「ティーチング」から「コーチング」の時代へ

これからの時代は、ティーチングからコーチングの時代になっていくといわれていますね。

「こうやればいいんだよ!」と誰かからものを教わって勉強に向かったり、努力をしたりして前に進んでいたのが「ティーチング」の時代でした。それが最近になって、「どうすればいいと思う?」と聞かれて、自分で主体的に考えて勉強に向き合って努力をしていくことが必要になる「コーチング」が重視される時代になったといわれています。

例えるなら、魚を釣ってあげるのではなく、魚の釣り方を教えてあげるほうがいいと考え、「釣り方」を身に付ける支援をしてあげることが先生の役割になりつつある、というのが昨今の状況だと思います。

でも、これって難しいですよね。僕も複数の学校でいろんな学習指導のお手伝いをしていますが、「教えないで、コーチングする」ということは非常に大変だと思っております。

「どこがわからないの?」と聞いても「わからないところがわからない」と言われてしまうし、「何か目標を立ててみよう」「今の自分の勉強の問題を考えてみよう」と言っても「頑張る」とか「次のテストでいい点を取る」とか「勉強量が少ない」とか、そういう僕らの目から見たら浅い考えの中にいて、適切な指導を行えないということが結構あります。同じようなお悩みを抱えていらっしゃる学校や塾、また先生や保護者の方は多いのではないでしょうか?

西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生。1996年生まれ。偏差値35から東大を目指し、オリジナルの勉強法を開発。崖っぷちの状況で開発した「思考法」「読書術」「作文術」で偏差値70、東大模試で全国4位になり、2浪の末、東大合格を果たす。そのノウハウを全国の学生や学校の教師たちに伝えるため、2020年に株式会社「カルペ・ディエム」を設立。全国5つの高校で高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。また、YouTubeチャンネル「スマホ学園」を運営、約1万人の登録者に勉強の楽しさを伝えている。著書『東大読書』『東大作文』『東大思考』(いずれも東洋経済新報社)はシリーズ累計38万部のベストセラーとなっている
(撮影:尾形文繁)

「まずはやることを分解しよう」が、なぜいいのか

さて、そんな中で今回お勧めしたいのは「分解」と「数値化」です。この2つを駆使すると、コーチングがやりやすくなり、かつ多くの児童生徒、学生がうまく自走できるようになると思っております。

まずは「分解」です。僕がコーチングをするときには、「まずはやることを分解しよう」という指導をします。

例えば「英語の学習計画を立ててみよう」「どうやって勉強すればいいと思う?」と聞いても、多くは「うーん、今日家に帰ったら頑張ります」というように抽象的な目標を立ててしまったり、言われていることがよくわからないと感じてしまいがちです。

これはなぜ起こってしまうのかというと、自分で分解ができていないからです。英語ができていないといっても、英単語も英文法もリスニングも長文もあって、全部が全部できていないというよりは、「とくにここができていない」というものがあるはずなのです。できないことをまとめて捉えてしまっているから、結局考えが抽象的になってしまうんですよね。

そうではなくて、分解して考えていくと、具体的に考えることにつながるのです。だからまずは分解することを意識した指導をするのがお勧めです。例えば、下記のようなイメージです。

・英語→英文法・英単語・英熟語・イディオム・英語長文など
・1週間の計画→平日と休日・1日ごとの計画など
・テストの結果→数学・英語・国語・理科・社会と科目で分解したり、記述問題と選択肢問題で分解するなど

「分解から始めよう」と指導をすると、多くの子が具体的に考えやすくなると思います。

ほとんどの子は、目標に数字を入れて考えていない

次に、「数値化」です。ほとんどの子は、目標に数字を入れて考えていません。例えば、数学のこの問題集を今日は「やる」とか、英語はこの単語帳を「進める」とか、そんなふうに抽象的な目標にしてしまいがちです。

これだと、後から振り返りができなくなってしまいます。「昨日のやつ進んだの?」「え?まあ……」と、ぼんやり「やるにはやったけど、十分かどうかはわからない」といった状態になってしまうのです。

もっと顕著なのは、テストの点数です。多くの学生に「次のテスト、いい点取りたい?」と聞くと、みんな「取りたい」と答えると思います。でも、「じゃあいい点って何点?」と聞くと、大抵「え?」と考え込んでしまいます。

60点でいい点だと思う科目もあれば、80点じゃないといい点じゃないと思っている人もいる。そんな中で、実は「いい点を取りたい」と思っていても、「70点取りたい」のように目標点数を数値化していない場合が多いんですよね。

こうなると難しいのが、振り返りです。「今回の数学、どうだったの?」「え?まあまあだった」というように、具体的な振り返りができないのです。「あと3点で目標点数だった!あの問題さえ合っていればなー」と答えられる人がいれば、その人はそのテストでどこが自分の弱点になっているのか、何が駄目だったのかをしっかり理解できるようになります。

(写真:nara/ PIXTA)

しかし、なんとなくいい点を取りたくて、なんとなくいい点を取れてしまうと、何にも振り返るモチベーションが湧かず、「まあいいか」で終わってしまう。これではテストを受けた意味がなくなってしまうのです。

だから必要なことは、目標を点数で決めてもらうこと。そして、あえて言葉を選ばずに言うなら「失敗してもらうこと」です。なあなあで「これくらいでいいか」では、いつまで経っても成長できません。しっかり、「これが足りていない」と言えるようになっていなければ意味がないのです。

いかがでしょうか? コーチングというのは投げっぱなしで「そんなことは自分で考えろ!」という姿勢では難しいものです。しっかりと主体的に考えてもらえるフォーマットを作ってあげることも必要なのです。そのために「分解」と「数値化」を意識して指導してみてください!

(注記のない写真:Fast&Slow/ PIXTA)