1月、文科省は、教員不足(教師不足)の調査結果を公表した。「先生が足りない」ということは、数年前から学校現場では頻繁に声が上がっていたが、国が調査をしたのは、今回が初めてである。マスメディアに加えて、TwitterなどSNSでもこのニュースがかなり話題に上り、さまざまなコメントが現在も飛び交っている。
わたくしごとだが、数年前に娘の通う公立小学校でも担任の先生が休職し、その代わりの先生(講師)を学校、教育委員会は必死になって探したものの見つからず、教頭が担任を代行することとなった。こうしたことが起きている学校は各地に少なからずある。
保護者目線で見ても、心配なことだと思う。今回の結果をどう見たらよいのだろうか。
不足ゼロの自治体もあるが、安心できない
この調査によると、昨年4月時点で全国の公立小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の教師不足は合計2558人であった。
不足率は0.31%であり、そう聞くと大したことがないように思えるかもしれないが、これは分母の教員総数と比べた率だからであり、事態は楽観視できない。5月時点では多少マシになったものの、不足は合計2065人であった。学校数で見ると、およそ20校に1校で教員不足が起きている。
都道府県別・政令市別の結果も公表されている。読者の住む地域ではどうか、確認してみてほしい。
「教員不足」に関する実態調査の3つのポイント
今回の結果をどう見るか。私はいくつか注意が必要だと考える。3点に整理しよう。
1. 今回の調査は、年度始めのまだマシな状況にすぎない。
当然のことながら、年度当初から学級担任が配置できない、教科の先生がおらず授業がスタートできないといった事態は避ける必要がある。だから、今回のデータは、各地必死になって探した結果と見たほうがよいだろう。それでもなお不足しているということである。
しかも、地域や校種によっても異なるが、別の時期のほうがもっと教員不足が深刻なところも多い。今回の調査で、教師不足ゼロと回答している自治体(例えば、東京都、和歌山県、山口県など)でも、そこに勤務する教員からは「ゼロなんてことはない。今も欠員のまま何とかやり繰りしている」という声が私の元にも寄せられている。
というのも産休・育休や病気休職、離職(退職)などは、年度途中でも起きる。「講師に来てくれませんか」と頼んでも、ほかの職場に就職済みの人が多い。しかも、教員免許が必要だから、一般的な求人募集でたやすく人が集まるわけではない。こうして教員不足は年度始めよりも、後半のほうで起きやすい。
今回文科省が実態把握に乗り出したことは評価できるが、
・年度後半などの実態把握も必要ではないか
・4月、5月時点のデータを公表するのに、なぜ8カ月近くもかかったのか
・今後継続して把握する予定はあるのか
など疑問点は多い。
2. 何に対する不足なのか。
一口に「教員不足」と言っても、何と比べているのか、確認しておく必要がある。今回の調査では、「各都道府県・指定都市等の教育委員会において学校に配置することとしている教師の数」に対する不足と文科省の資料にはある。つまり、これは自治体ごとに多少の見解のズレがある。
というのも、国は教員数の「標準」を決めて財政的な支援をしているが、実際の配置数を決めるのは都道府県(政令市については市)である。そのため、例えば国の標準よりも多めに教員を採用・配置して、少人数指導を実施することなどが可能な仕組みとなっている。中学校は国の算定では40人以下学級だが、自治体独自に35人以下学級(あるいは30人以下学級など)にしているところもある。
各地で工夫が見られるのはよい側面もあるのだが、今回の調査では注意が必要だ。もともとの配置予定が少なめの自治体では、教員不足数も少ないように見える可能性もある。だが、少ないマンパワーでやっているわけだから、学校現場から見れば、とても苦しい状況であろう。
あるいは、うがった見方かもしれないが、不足数を正直に出すと、地元メディアや地方議会、あるいは首長から問題視されたり、追及されたりしかねないため、配置予定の人数を少なめに(≒不足数も少なめに)報告する教育委員会もあるかもしれない。
さらに申し上げると、今回の調査は、いわゆる県費負担教職員といわれる都道府県・政令市が財政負担している教員(教員の多数を占める)を対象としている。市区町村が自前の財源で配置(加配)している教員は含まれていない。市区町村配置の教員のなり手不足に悩んでいる地域もある。
いずれにせよ、上記1、2の点で、学校現場の実感よりも相当、不足数が少なく公表されている地域もおそらく多いのではないか。
今回の結果を基に地方議会などで議論していただくのは結構なことだが、ランキング的なものではないし、数値上不足がゼロないし少ない地域でも、安心はできないことには注意してほしい。
3. 雇用が不安定な非正規雇用で埋めている場合もある。
退職や産育休、病休などに伴い教員が減る分をどう補充するか。1つは、正規教員を充てること、もう1つは、非正規雇用でしのぐことである。ほとんどの地域が急激に少子化している中(その分、将来必要な教員数は少なく済む可能性が高い)、また財政的な制約が厳しい中で、非正規雇用に頼ろうとする自治体は少なくない。
今回の調査結果における教員不足の多寡がどうであれ、何とか非正規雇用で埋めた結果、今の教員配置数となっている自治体もあるはずだ。
今回の文科省調査では、学校に配置されている教員の雇用形態の内訳も公表されている。地域差のある話だが、全国のデータしか公表されていないので、そこを参照すると、小学校、中学校では1割強が非正規教員である。うち、臨時的任用教員というのは、常勤講師とも呼ばれる職で、基本的な仕事内容は正規教員と大差ない。
学級担任も持つし、部活動も担当したりするが、期間限定(年度末まで、または元の教員が育休から復帰するまでの間など)の雇用である。非常勤講師は基本的には授業のみを行い、授業時間数に応じて時給払いだが、処遇は厳しいし(何校も兼務している人もいる)、夏休みなど授業がないときは無給となる場合もある。
非正規雇用への依存の問題
臨時的任用教員(常勤講師)と非常勤講師の多くは、教員採用試験に不合格だった人からリクルートされることが多い(ただし、育児や病気などで正規教員を辞めて、非正規に転じる人などもいる)。だからといって、一概に講師は不安だとか、正規教員のほうが優秀だとかはいえないし、その人による。
だが、非正規雇用への依存度が高まることはマイナス面も大きい。
さまざまな問題があるが、1つは、非正規の教員であっても正規教員と同じように、授業や学級担任など重要な役割を果たすにもかかわらず、研修や支援が充実しているわけではないことだ。正規に採用された初任者には、法定の研修が義務づけられており、指導役もつく。片や、採用試験に不合格だった講師にはそうした支援はない(最近は研修を実施する自治体もあるが、正規の初任者とは比べものにならないほど薄い)。
現場での支援、OJTがそれなりにある学校もあるが、忙しくて手が回っていないところも多い(これは正規の初任者などへも同じ問題があるが)。
教師は子どもの成長に関わる仕事であり、やりがいを感じる人も多いが、非正規の教員たちは、支援が少ない中で難しく、ハードな仕事をこなしている。しかも、次年度雇用されるかどうかはわからない。そんな中、途中で精神疾患になったり、辞めたり、別の所に転職したりする人も出てくる。識者の中には「使い捨てられている」と表現する人もいる。
正規教員の産育休や病休のピンチヒッターとして、正規職を増やすことなく、非正規教員に頼りすぎてきた結果、講師のなり手も減っていき、教員不足は加速していく。悪循環である。
各自治体は、もっと実態をオープンにせよ
これからどうするべきかについて、ここでは詳述する余裕はないが、一筋縄ではいかない問題である。
とはいえ、少なくとも各自治体(都道府県、政令市等)は、各地の教員不足の実情(年度後半の状況なども含めて)、それから、非正規雇用への依存の状況などを、つまびらかにして、公表する必要があるのではないか。
今回は文科省が重い腰を上げて調査に乗り出した。だが、必ずしも国に頼る必要はない。採用、配置を担当する自治体が教員不足の問題をいちばんよく認知しているはずであるが、これまでほとんど情報をオープンにしてこなかった。問題が可視化されず、共有されない中では、さまざまな人から知恵は出てこないし、協力も引き出せないし、おそらく財政当局から予算を引き出すことも難しい。
今回の調査結果を以上の視点から注視しつつ、国の取り組みに加えて、各自治体での情報公開と施策にも注目していく必要がある。
(注記のない写真:Ushico / PIXTA)