年内入試で重視される「小論文」

文部科学省が2023年3月31日に公表した「大学入学者選抜の実態の把握及び分析等に関する調査研究」では、大学入試全体での一般入試の割合は49.7%に対して、学校推薦型選抜31.0%、総合型選抜19.3%となっており、何と学力で大学合格を目指す一般入試よりも、学校推薦型・総合型(旧推薦入試・AO入試)の選抜入試の割合のほうが多くなっていることがわかりました。受験生の約半分は、年内入試で大学受験をする時代なのです。

そんな年内入試で重視されるのが、小論文です。小論文は、与えられたテーマに対して自分の意見を述べるもので、多くの大学で出題されます。小論文対策が、今後受験生たちにとっての大きな課題になっていくと考えられます。

しかしそんな中で、学生の多くは「小論文」と「作文」の違いが理解できていない場合が多いと感じます。

小論文では問題提起と、自身の考えを論じる必要がある

まず作文とは、自分の経験や知っていることについて書くものです。これを評価するとき、採点者は書いた人物の感受性や人柄をチェックしています。それに対して、小論文では、その人なりに何かの問題を提起することが求められ、そのうえで自分自身の考えを論じる必要があります。

つまり、小論文とは文章を通じて、何らかの議論・主張をするものだということです。感受性や人柄ではなく、文章の論理性が重視されるのです。このことを理解しておらず、個人的な感情だけで、論理的ではない文章を書いてしまう学生も少なくないのです。

とはいえ難しいのは、その人の経験に基づく情報や意見などがいっさいない、「ただ論理的なだけの文章」というのも、それはそれで味気なく、評価されない場合があるということです。

「ここが問題だから、こうするべきだ」ということをただ論理的に書くことが求められる場合もありますが、「あなたの考えを述べなさい」という問題に、「多くの人がこう言っているからこうだ」と書いてしまうのも、問われていることの答えになっていない場合があると思います。

「あなたの」考えを述べることを求められているわけですから、「自分はこういう経験をしたからこそ、こう考えている」という要素があるほうが、評価される場合もあるのです。このあんばいは非常に難しく、多くの人が困っているポイントだと感じます。

この前提を踏まえて、今回僕が実験的にやってみたのは、「大学で研究されるようなテーマでありながら、多くの学生の経験とつながる内容についての小論文を書いてもらう」ということでした。

西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生。1996年生まれ。偏差値35から東大を目指し、オリジナルの勉強法を開発。崖っぷちの状況で開発した「思考法」「読書術」「作文術」で偏差値70、東大模試で全国4位になり、2浪の末、東大合格を果たす。そのノウハウを全国の学生や学校の教師たちに伝えるため、2020年に株式会社「カルペ・ディエム」を設立。全国5つの高校で高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。また、YouTubeチャンネル「ドラゴン桜」公式チャンネルを運営、約1.2万人の登録者に勉強の楽しさを伝えている。著書『東大読書』『東大作文』『東大思考』(いずれも東洋経済新報社)はシリーズ累計38万部のベストセラーとなっている
(撮影:尾形文繁)

小論文対策をするときのテーマ設定のポイント

具体的には、オンライン学習塾を運営する企業、リザプロと提携して、「東大生作家たちと論文記事を書いてみよう!」という特別講座を行いました。実際に小論文を書いてもらい、それをネットで公開して意見を求めるというものです。テーマは、これを選びました。

世界と比較して、「今から5年後、あなたはどの程度幸せだと思いますか?」「『とても幸せ』を10点、『とても不幸』を0点とすると、何点くらいになると思いますか?」という5年後の幸福度調査の結果で、日本の幸福度がかなり低いことがわかりました。なぜ、日本人はほかの国と比較して、5年後に希望が持てないのか、あなたの考えを教えてください。

 

これは、Gallup World Pollやウェルビーイングに関する調査などから見えてきた現状でも課題になっており、僕も多くの大学の先生とディスカッションをするテーマの1つです。そして、「なぜ5年後に対して希望が持てないのか?」というのは、今を生きる若者一人ひとりが考える価値があるものだと考え、このテーマを選びました。

「地球温暖化はどうすれば食い止められるか」とか「少子高齢化についてどう思うか」といったテーマを選んでしまうと、「自分の今までの人生」と懸け離れていて、自分の経験に立脚した意見をつくりにくいです。

しかしこのテーマであれば、多くの学生が「自分のこと」として捉えることができます。自分の生の経験に立脚した意見のほうが、面白みがあって、多くの人にとって示唆的なものになるのです。

例えば、本企画に参加してくれた高校生の意見をいくつか紹介すると、Kさんは「SNSによって、自分の評価が多くの場所で行われるようになり、自分に自信を持つのが難しくなっている」ということを指摘してくれました。これは高校生ならではの視点ですね。また、Hさんは「学校内の定期テストや模試などで、相対的な評価が何度も行われていて、どうしても他人と比較する習慣がついてしまっているのではないか」ということを指摘してくれました。Iさんも同様に、「日本は学歴社会で、いい大学に行けなければ不幸になる、という感覚があり、若者がこのことについて考える際には『5年後に自分がいい大学に入れているのかどうか』が気になってしまって点数を低くしてしまうのではないか」ということを指摘してくれました。どの意見も、その人ならではの考え方ですよね。こういった等身大の意見のほうが、多くの人にとってプラスの気づきを与えるものになると思います。

さて、この記事を読んでいるのが先生や指導者の方であれば、この記事でシェアさせていただきたいのは「まず、学生に自分事として捉えてもらえるようなテーマから練習してもらうと効果が出やすい」ということです。大きすぎる社会問題の話ではなく、もっと分解してその人に近しいテーマにすることも重要でしょう。

例えば、「情報プライバシーについて」というテーマでなく、「SNSに人の顔写真をアップデートすることを法的に規制するべきかどうか」のように、学生が日常的に触れているテーマからスタートするようにするのがお勧めです。その人が触れやすいテーマを選ぶ必要があるということですね。

この記事を読んでいるのが生徒の方やこれから小論文対策をする方であれば、まずは小論文と作文の違いを理解したうえで、「自分の」意見が求められるからこそ「自分の経験」「自分の感覚」といったものも大事にしてもらいたい、ということを伝えたいです。

あくまでも主語は「あなた自身」なので、「あなた」としての意見をつくるよう意識することを忘れてはいけないのだと思います。ぜひ皆さん、参考にしてもらえればと思います。

(注記のない写真:KazuA / PIXTA)