同じ合格実績でも「その過程」には大きな違いが

北海道から沖縄まで、年間に全国およそ100校の高校で進路講演をしています。都心のビル校舎から山奥、離島まで、環境はさまざま。地域トップクラスの進学校もあれば、大学進学者が少ない進路多様校に伺うこともあります。最近では通信制高校や定時制高校に呼んでいただく機会も増えました。

講演の準備段階では、先生方から多くのリクエストもいただきますし、当日も可能な限り打ち合わせや意見交換をします。そうした中で、教育のあり方は高校によって本当に多様であることを実感します。

例えば、毎年呼んでいただいている地方のある公立高校では、「大学入試や受験対策の話は一切しないで大丈夫です」といつも言われます。どこを受験するかは本人に考えさせたい。だが生徒たちを見ていると、どうも身近な狭い世界だけを見て将来を考えている。だからできる限り視野を広げる内容をぜひ、と。

一方、近隣にある別の高校。入学難易度は先ほどの高校とほぼ同程度ですが、こちらのリクエストは「受験勉強に集中し、一般選抜でちゃんと国公立大学への進学を目指すような話でお願いします」です。「私立大学や推薦入試の話は不要なので、一切しないでほしい」とも。

進学実績は両校とも大差ないように見えますし、私自身はどちらの高校でも受験や就職の先を見据えた、長期的なキャリアにつながる話を心がけます。ただ生徒たちが日々の進路指導やキャリア教育を通じて高校から受け取っているメッセージは、おそらくかなり違うはずです。

「国公立大学への進学に力を入れている」の聞こえはいいが…

2校のどちらがよいか、などと断じるつもりはありません。本人や保護者がどちらの指導を望むか、どちらに共感するか次第でしょう。

ただ、こうした違いは、高校の入学難易度(偏差値)や大学合格実績などからは読み取りにくいのです。中学生や保護者の方からすると、将来への影響が大きいわりに外から見えにくい部分なので、困るところでしょう。

「全国の国公立大学に幅広く進学している」という高校は全国各地にありますが、これも指導の過程はさまざまです。ある高校では「地元だけで進路を考えてしまうとキャリアビジョンが限定されるので、遠方の大学の情報も積極的に伝えていきたい」と先生が話していました。

一方、別の高校では「国公立大学への進学実績を上げたいが、地元の大学はどこも入試難易度が高い。なので、受かりやすい穴場の大学の話をぜひ」と言われました。結果的には似たような進学実績になっているのですが、その背景にある狙いはかなり違います。

中には「さすがにどうだろうか……」と思ってしまう例も見聞きします。「本校は国公立大学を目指させる主義。私大受験に逃げられたら困るので、私大は進路行事に一切呼ばない」という高校もあるそうです。

でも実際には、その高校の卒業生の大半は地元の私立大学に進学しているのだとか。地元の私大はレベルが低いから国公立を目指せ、と先生から言われ続けた多くの卒業生たちが、自己肯定感を奪われた状態で大学生活をスタートさせていることを、その地域の私大関係者らから聞きました。

本校は国公立大学への進学に力を入れています、という説明を聞けば、多くの保護者はおそらく肯定的に評価することでしょう。でも「なので、なるべく私大には興味を持たせないよう指導しています」と聞いたら、どうでしょうか。前者は高校のウェブサイトで確認できますが、後者の実態は見えにくいのです。

大学合格実績だけでなく、指導方針も確認を

現在、高校のあり方は多様化しています。探究学習に力を入れ、総合型選抜などで難関大学に生徒を送っている高校もあれば、学力試験中心の一般選抜で合格者を多く出す高校もあります。

倉部 史記(くらべ・しき)
進路指導アドバイザー、追手門学院大学 客員教授、情報経営イノベーション専門職大学 客員教授
慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点からさまざまな団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会で、進路指導に関する講師を務める。 兼任として三重県立看護大学 高大接続事業 外部評価委員、NPO法人LEGIKA「WEEKDAY CAMPUS VISIT」認定パートナー。公務実績として文部科学省「大学教育再生加速プログラム(入試改革・高大接続)」ペーパーレフェリー、三重県「県立大学の設置の是非を検討するための有識者会議」有識者委員など。著書に『ミスマッチをなくす進路指導』(ぎょうせい)など
(写真:本人提供)

海外に進学したいという生徒を積極的に支援する高校もあれば、国内の進学に特化している高校もあります。さまざまな分野で活躍する卒業生や社会人が生徒に話をしに来る高校、講演後の質疑応答が絶えない高校など、特色は異なります。

繰り返しますが、高校を選ぶ尺度は人それぞれ。いかに評判がよい高校でも合う、合わないはあります。どんな高校でもあまり気にしないという方もいるでしょうが、「どうしても指導方針になじめなかった」「自分が望まない進路を先生たちから強く勧められて後悔が残った」という方もいます。

高校選びを進める中学生や保護者は、進路実績を気にされることでしょう。各高校のウェブサイトでは、国公立大学合格者○名、GMARCH以上への進学率が○%……といった表現をよく見かけます。高校がこうした数字によって受験生や保護者、あるいはさまざまなメディアから評価されているからでしょう。

でも難関大学への合格実績を最大化させるための進路指導と、すべての生徒の後悔を最小化させるための進路指導は、同じではありません。前者を追求するあまり、成績上位者以外の生徒が置き去りにされているケースもあります。そしてメディアの評価は前者に偏ります。

これから高校を選ぶという方は、進路指導の結果ばかりではなく指導「方針」のほうも気にしてみてください。

生徒全員を有名大学に進学させたいのか、あるいは専門学校や就職への支援にも力を入れているのか。総合型選抜などを肯定的に捉えているのか、あるいは一般選抜での受験を原則としているのか。3年間の指導計画はどうなっているのかなど、さまざまな違いが見えてきます。

ウェブサイトに指導方針や計画が詳細に掲載されていることもありますが、それだけでは読み解けないことも多いので、学校説明会などで具体的に尋ねてみることをお勧めします。

「ウチは海外大学への進学も考えているのですが」「高校にはスポーツ推薦で進学しますが、学業との両立はどのように指導されていますか」など、気になることを聞いて大丈夫です。

もし身近に、その高校の在校生や卒業生がいるなら、当事者からの口コミは最も重要な情報源の1つです。パンフレットにはこう書いてあるけど実際はどうか、といった点をぜひ聞いてみてください。中学生や保護者を対象にした授業公開を行う高校も増えていますので、そうした機会があるなら、参加をお勧めします。

偏差値や進学実績からだけでは見えない違いは、思っている以上に大きいもの。ぜひさまざまな角度で各高校の教育を見ていただければと思います。

(注記のない写真: Graphs / PIXTA)