「受験の合否」その先を生きる、子どもたち

――日本では今年も受験シーズンが終わり、新しい生活が始まりました。

はい。受験が終わり、卒業式、4月には桜の季節とともに入学式があり、新しい年度が始まりますね。受験の結果にかかわらず、人生はこれまで通りのサイクルを淡々と繰り返していきます。受験とは、あくまで通過点であり、合否の結果は、ひとつの「点」なのですね。時間は止まりません。子どもたちは「点」のその先を生きていきます。

――受験の結果によっては、希望ではない進学を迎える子もいるかもしれません。

そうですね。しかし、受験の結果はあくまで、「点」にすぎず、たとえ受験の結果が不合格であっても、それはイコール「失敗」ではありません。重要なことは、子どもが受験という「プロセス」でどのような力を身に付けたかということです。受験では、大量の「認知能力」(=読み書き、偏差値で測れる能力)を身に付ける場合もあります。しかし、それ以上に身に付けたい重要な能力は、「非認知能力」(=自己を管理する能力や、自分で主体的に取り組む能力、そして結果に一喜一憂せずにどんなときも自分を大切にできる自己肯定感などの能力)です。

なぜなら、受験で不合格になっても、テストで点数が取れなくても、その先にこそ人生があり、それを生きるのは子ども自身だからです。そのとき子どもを支えるのは、合格という「点」でも、100点の解答用紙でもありません。だからこそ、子どもたちは合否というひとつの「点」に集中するのではなく、そこに至るまでの「プロセス」にフォーカスすることが重要なのです。「点」にのみ集中すると、大事なことを見失ってしまいます。受験という経験の「プロセス」に集中することで、その先を生きるための原動力を身に付けることができる。受験という経験を通じて、どれだけ目に見えない人間力を鍛えたか、それがカギなのです。

そして、それには親やまわりの大人がどう向き合うかが重要です。その姿勢によって子どもが経験する「プロセス」は大きく変わってくるからです。今回は、子どもたちが受験や、試験、挑戦に対する結果を問われるような経験をする時、結果という「点」ではなく、「プロセス」に集中し、「自分を管理できる子」「自分で主体的に取り組む子」「自分を大切にできる子」になるよう育むために、親やまわりの大人がどう向き合うべきかについてお話ししたいと思います。

「結果」ではなく、「プロセス」こそが子ども育む

――受験や、大切なテストなど、結果を問われるような場面で失敗をしてしまうことは、誰しも一度や二度は経験することだと思います。そういうとき、親や先生はどう対応するべきでしょうか?

まず、試験の結果という出来事と、子どもの人格とをきちんと分けて捉えることが大切です。「テストの結果が1位だったのね、すごいね!」「今回は10位に下がっちゃったのね、どうしちゃったの?」といった、結果だけにフォーカスした声がけはやめること。

テストの結果が1位であろうが10位であろうが、まず、“その子が大事な存在である”という事実に変わりはありません。それを頭の片隅に置いておいてください。テストで1位を取ったからすばらしいのではない。順位は単なる結果にすぎません。

子どもには、テストの順位や偏差値など、人が決めたランキングで子どもの存在価値が決まるのではなく、ただそこにいるだけで大切な存在である、という気持ちで接することで、子ども自身に自分を大事にする気持ち(=自尊感情)が生まれます。

そうした理由から、「1位だからすごいね!」と結果や順位を褒めるのではなく、プロセスを認めて、褒めてあげることが重要なのです。逆にテストで思うような成績が取れなかったとき、子どもを鼓舞するために誤った声がけをして、それが劣等感につながってしまっては意味がありません。

テストの結果や偏差値には、問題の出題傾向や、ほかの子の点数の取り方など、自分の努力だけではどうしようもないことが関わってきます。結果だけを見て一喜一憂するのではなく、「自分の頑張った結果がこれだ」ということを、まずは子ども自身に受け入れさせることが大切です。受験というのは、実は究極の自分軸を求められることでもあります。自分を他人軸で捉え、評価するのではなく、まず自分がどれだけ頑張ったかを考えること。そういう意味では、非認知能力を育むいい機会であるといえます。

「安心して何度でも失敗できる」環境をつくる

――思うような結果を得られないとき、子どもが失望しているとき、子どもにどういう声がけをしたらよいでしょうか?

人間は求める結果を得られなかったときに、別の幸せを見つけることができます。だからこそ前に進めるのです。レジリエンス能力の高い人は、困難や失敗を成功のきっかけとして捉える力、ポジティブな視点に変える力があります。

受験であれば、合格しなかった学校のことを考えるのはやめて、行くことになる学校のよさを、改めて子どもと話し合いましょう。そのためには、受験する学校を選ぶ際、志望順位にかかわらず、それぞれの学校の魅力を自分なりに見つけておくことも重要です。「望む結果は得られなかったけれど、行くことになったこの学校でも、こんな楽しそうなことがあるね」とポジティブな声がけをして、子どもが希望を見いだす手助けをしてください。

そして重要なのは、子どもが自分自身でするべき問題解決を、親やまわりの大人が代わりにしないこと。子どもは、絶望の淵から自分自身で折り合いをつけて、前に進んでいきます。落胆している子どもを大人が救済するのではなく、子どもが自分で解決していく姿を、そっと見守ってあげてください。

私の話ですが、娘のスカイが15歳のとき、バレエ「くるみ割り人形」の主役を決めるオーディションがありました。主役のクララを踊るのが、ずっと娘の夢でしたが、結果は落選。その日、娘は「今から泣くけど、何にも言わないでね」と言い残し、ずっと部屋に閉じこもっていました。親としてはつらいことですが、これは娘自身が解決するべき問題なので、私にできることは黙って娘を見守るのみでした。

子どもというのは、実はすごく強い存在です。大人にできることは、子どもの強さを信じて見守ること。それが子どもの非認知能力を育むことにつながります。大人が先回りして救済しないことで、子どもの「レジリエンス」(=回復力)が高まります。たとえ失敗したとしても、それでも人生は先に続いていくということに気づかせてあげてください。失敗を恐れると、子どもは失敗しない範囲でしか行動しなくなります。大人がすべきことは、安心して、何度でも失敗できる環境をつくってあげることです。

レジリエンスを育むには、ロールモデルの存在も重要です。実際に親やまわりの大人が失敗している姿と、失敗からどうやって立ち直るのか、その方法を見せてあげることもいいですね。自らがロールモデルとなり、失敗したってやり直しができるということを見せてあげてください。

ボーク重子(ぼーく・しげこ)
ICF認定ライフコーチ。Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。米ワシントンDC在住。30歳の誕生日前に渡英、ロンドンにある美術系大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、フランス語の勉強で訪れた南仏の語学学校で、米国人である現在の夫と出会う。1998年渡米し、出産。子育てと並行して自身のキャリアを積み上げ、2004年にアジア現代アート専門ギャラリーをオープン。2006年、ワシントニアン誌上でオバマ前大統領(当時は上院議員)とともに、「ワシントンの美しい25人」の一人として紹介される。また、一人娘であるスカイは2017年「全米最優秀女子高生」コンクールで優勝し、多くのメディアで取り上げられた。現在は、全米・日本各地で“子育て・キャリア構築”“ワーク・ライフ・バランス”について、コーチングと講演会を開催している。著書に『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)など

(文:松井佐智子、写真:尾形文繁)