「五輪で5個メダル」武田美保さん語るコーチ論 私が恩師に学んだ事、子どもたちに伝えたい事

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1996年のアトランタ五輪で銅メダル、2000年のシドニー五輪で銀メダル、04年のアテネ五輪でも銀メダルを獲得し、 3度の五輪出場で5個ものメダルを獲得した、女子アーティスティックスイミング(旧シンクロナイズドスイミング)元日本代表選手の武田美保さん。現在は教育、スポーツ分野でのコメンテーターのほか、後進の指導や教育再生実行会議の有識者委員として政府への提言も行っている。そんな武田さんに選手時代に受けてきた教育、そして今の教育に必要なものは何かについて話を伺った。

子どもたちが、自ら気づいてくれる瞬間を促す

日頃から教育に関する講演活動や、三重県のアーティスティックスイミングクラブで子どもたちの指導に当たっている武田美保さん。コロナ禍によって新たな教育改革が急速に進む中、日本の教育の現状についてどのように考えているのだろうか。

「子どもたちの教育については、年々課題が増えているように感じ、私も日々悩んでいます。自分が子どもだった頃の時代と今とでは、社会状況も大きく異なるため、比較することもなかなか難しい。ただ、スポーツに関して言えば、明らかな違いを感じています。私が小中学生の頃は、練習の中にも周囲との競争があり、いかに先生に声をかけてもらうかを競い合うような時代でした。

しかし今は、おっとりした子どもたちが多く、よい意味で素直なのですが、“私を見てくれ”といった自己主張が少し足りないようにも感じます。どちらかといえば、控えめな印象を受けますね」

質問に対する回答は歯切れよく、瞬時に返ってくる

武田さんが活躍してきたアーティスティックスイミングの世界は、日々厳しい鍛錬が必要となってくる。そこで自分が成長していくためには明確な目的意識と胆力が求められる。そうした課題に立ち向かう姿勢を子どもたちに身に付けさせるためにどうすればいいのか。

「私は子どもたちに自分の思いが伝わるまで伝え続ける、そして、子どもが自ら気づく瞬間を待ち続けるということを大事にしています。子どもたちが、自ら気づいてくれる瞬間を何回つくることができるか。それが勝負です。例えば大会であれば、大会後に、勝つためにどんな準備をしてきたのか。準備の結果、大会でどうして結果が出せたのか、また出せなかったのか。直接聞くだけでなく、感想文を提出させる。子どもたち自身で自己を見直す機会を設けるようにしています。そうすることで、しだいに子どもたちの“目力”が強まり、練習への姿勢、取り組み方も変わってくるのです」

武田さんもアーティスティックスイミング指導者になってからは試行錯誤の繰り返しだった。子どもたちにもいろいろなタイプがいる。あるときは武田さんが指導者としていちばん言ってはいけないと考えている「なぜできないの?」という言葉を発してしまったこともあるという。

「アーティスティックスイミングは感性で覚え込ませても技術は定着しません。技ができた! それがゴールではないのです。できたけど、どのような体の使い方をしたからできたのか。“理屈で考えて”定着させることが大切なのです。そして、自分で気づくことが重要なのですね。理屈がわからない子に、こちらが理屈を説明しすぎても、よくない。子どもたちが自ら考えることをやめてしまうからです。そのバランスは、非常に難しいですね」

指導の様子。自身が技術を学ぶことと教えることの違い、伝え方の工夫など試行錯誤の日々だという
(提供:武田美保氏)
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