽しさや喜びを知っています。そのうえでゲームも楽しんできました。先に「ゲームで得られる快感」を覚えてしまうと、忍耐力の必要な体験や、五感を使って手間をかけて楽しむ体験よりもゲームが優先されがちです。キャンプに行ってもゲームをしている子を見かけ、残念に思ったこともあります。

しかし、今の時代は、ゲームと先に出合ってしまう子も多いでしょう。だから、僕はリアルとつなぐようにしています。例えば、僕のクラスの子どもたちの間では「マインクラフト」というゲームが大人気。先日、「実際に土をどこまで掘れるかやってみない? リアルマイクラです」と言ったらみんな食いついてきて、「実際やるとめっちゃ大変だね!」と、大いに盛り上がりました。

算数で「箱の形」を学ぶ際、田中氏が自作したマインクラフトのキャラクターで遊んだ。リアルへとつなぐ工夫の1つ
(写真:田中氏提供)

また、ゲーム自体を「体験」と捉えるのも1つの手です。僕のクラスでは、「何を誰とどこを目指して取り組むか」を定める→その計画を基に「体験」→体験を通して得た気づきを日記で「振り返る」、という「体験学習サイクル」で学びを進めています。

これを応用した例を紹介しましょう。ゲームをしたいあまり、家庭学習を適当に終わらせてしまう子がいたのですが、「先にゲームを30分やり、その体験で気がついたことを日記に書いてはどうか」と提案したところ、とても内容の濃い日記が書けるようになりました。ゲーム体験もこうして学習サイクルを回せると、価値のある時間になると思います。

田中光夫(たなか・みつお)
1978年生まれ、北海道出身。東京都の公立小学校教員として14年間勤務。2016年、主に病気休職の教員の代わりに担任を務める「フリーランスティーチャー」となる。これまで公立・私立合わせて延べ11校で講師を務める。NPO法人「Growmate」理事としてマーシャル諸島で私設図書館建設にも携わる。近著に『マンガでわかる!小学校の学級経営 クラスにわくわくがあふれるアイデア60』(明治図書)
(写真:田中氏提供)

(文:編集部 佐藤ちひろ、注記のない写真:yoshan/PIXTA)