――もうすぐ新年度です。保護者との関係づくりもスタートする季節ですが、コミュニケーションで何か心がけていることはありますか。
僕は「学級通信」を初任者時代からほぼ毎日書き続けています。きっかけは20年前。教員になってすぐ教員サークルに入ったのですが、そこで先輩が書いた学級通信を読む機会がありました。
その先輩は音読効果を脳科学のエビデンスを示しながらつづっていました。読み慣れているものを読んでいるときは脳がリラックスして集中力が高まるので、家庭でも学習を始める前に音読をやってみると効果的だと。普通は「家で音読をやってください」の一言で終わるのに、その内容の濃さに衝撃を受けました。
また、サークルのメンバー全員が学級通信を書いていたんですよね。話を聞くと何だかみんな学級経営がうまくいっている様子で、保護者の信頼を得る秘訣が学級通信にあるのではと感じ、僕も翌日から早速書き始めたのです。
――それから20年も続けているということは、手応えがあったということですよね。
はい。保護者からいつも「楽しく読んでいます」「夕飯のときに学級通信のネタで盛り上がっています」といった声をいただきます。
僕は、学校には保護者に対する「説明責任」があると考えています。教育活動は学校・教員・保護者が協力して行うわけですから。それに、子どもたちは1日の半分以上を学校で過ごすので、保護者は様子を知りたいはず。でも、低学年では学校での出来事を保護者に伝えるのがまだ上手ではない子もいるし、逆に高学年になって話さなくなってしまう子もいます。こうした中ではやはり日常的な伝達が必要であり、学級通信はそのツールとして有効に機能すると感じています。
フリーランスになってからも学級通信は欠かせません。僕は今、病休教員の代替として担任を務める場合が多いですが(病休代替「フリーランスティーチャー」の正体)、任期がたった2週間であっても、保護者に少しでも安心してほしいので学級通信を書いています。
学級通信で重要なポイントは3つ!
――どのような形式で書いていますか。
紙に手書きして印刷発行するときはB5サイズ。学校で隙間時間を見つけて書き、その日のうちに配ることが多いですね。コロナ禍の影響で、今はWordで作成したものをPDF化してメールで保護者宛てに送っています。
子ども向けに書くと、親子で読んでくれるのでおすすめですよ。あえて漢字を多く使い、習っていないものにはふりがなをふってあげると、子どもは漢字に親しみが湧いてしだいに配った瞬間に読み始めます。そうなると、たまに保護者向けに書いたときも子どもは何とか読み解こうと友達と相談したり保護者に聞いたりするので、先生・子ども・保護者の間のコミュニケーションが円滑になっていきます。
――押さえておくべきポイントはありますか。
読み手の側に立つこと、これに尽きます。保護者も義務感で読むのはしんどいでしょうから、次の3点を意識しています。
② フォントサイズを大きくするなどして文字数を減らす
③ 事実や目的を基に自分の主張や依頼をする
文字数が多いと伝えたいことも伝わらないので、この①と②を意識し、さらっと読めて大事なことが一目でわかるようにしています。「説得」するのではなく、「納得」してもらうためには③も大事です。学級通信は行動経済学と一緒。企業は購買促進のために自社の活動をアピールして消費者の好意を醸成することから始めたりしますが、学級通信も依頼は一方的になってはいけません。
事実の羅列だけでは「これは何のため?」と保護者に疑問が生じてしまうので、僕なりの哲学もセットで伝えます。例えば百人一首をやっているときは、その歴史や子どもたちの取り組みを伝えたうえで「日常的に言語文化に触れることで、自然に言葉に興味を持ってもらえたらうれしいです」と目的や僕の考えを添えます。「家でもやってください」と書くよりも「家でもやってみようかな」と思ってもらえるような気がしませんか。
こんなこともありました。「市内でインフルエンザが流行して学級閉鎖も出ており(=事実)、予防のため(=目的)手洗いを励行していますが(=すでに担任が行動しているという事実)、ハンカチがない子が多く、習慣化に向けてご協力ください(=依頼)」といった内容で書いたら、忘れる子が劇的に減ったのです。後日、協力いただいた結果と感謝も伝えると、連携の好循環が回っていきました。
――毎日書くのは大変ではないですか。
僕の場合、学級通信を書く過程が自身の教育活動の振り返りになっている側面も大きいので、もう書かないという選択肢はありません。教員同士で学級通信をベースに自分の取り組みを紹介するなど、学び合うツールとしてもおすすめですよ。ただ、書くことが目的になりほかのことがおざなりになっては本末転倒。1週間のダイジェストを金曜日に発行するなど、無理のない範囲で気楽にやるといいと思います。
――保護者会などで意識していることは?
忙しい中で参加していただいていることを前提に、要点を押さえて短時間で終えるようにしています。配付資料を読み上げる先生も多いですが、保護者にとっては時間の無駄。「教育現場は社会常識がない」と言われてしまうのはそういうところなので、僕は資料も事前に配って読んでおいてもらいます。
当日は視覚情報に重きを置き、僕はKeynoteで写真を多用して作ったプレゼンテーション資料をプロジェクターに映しながら話をします。授業の一部を抜粋した動画を流すことも。今勤めている学校は、コロナ禍で保護者会はZoomになりましたが、基本的には同じスタンスですね。
しんどいときこそ「報連相」
――保護者とのやり取りに慣れていない初任者や若手にアドバイスはありますか。
しんどいときこそ早めの「報連相(ほうれんそう)」(報告・連絡・相談)を心がけたいものです。実は僕、新人の頃は1人で抱え込んで大きなトラブルに発展させてしまうタイプでした。先輩たちが忙しそうなので声をかけづらく、勇気を出して相談しても「うちも大変なんだよね」と言われてしまって。
保護者との関係性に悩んでいてもなかなか先輩に相談できず、ついには「ネトゲ廃人」に。そんな中、親身な副校長と出会ってようやく話せるようになりました。しかもその方は「よく話してくれたね」と解決を助けてくれた。それが教員生活10年目の時のこと。変わるまでに時間がかかりましたね。
気軽に話せる仲間が1人か2人でもいれば助かることは多いです。とくに管理職は「責任職」なので、相談するほど喜んでくれるでしょう。僕はTwitterで面識のない先生から相談を受けることがよくありますが、学校外で相談できる人をつくるのも1つの方法です。
一方、もう少し相談しやすい雰囲気があったらよかったのにとも思っていて。だから僕は、忙しそうに見えないよう気をつけているし、「最近どう?」「ここの指導、いいアイデアありますか」と声をかけ、同僚と日常的に雑談ができる関係づくりを心がけています。
――教員の対応でクレーム化しやすいパターンはありますか。
今はスピード感が求められる時代。打てば響くような「即時対応」をすると保護者から感謝されるし、問題解決も早いです。ただ、教員は本当に忙しい。緊急案件が重なって迅速に対応できないこともあり、不信感を持たれてしまうケースがあります。僕も昔、学校側の事情を説明しても言い訳にしか受け取っていただけないことがありました。
だから、保護者に不安を与えないよう、安易な約束やあいまいな返答はしません。「いつまでに」「どのように」が明言できないときは連絡帳に「本日、お電話させていただきます」とだけ書き、直接お話をするようにしています。
保護者は大切な子どもの様子やトラブルの事情を聞きたいだけで、それを学校が「モンスターペアレント」とレッテルを貼ってしまうことも多々あるのではないでしょうか。保護者に教員の忙しさをご理解いただく必要はありますが、学校でのトラブルは監督者である僕たちの責任と捉え、日頃から地道に説明責任を果たすことが大切だと感じています。
(文:編集チーム 佐藤ちひろ、イラスト・写真提供:田中光夫氏)