僕が「プロジェクト学習」を始めた訳

僕は教員になって今年で21年目ですが、これまで毎年テーマを決めて「個人研究」に取り組んできました。

初任から4年間は主に奈良県の土作彰先生による「ミニネタ」という小さな学習コンテンツを学んで引き出しを増やし、5年目から7年目は東北福祉大学の上條晴夫教授のアイデアを参考にお笑いの要素(フリ・オチ・フォローなど)を学校生活の中に取り入れるほか、コスプレでほかの先生になりきる「パフォーマンス授業」なども開発しました。

8年目以降は、プロジェクトアドベンチャー(※1)や体験学習法、「作家の時間」(※2)や「読書家の時間」(※3)といったワークショップ授業に出合い、研究実践をスタート。同時期に日本協同教育学会にて協同学習も学び始めました。

※1 アドベンチャーを用いた体験教育を提供する米国発祥の組織
※2 「ライティング・ワークショップ」という米国発祥の実践
※3 「リーディング・ワークショップ」という米国発祥の実践

中でも「作家の時間」との出合いは僕を大きく変えました(関連記事「驚くほど作文が好きになる『書く力』の伸ばし方」)。かつて作文指導に力を入れた時期があったのですが、子どもたちの文章力をある程度伸ばすことができたものの、「書くことが好き」という子はなかなか増えませんでした。そんな中、「自ら書こうとする『書き手』の育成」を目指す「作家の時間」を実践したところ、子どもたちがどんどん自分から書くようになっていったのです。「これからの時代に必要なのは、こういう『自ら学び続けようとする力』なのだ」と実感しました。

フリーランスティーチャーになって4年目に、東京都日野市の公立小学校で勤務できたことも現在の教育観に大きな影響を与えています。日野市では、ちょうど僕が勤務した年から、「一律一斉の学びから自分に合った多様な学びと学び方へ」「自分たちで考え語り合いながら生み出す学び合いと活動へ」「わくわくが広がっていく環境のデザインへ」といった次世代型の教育方針に大きく転換したのです。その教育目標に共感し、子どもが自ら学びのコントローラーを持つことに重きを置く実践に取り組んできました。

『プロジェクト学習とは 地域や世界につながる教室』(スージー・ボス+ジョン・ラーマー著/池田匡史・吉田新一郎訳/新評論)

そんな中で「探究」という言葉をよく見聞きするようになり、情報収集する中で出合ったのが、『プロジェクト学習とは 地域や世界につながる教室』という本です。米国でプロジェクト学習(Project Based Learning/以下、PBL)が盛んに取り組まれるようになった背景やその必要性、効果や具体的実践例が記されています。僕は今、この本を参考にPBLに取り組んでいます。

PBLとは、一言で言うと「学習を、より児童・生徒中心にするための仕組み」です。質の高い学習体験を促進することを通して、児童・生徒が自ら学び続ける「学び手」に育っていくことを目指します。それまで学び実践してきた「作家の時間」「プロジェクトアドベンチャー」「協同学習」と目指すゴールは同じだと感じました。

『プロジェクト学習とは 地域や世界につながる教室』の読書会でのメモ
(資料:田中氏提供)

また、これからの時代を生きる子どもたちは、SDGsに挙げられるような現代社会が抱える課題を解決するための数多くのプロジェクトに、仲間と手を携えながら取り組むことになります。PBLは、そんな時代に求められる力、例えば仲間と協働する力やコミュニケーション能力、物事を多面的に見ながら批評するクリティカルな思考力、自分たちの活動を管理する能力、創造性や革新性など、さまざまな課題を解決するための力を養います。

こうした社会の変化も受け、僕は2021年度からPBLの実践をスタートすることにしたのです。国内でも探究学習や個別最適な学びなど、一律一斉の画一的な学びから離れ、より児童・生徒中心の学習にしていこうという取り組みが広がっていますが、その実践例はまだまだ少ないのが現状ではないでしょうか。

ここからは、僕の1年間の取り組みを紹介していきますので、参考になりましたら幸いです。

「ゴールドスタンダード」と「教師の役割」とは?

僕がPBLの実践を始めたのは、2021年9月(2学期)。そのときは小学2年生の担任をしていました。3学期の3月までの半年間は、先ほどご紹介した書籍に書かれている「ゴールドスタンダード」というプロジェクト設計に不可欠な7つの要素と、ゴールドスタンダードを成立させるための7つの「教師の役割」をいかに教室に取り入れるか、自分の中にどう組み込むかが大きなテーマとなりました。

具体的な要素は下記のとおり。小学校の先生は「生徒」を「児童」に読み替えてください。

【PBL実践のゴールドスタンダードにおけるプロジェクト設計に不可欠な7つの要素~】
1:挑戦的な問題や疑問
2:継続的な探究
3:「本物」を扱う
4:生徒の声と選択
5:振り返り
6:批評と修正・改訂
7:成果物を公にする

【PBL実践のゴールドスタンダードにおける7つの教師の役割】
1:文化をつくる
2:学習をデザインし、計画する
3:スタンダードに合わせる
4:活動をうまく管理する
5:生徒の学びを支援する
6:生徒の学びを評価する
7:生徒は夢中で取り組み、教師はコーチングする

引用:『プロジェクト学習とは 地域や世界につながる教室』

ゴールドスタンダードとは、PBLの設計に不可欠な要素です。僕は上記7つの要素を満たしていればPBLと言えると考えており、学校におけるあらゆる教科・領域、児童会・生徒会活動でPBLは可能だと思っています。一方、「教師の役割」は先生の力量で比重を変えてもよいと思っていて、僕はとくに「文化をつくる」に重点を置き、比較的自由度の高い活動が可能な特別活動(学活)の中でPBLを始めることとしました。

具体的には、「クラスプロジェクト」と題し、クラスの仲間のためにやってみたいことの実現に取り組むことにしました。いわゆる「係活動」のプロジェクト化です。

子どもたちの「どうせ無理」にはこんな声がけを

最初の学級活動では、まず「みんなが楽しくクラスで暮らすために、あなたがやってみたいこと、実現したいことはありますか」と問いかけました。

すると、いつも元気なAさんが「みんなでお泊まり会をしたい!」と発言しましたが、すぐにそんなの無理に決まってんじゃん!」「許可下りるの?」と声が上がりました。

そこですかさず「面白い! お泊まり会ね~」と僕が板書した途端、「え~!」「いいの?」とザワザワ。「やってみたいこと、実現したいことなんだから、どんな意見を言うのもOK!」と僕が言うと、「じゃあ私も」「僕も」と、どんどん面白いアイデアが出てきました。

「まだまだいろいろ出てきそうなので、アイデアを紙に書いて提出してください。周りの人と一緒に考えて書いてもいいよ」と促すと、あっちでワイワイ、そっちでワイワイと子どもたちは大盛り上がり。

学校全部を使って鬼ごっこ、学校でキャンプ、ツリーハウスを作る、リサイクルマーケットでお買い物、好きな野菜を育ててお料理パーティー、アドベンチャーアトラクションを作って遊ぶ、みんなで旅行に行く、クラス紹介映画を作る――などなど、たくさんのアイデアが提出されました。

子どもたちのアイデアで実現した「リサイクルマーケットプロジェクト」
(イラスト:田中氏提供)

提出されたアイデアを板書していくと、みんな「楽しそう!」「やりたい!」と大騒ぎ。中には「学校じゃできないんじゃないの」「どうせ無理でしょ」と一蹴されそうなアイデアもあり、「でも、どうやってやるの?」「誰に許可をもらったらいいの?」などの声も出ます。当事者意識があればこその正直な声だと思います。

「今、いろんな人から『できっこない』『無理でしょ』という声が上がりました。『どうやってやるの?』『校長先生の許可は下りるかな?』という声もありましたね。僕はそういう意見ってとても大事だと思います。『いつ・どこで・誰が・何を・どうやって・何のために』を具体的に考えていけば、多くの『どうせ無理』が実現できると考えています。人類はそうやって進化・発展してきたんですから、何事もできないことはないって信じています。『そんなの無理』とか『駄目に決まってる』って誰かが言ったら、こんなすてきな、面白そうな、わくわくするようなアイデアって生まれてこなくなっちゃうよね」

そう言って、出てきたアイデアの中で実際に自分がやってみたいプロジェクトを選んでもらいます。数名が選ぶものもあれば誰も選ばないものもありますが、1人でもいればプロジェクトは成立です。

後編では、具体的にどのようにゴールドスタンダードの7つの要素を使ってクラスプロジェクトを実現していったのか、ご紹介したいと思います!

田中光夫(たなか・みつお)
1978年生まれ、北海道出身。東京都の公立小学校教員として14年間勤務。2016年、主に病気休職の教員の代わりに担任を務める「フリーランスティーチャー」となる。これまで公立・私立合わせて延べ11校で講師を務める。NPO法人「Growmate」理事としてマーシャル諸島で私設図書館建設にも携わる。近著に『マンガでわかる!小学校の学級経営 クラスにわくわくがあふれるアイデア60』(明治図書)
(写真:田中氏提供)

(注記のない写真:ペイレスイメージズ1〈モデル〉/PIXTA)