大学進学指導に特別注力する「進学指導重点校」

東京都教育委員会は、都立高校の中でも特別に大学進学指導に力を入れている学校を、「進学指導重点校」「進学指導特別推進校」「進学指導推進校」というグループに分けてそれぞれ指定しています。

(1)進学指導重点校(7校)
日比谷高校、西高校、国立高校、八王子東高校、戸山高校、青山高校、立川高校

(2)進学指導特別推進校(7校)
小山台高校、駒場高校、新宿高校、町田高校、国分寺高校、国際高校、小松川高校

(3)進学指導推進校(15校)
三田高校、豊多摩高校、竹早高校、北園高校、墨田川高校、城東高校、武蔵野北高校、小金井北高校、江北高校、江戸川高校、日野台高校、調布北高校、多摩科学技術高校、上野高校、昭和高校

 

上記でも特に大学進学指導に注力しているのが「進学指導重点校」で、現在7校が指定されています。次いで「進学指導特別推進校」、「進学指導推進校」の順で大学進学指導に力が入っています。

そんな進学指導重点校の中で最も大学進学実績が高いのが、東大合格者数の高校ランキングトップ10に毎年入る日比谷高校です。2024年の日比谷高校の東大合格者数(現役合格)は、東京の女子御三家トップの桜蔭に並ぶ52名。ランキング上位に国立高校・私立高校がひしめくなか、唯一トップ10入りを果たした公立高校です。

進学指導重点校は難関国公立大学への進学を目指しているため、文系・理系両方の教科に対応したハイレベルなカリキュラムが設定されています。学校ごとに特色もあり、たとえば戸山高校には「チームメディカル」というプログラムがあり、医学部への進学実績を高めています。

「自校作成問題入試」で独自の高難度な入試を実施

西村創(にしむら・はじめ)
教育・受験指導専門家
早稲田アカデミー、駿台、河合塾Wings、栄光ゼミナール、明光義塾などで25年以上の指導歴がある
(写真は本人提供)

入試問題について、進学指導重点校と、進学を重視した単位制高校(「進学重視型単位制高校」)である新宿高校・国分寺高校・墨田川高校の国語・数学・英語、そして国際高校の英語は、都立高校共通の入試問題ではなく、各学校が独自に作成した「自校作成問題入試」です。

都立高校共通の入試問題は学校の教科書レベルなので、たとえば小山台高校、駒場高校など共通問題入試におけるトップ校では、少なくとも8割以上、内申点によっては満点近く得点しなければ合格できません。

一方で自校作成問題は、共通問題とは一線を画したハイレベルな問題。共通問題より文章量が多く、解答を出すための手順が複雑です。

たとえば共通問題の国語の場合、作文と漢字以外はすべて選択問題であるのに対し、自校作成問題では「80字以内で書け」などと指定文字数の多い記述問題が出ます。題材となる文章も、大学入試で出題されてもおかしくないような専門性の高いものです。

なかでも数学は難しく、自校作成問題の場合は受験者平均点が30〜40点台になる学校が多いです。計算問題では小数・分数が入り交じった複雑なものが出されます。文章題は、共通問題が選択式のマークシートであるのに対し、自校作成問題は記述式で、解答に至るまでの途中式や考え方も記さなくてはなりません。

英語は昨今、共通問題でも文章の長文化が目立ちますが、自校作成問題はさらに長くて問題数も多いです。英作文においては、100単語程度と長い記述指定も見られます。50分の試験時間で全問解き切るというのは、長文に慣れている生徒でも容易ではありません。

そして、このようにハードルの高い自校作成問題入試を突破した生徒を教えるのもまた、選ばれた教員です。進学指導重点校の教員は、教員公募制の狭き門をくぐり抜けて採用された、指導力に自信のある先生たちなのです。

前述の日比谷高校では、英語のディスカッションやディベートなど、「英語で考えて、英語で話す」という機会が多く設けられています。入学後間もない英語の授業でいきなり、 アメリカのCBSニュースをリスニングして穴埋め問題を解いたり、1年生の夏期講習や土曜講習で東大の過去問を解くといったこともたびたび行われているようです。

入学後の3年間で大学入試対策を完成させるというのは、入試対策をしない国立高校はもちろん、私立の中高一貫校とも異なる都立難関校独自の指導です。

私立高校の授業料無償化で都立高校は人気下降

2024年の都立高校入試の倍率は1.38倍で、前年の1.37倍から微増したものの、近年の都立高校入試は低倍率が続いています。

東京都中学校長会進路対策委員会の「都立高校志望予定調査」によると、都内の公立中学校に在籍する中学3年生うち、全日制の都立高校(昼間定時等除く)に進学を志望する生徒は63.29%で、前年度の63.54%から0.25ポイント減少。都立志望率は2017年度の71.15%をピークに、下降傾向が続いています。

背景としては、2024年から東京都の私立高校の授業料が実質無償化したことが影響していると考えられます。すでに2024年入試では、難関私立高校に合格した受験生が、難関都立高校の受検でさえも棄権するケースが増えました。

これまでは、日比谷高校をはじめとする都立難関校に合格した場合、開成高校や早慶附属高校などの私立高校を蹴って進学する例も少なくありませんでした。しかし、東京都の私立高校無償化における所得制限が撤廃されたことで、私立難関校に合格した時点で、その後に控える都立高校の受検を棄権する受験生が増えているのです。

都立高校の受検倍率の低下は、中堅以下の学校においてより顕著です。これが私立中堅校の人気上昇、ひいては私立中学受験率の上昇につながっています。高校受験の様相は現在過渡期にあり、今後当分の間は、「都立人気下降、私立人気上昇」のトレンドが続くと考えられています。

(注記のない画像:リョーさん / PIXTA)