不登校29万9048人で過去最多

文部科学省が10月4日に発表した、「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によると、小・中学校における不登校児童生徒数は29万9048人。前年度から5万4108人(22.1%)も増加し、過去最多となりました。小・中・高校などで認知したいじめ件数も過去最多の68万1948件となっています。

不登校の内訳は、小学校が10万5112人(前年度比29.0%増)、中学校が19万3936人(同18.7%増)。10年前と比較すると小学生は3.6倍、中学生は2.1倍増となっています。しかし、不登校の数にカウントされるのは、「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」なので、行き渋りといわれる子どもたちも含めると、実際はもっと多くの学校にいけない子が存在しているはずです。

不登校の理由について、いちばん多いのは無気力や不安。ついで生活リズムの乱れ、そしていじめを除く友人関係をめぐる問題、親子の関わり方と続きます。

文科省は、新型コロナによる環境の変化が、子どもたちにも大きな影響を与えていると分析し、共通施策として、個々の児童生徒の状況に応じて必要な支援や、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、関係機関との連携、アウトリーチ機能の強化による教育相談体制などを進めるとともに、これらを踏まえた取り組みを実施するため2024年度概算要求に予算を計上するとしています。

もちろん、そのような支援も重要だとは思いますが、そもそも人材不足の中でどれだけ即効性があるのか疑問ですし、そのような対症療法でこの問題が解決するとも思えません。何より、1年で5万4108人増という数字は、単にコロナによる環境の変化で片付けていいのか、すでに学校教育が現状に合わなくなっていると見るべきではないのか。そんな疑問を持って、現場の先生や不登校支援をしている元教職員の方などに、現場の状況や子どもたちのリアルについて話を聞きました。

中曽根陽子(なかそね・ようこ)
教育ジャーナリスト/マザークエスト代表
小学館を出産で退職後、女性のネットワークを生かした編集企画会社を発足。「お母さんと子ども達の笑顔のために」をコンセプトに数多くの書籍をプロデュース。その後、数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。「子育ては人材育成のプロジェクト」であり、そのキーマンであるお母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。著書に『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)、『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)などがある
(写真:中曽根氏提供)

窮屈で画一的な学校の空気がしんどい

実際、全生徒の約15%にあたる生徒が教室に入れない、あるいは入らないと決めているという。公立中学校の先生は、この数字について「窮屈で画一的な学校の空気をしんどいと感じる子が増えていると感じている」と言います。

元高校教師で、今は不登校専門家として活動している野々はなこさん(通称のんのん先生)は、「今の学校は、同じ硬い椅子に子どもたちを無理やり座らせようとしていて、多様な子どもたちに対応できていない」と言います。

そういうのんのん先生自身も、かつては生徒には厳しく指導しなくてはならないと思っていたそうですが、心理学や脳科学を学び、まず必要なのは、子どもたちが安心して通える場所であることが最優先だと考えるようになったそうです。しかし、まだまだ多くの学校で、生徒を学校に合わせさせる方向で教育が行われているのではないでしょうか。

そんな中、学校にも変化の兆しはあります。その1つが学校内フリースクールとも言える場所をつくる動きです。

広島県のSSR(スペシャルサポートルーム)は、すべての児童生徒の「主体的な学び」の実現のために、一斉指導を前提としたカリキュラムだけではなく、子どもの実態に応じた多様な“選択肢”と“自己決定”を意識した教育活動の推進を掲げてつくられました。こうした取り組みは全国に広がりつつあり、埼玉県戸田市では、戸田型オルタナティブ・プランという取り組みがあり、今年から市内の全小学校に校内サポートルームを開設しています。

このように、自治体主導で居場所づくりが進められている地域以外にも、学校独自の取り組みとして、居場所づくりを実現している学校もあります。

友渕中学校のホッとスペース
(写真:友渕中学校提供)

その1つが、大阪市立友渕中学校。この学校にも学校に通えない、通わないという子どもたちはおり、そういう子たちの居場所をつくりたいと1年かけて準備をし、今年6月に校内の図書室に「ホッとスペース」を開設しました。

開設にあたっての校内の反応は、おおむね好意的でした。というのも、これまでも、教室に入れない子どもたちのサポートを空き時間のある教員が行っていたからです。

ホッとスペースは月曜から金曜まで開いていて、そのうち4日は心理士、養護教諭、教諭の資格を持ったNPO法人の職員が滞在しています(残りの1日は生活指導支援員が滞在)。専任のスタッフがいるホッとスペースができたことで、子どもたちにとっては安心して過ごせる場所が校内に確保できたと同時に、教員の働き方改革にもつながる取り組みとなったのです。

ホッとスペースは月曜から金曜までで、うち4日は心理士、養護教諭、教諭の資格を持ったNPO法人の職員が滞在、残りの1日は生活指導支援員が滞在している
(写真:友渕中学校提供)

これらの校内フリースクールには、決まった時間割はなく、何かをしなくてはいけないという決まりもありません。そう聞くと、「校内にそういう場所があったらますます教室に行かなくなるのでは。教室にいる生徒との公平性はどうなる」と危惧する人もいるかもしれません。しかし、30万人近くが長期欠席の不登校になっている事実を考えれば、その子どもたちが社会とつながる場所を確保する必要があるのです。

以前、不登校特例校(8月から学びの多様化学校と名称変更)の記事を書きましたが、そこでも子どもたちが安心していられる居場所づくりがテーマでした。そのときに特例校という言葉に違和感を感じたこと、ここの取り組みが一般化していけばいいのにと思ったのですが、校内フリースクールはその一歩とも言えるでしょう。

不登校の原因は「豆腐メンタル」と「親の過干渉」!?

一方、子どもたちが安心して過ごすためには、ただスペースがあればいいということではありません。

不登校約30万人という数字について、「あのつまらない場所にいればそうなるだろうなと思った。すでに学校制度は崩壊している」と言うのは、教育革命家/やる気いっぱい幸せいっぱいクラスの請負人を自認する元小学校教員の梶谷希美さん。「今のさまざまな問題の原因は、明治以来続いてきた日本の学校教育のシステムにある」と言います。

先生の役割についても「そもそも1人で40人近い生徒を見るには、かなりの講師としてのスキルと高度なマネジメント力が必要だけれど、教員はそんな教育を受けて教師になっていない。しかも小学校の先生はどの教科も教えなくてはいけないうえに、英語やプログラミングまで乗ってきた。どんなに学んでも、学んでも追いつくはずはなく、そのうえ保護者対応や事務処理までこなすことが求められる。どれだけすごい人材を求めているのかと言いたい」と力説します。

梶谷さん自身は、13年前に学級崩壊のクラスのサポートに入って以来、学級経営、心理学、コーチングなどありとあらゆる本を週に20冊は読み、学校以外の場所にも出かけて学び、学級崩壊をさせないマネジメント術を構築し、数々の学級崩壊に陥っているクラスを立て直してきたそうです。そして、退職後は未来学園HOPEを立ち上げ、不登校の生徒や保護者の支援をしながら、しあわせ先生塾を主宰し、先生にその方法を伝えています。

「大人の役割は道案内」だと言う梶谷さんが子どもたちと接するときに心がけているのは、その子の持っている可能性を信じること。そのうえで、あくまでも一人の人として接することだそうです。そんな大人の姿を見て、子どもたちもだんだん変化し自立していくのだとか。やはり、子どもとの信頼関係は重要です。

もう1つ、私が不登校の原因として気になるのが、生活リズムの乱れです。実際、不登校の原因の11.4%が生活リズムの乱れ、遊び、非行になっていますし、生活リズムの乱れは、原因の1位に挙がる無気力や不安にも影響を及ぼすからです。

のんのん先生も、10年くらい前から子どもたちの変化を感じるようになったそうで、以前なら厳しい指導に対して反抗してきたけれど、今はちょっとした一言で心が折れてしまう。豆腐メンタルだと言います。その原因は2つあると、のんのん先生は言います。

1つは生物としての弱さ。体と脳が育つ大事な幼少期から、生活習慣が乱れて、良質な睡眠や食事が取れていないことで基盤ができていない。生活リズムが整わないと、こころをコントロールする脳の前頭前野がしっかりと育たず、友達のちょっとした言葉に傷ついてしまうのです。

もう1つが、親の過干渉があるとのんのん先生。確かに、親子の関わり方は、不登校の原因に挙がっています。とくに不登校になると、昼夜逆転など生活の乱れが見られるケースも多いのですが、この状況を悪化させないためには、親子の信頼関係が欠かせないとのんのん先生。しかし、親だって壁にぶつかる子どもにどんな言葉をかけたらいいのか、習っていないからわかりません。

私も子育てに悩んだ経験があり、コーチングや心理学、脳科学を学びましたが、よかれと思って逆のことをしていたことに気づきました。そんな経験からも、子どもを導く役割を担う親も先生も、関わり方を学ぶ必要があると感じています。のんのん先生も、心理学と脳科学、栄養学を取り入れた不登校の親向け講座を開いていますが、親の関わり方が変わると子どもは変わっていくそうです。

つまり、子育てや教育に関わる人が、常識だと思っていることをアップデートしていくことが、問題解決には欠かせないのです。

本丸は教育システムの見直し

そのうえで、本丸が教育システムの見直しです。ここまで、不登校の現状と、現場の取り組み、学校外でこの問題に向き合う人たちのことを紹介してきましたが、今回取材した先生の多くが、不登校の児童生徒が増えている理由として、「学校のこうあるべきという枠からはみ出る子どもたちを異質と捉える大人の同調圧力が子どもたちを追い詰めているのではないか」「この数字は、現状の学校システムが時代に合わなくなっていることの表れだ」という意見が相次いだのが印象的でした。

学習学の提唱者・本間正人氏は、「不登校という言葉は子どもたちの人権を蔑ろにしているのではないか。在宅選択・登校選択の自由という言葉に置き換えてはどうか」と提言します。確かに、「不登校」という言葉は登校を前提としたネガティブな言葉ですが、言葉を変えることで物事の捉え方が変わります。「不登校特例校」が「学びの多様化学校」と名称変更されたのと同様に、この名称も考え直す必要がありそうです。皆さんはどう思いますか? 最後に、元麹町中、現横浜創英中学・高等学校校長工藤勇一氏の言葉を紹介しましょう。

「何十年も前から国をあげて、教育委員会、学校が改善のための努力をしているにもかかわらず、ますます悪化していく一方なのは、そもそも日本の学校の教育システムが合っていないからです。子どもたち一人ひとりが主体的に学び方を選べる教育システムに転換しなければなりません」

これまで、だましだまし続けてきた学校というシステムが軋み始め、限界に近づいてきています。教育相談体制などの対症療法も必要ですが、教育関係者だけでなく、保護者や当事者である子どもも一体となって、教育を再構築していくときに来ているのではないでしょうか。

(注記のない写真:beauty-box / PIXTA)