識字障害の21歳「ドローン操縦士」、成功の軌跡 世界への扉を開いた「テクノロジー」の数々

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教科書を開き、板書を眺め、ノートに文字を書く――学校の授業は、読み書きに障害のある髙梨智樹さんにとって、過酷なものだった。引きこもりがちだったある日、YouTubeで見つけたドローンに魅せられ、人生が大きく動き出す。17歳で日本代表としてドローンレースの世界大会に出場し、翌年には起業。今や21歳にしてドローンの第一人者である。智樹さんは、障害を抱えながらもいかにして道なき道を切り開いたのか。その傍らにはいつも、テクノロジーが寄り添っていた。

国内外のレースに出場しながら、CMなどの映像撮影から公共建築物の点検業務まで、さまざまな依頼に応え活躍する若きドローンパイロット、髙梨智樹さん(21歳)。今やドローン業界で智樹さんの名を知らない者はいないだろう。

充実した日々を送る中、2019年に出演したドキュメンタリー番組「情熱大陸」で、識字障害(読み書き障害、ディスレクシア)であることを公表した。識字障害とは、学習障害の1つだ。知的能力には問題がなく、文字の読み書きに限って困難がある。読むのが遅かったり間違ったりすることが多く、文字の形と言葉の音を結び付ける脳機能に原因があるといわれる。

「僕の障害は見た目ではわからない。ちょっと読めて、ちょっと書ける。隠したいわけではなかったけど、丁寧に説明しないと伝わらないので機会があれば話したかったんです」

こうした障害がある中、智樹さんはどのようにして「ドローン」という相棒に巡り合ったのか。きっかけは、幼い頃にさかのぼる。

世界を広げてくれた読み上げソフト「棒読みちゃん」

智樹さんは、就学前から急に吐き気が生じて嘔吐してしまう「周期性嘔吐症」という病気を抱えていた。学校にはほとんど行けず、引きこもりがちの日々。父親の浩昭さんが外に出るきっかけを与えてくれる中、興味を示したのが、ラジコンのヘリコプターだった。

「空への憧れがありました。機体を見上げるラジコンも楽しいけど、空を飛んでいる『目線』を味わいたくて、しだいにインターネットでその『目線』を探すようになったんです」

当時はまだ識字障害の診断は出ていなかったというが、読み書きが苦手である中、どのようにインターネットでリサーチを行ったのか。

「学校の授業にはついていけませんでしたが、勉強への興味はあった。でも、情報収集するとなると、本を読むことができないから、テレビを見る程度。そこで、小学1年生の頃に家にあったパソコンを両親にお願いして使わせてもらうことにしたんです」

触りながら使い方を覚え、日常的に動画を楽しむようになっていた小学4年生の頃、運命のツールに出合う。「ニコニコ生放送を見ていたら、流れるコメントを自動で読み上げる音声が聞こえてきたんです」と、智樹さん。それは、テキストデータを音声で読み上げる「棒読みちゃん」という無料ソフトだった。以来、パソコンで調べものをするときはこのソフトを使うようになった。

もともと一度聞いたことはほぼ忘れない記憶力があり、「耳がいい」。読み上げ速度は速いほうが集中して聞き取れるそうで、読み上げ音声を3~4倍速で聞く。自分に合った、効率的な学習法を見いだせた。「得られる情報量が格段に増えました。『棒読みちゃん』は今でも愛用しています。出合っていなかったら今頃どうなっていたでしょうね」と、笑う。

また、オンラインゲームにハマったことで身に付いたスキルもある。ローマ字入力だ。チャット機能で対戦相手とコミュニケーションを取りたい一心で覚えた。もう1つ、持ち前の耳のよさが発揮されたようで、海外の対戦相手とのボイスチャットを通じて英語が理解できるようになったという。

14歳にして、自力でドローンを組み立てる

こうしてパソコンを駆使し、海外サイトも活用しながら好きなことを調べて知識を増やしていった智樹さん。ついに中学2年生の時、YouTubeの動画を通じてドローンと出合う。プロペラをたくさん付けた見たこともない機体が、カメラを載せて飛んでいる。そのカメラ映像はまさに憧れの「空飛ぶ目線」。虜(とりこ)となった。

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