テクノロジーを駆使してすべての人に「居場所」をつくる
現代社会における「孤独」は、身体的あるいは精神的な問題や、介護、子育てによる移動制限など、さまざまな理由により社会参加が妨げられることで生じます。その本質とは何か。
「人類の孤独の解消」を理念とする私たちオリィ研究所は、〝居場所や役割の喪失〞が、孤独の原因になると考えました。コミュニケーションテクノロジーを活用することで、孤独にある人の社会参加を実現する。それが、私たちが展開してきた事業です。
孤独解消の軸となるのは、2009年から開発を進めてきた分身ロボット「OriHime」。コミュニケーションのコアは相互的なリアクションであると考え、アイコンタクトやボディランゲージなど非言語情報を含めた豊かな感情表現を実装しました。リアリティある動作がオンラインの距離を解消し、操作者とコミュニケーション相手は、「その場に存在する感覚」を共有します。異なる空間にいる人が、テクノロジーにより、確かに目の前に存在できる。音声や画像を越えた意思伝達でリアルな人間関係を構築する「もう一人の自分」が、社会参画の新たなあり方を生み出したのです。
情勢変化とともに広がりを見せる分身ロボット
開発当初は分身ロボットに対する世間の理解度は低く、普及に相当な時間を要しました。転機となったのは、2019年にオープンした分身ロボットカフェ「DAWN ver.β」です。このカフェでは、外出困難者が従業員として勤務し、自宅からロボットを遠隔操作してお客様にサービスを提供するという、かつてない働き方を創出しました。次第に企業から「OriHimeの導入を検討したい」と声がかかるようになり、私たちの活動が少しずつ認知されていったと感じています。
さらに新型コロナウイルス感染症の流行が、分身ロボットの普及に加速度的な影響を与えました。コロナ禍で人とのつながりが分断され、1人時間が増加。周囲の人々とのコミュニケーションが希薄化する中で、誰もが「孤独」を自分の問題として認識するようになったのです。現在は企業との共同事業も活発化しており、さらなる事業拡大につながっています。
「自分のため」が出発点となり社会に貢献するツール開発へ
挑戦の原点には、「自分のため」という考えがあります。幼少期から科学を得意としていた私は、2006年に高校生科学技術チャレンジ(JSEC)に参加し、アメリカで開催されるインテル国際学生科学技術フェア(Intel ISEF)への出場資格を獲得しました。しかし、直前に結核を患い、長期入院を余儀なくされます。身体的な制限により思うように行動できない悔しさや、誰にも会えない寂寥感の中で芽生えたのが、「もう一つ身体がほしい」という思いでした。そこで、当研究所CEO吉藤健太朗とともに、分身ロボットの開発に着手。現在の活動に至っています。
過去の体験を通じて、何事も自分事化して考えることの大切さを実感。ビジネスに対する考え方のルーツになりました。次世代を担う皆さんにも、この姿勢を忘れずに行動してほしいと考えています。
社会課題の解決に向けて見据えるビジョン
昨今、国際社会への浸透が進むSDGs。「誰一人取り残さない」という理念は、私たちの事業に通ずる部分が多く、開発当初よりも「OriHime」が普及してきたと実感しています。
今後は一般企業にも展開し、皆一様に社会に参加できる環境を提供することで、人手不足問題の解消やさらなる経済成長に寄与していきたいです。また、教育へのアプローチも目標の一つ。さまざまな理由で学校へ通えない子どもたちも、孤独を抱えています。すべての子どもが学びの場に参加できるように、教育現場への「OriHime」導入を目指して、学校との連携を図っていきます。
将来的には、人類が何歳になっても役割を持って生き続けられる世界を創出し、健康寿命の延伸に貢献。コミュニケーション支援に留まらない社会変革が、当研究所の最大の使命です。社会の可能性を拡張するため、私たちの挑戦は続きます。