東大受験生はリビングで学習している?

東大受験生はリビングで学習している――。学習空間に興味関心を持つ層であれば、一度は聞いたことがある説かもしれないが、これは正しいのだろうか。

下記は、東大卒収納コンサルタントとして活動する米田まりな氏が、東大の卒業生に対し、小学校高学年時代の過ごし方を思い出して回答してもらう形式で実施したアンケートの質問項目の1つである。

ここで米田氏は「リビング『だけ』学習ではない点に注目してほしい」と話す。

「この質問では、複数回答のため、73%の人が『リビング・ダイニング』と回答している一方で、『個人の学習部屋』と回答した方も74%いらっしゃいました。『リビング・ダイニングのみ』という方は全体の20%にとどまっていました。つまり、リビングと学習部屋の双方で学習している方が大半で、リビング『でも』学習が正しい認識になると考えています」

昨今はABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)など、仕事の内容や目的に合わせて、働く場所を選択できる企業も増えてきている。大人だけでなく子どもも場所を選べたほうがよいということだろうか。

「アンケートに基づくと、東大生を育てた家庭の学習拠点の数は、1人当たり平均で2.6カ所となりました。1つのリビングにダイニングテーブルとパソコンデスクなど複数拠点があるパターンや、1つの子ども部屋に兄弟2人分の学習机があるパターン、リビングや子ども部屋以外にも、親の書斎や廊下や押し入れの一角を有効活用しているパターンなど、家庭内のさまざまな場所が使われていることがわかりました」

場所よりも重要?机の高さもキーに

収納コンサルタントとしてさまざまな家庭を見る中で、リビング学習「だけ」に囚われないこと、また机の高さの重要性についても実感するようになったと語る米田氏。

「リビング学習のために、小さいちゃぶ台で正座して勉強していたり、ダイニングの椅子に骨盤矯正のクッションを付けて、足が床につかない状態で勉強していたりすると、身体にものすごく負荷がかかります。

『子どもがすぐにだらけてしまう』など、親は勉強しないことをついつい子どもの集中力のなさなどに結びつけて考えてしまいがちですが、身体に負荷がかかった状態で集中しろというのは大人でも簡単にできることではありません。場合によってはバーンアウト、燃え尽き症候群の原因となってしまいます」

机や椅子の高さが重要になると考えられるが、一般的に小学校の入学祝いなどで購入される子ども用の学習机などはどうか。

(写真:TOSHI.K / PIXTA)

「子ども用の学習机はGIS規格に基づき、大体のものが70センチの高さで作られています。一方で、女の子だと小学校1年生時の平均身長は約120センチで、その身長に合う机の高さは50センチ。一般的な学習机だと、20センチ足を浮かせながら勉強することになってしまいます」

実は学校で使われている机は、家庭用の学習机と異なり、50〜70センチで高さを調整できるものや、学年ごとに合った高さのものが用いられているという。

「私がおすすめしているのは、小学1〜2年生で身長が低い時期は学校タイプの机を使い、身長が伸びてきてから、家庭用の学習机を使うこと。ただし、例えば男の子で180センチまで成長した子が70センチの机を使っていると猫背になってしまいます。

成長に応じて買い替えたり、昇降するような机を検討したりしてもよいかもしれません。東大生へのアンケートでは、親の机を使っていたという方もいました」

東大生を育てた家庭の間取りの共通点

部屋づくりのアドバイスをする際には、「個室がないといけない」「リビング学習=ダイニングテーブルで」などの思い込みを一旦捨てて、自宅の中のいろんな場所を回りながら勉強するアイデアを推奨しているという米田氏。

さらに東大生を育てた家庭の間取りを見ていくと、ある共通点が見えてきたという。

「この部屋は誰の部屋と“人”で区切るよりは、“目的”で区切って家中を使っている家庭が多く見られます。勉強するにしても、父親に聞きながら勉強したい時は書斎、母親に聞きながら勉強したい時はダイニング、パソコンを使う時はパソコンのある部屋で……など、用途別・時間帯別で、自宅の中でもフレキシブルにいろんな場所を活用している印象があります。例えば私の友人はゲーム好きなのですが、そのご家庭では、遊びは全て和室に集約しましょうというルールになっていたようです」

冒頭にもあったように、勉強できる場が多拠点あること、それらを用途別・時間帯別にフレキシブルに使い分けることが重要であるということだろう。さらに米田氏が注目する東大生の家庭の間取りの共通点として、「親の目が届く」ということもカギになるという。

「自分は常にドアオープンで親の目が届いた状態で勉強していた記憶があったので、他の東大生はどうだったのかという疑問意識があり、これについても東大の卒業生にアンケートを行いました。アンケートでは『学習部屋』のみに限定していたにもかかわらず、『常に親の目が届いている』『どちらかというと親の目が届いている』人が合計して約3割という結果に。一見低い数値のように見えますが、リビングと比較して目が届きづらいはずの学習部屋でこれだけの数値になっています」

リビングやキッチンで親が炊事をしている時にも学習部屋に目が届くというパターンもあるようだ。

「例えば、私の実家は当時、リビングにしかクーラーがなかったので、基本的に家族全員が個室のドアをオープンにしていました。私の学習部屋はキッチンの隣にあり、母がキッチンで料理をしている最中に常に私と横で目が合うような状態。学習部屋にいても、家族の気配があり、あまり疎外感を感じない間取りだったのはよかったと思います」

整理整頓は学力や主体性、自己肯定感も育む?

ここまでで、多拠点学習や机・椅子の高さなど、東大生を育てる家庭空間の輪郭が見えてきた。ただし、これらの条件を揃えても、「整理整頓ができていなければ、学習効果は半減する」と語る米田氏。改めて片付けにはどのような効果があるのか。

「集中力や作業力のアップは大人と子どもにかかわらず共通です。例えば、これから調理をしましょうという時に多くの調理家具や食品が乱雑に散らかっているキッチンと綺麗に片付いたキッチンでは、当然何もないキッチンのほうが取り掛かりやすいですよね。学習やリモートワークではそうした傾向がより顕著に出るかと思います」

さらに、片づけは子どもの学力や自己肯定感も育む可能性があるという。

「整理整頓のプロセスを経ることで、与えられたものを目に入る順にこなす作業フェーズから、自分のモノや行動を自分がコントロールするというクリエイティブなフェーズに入っていけるというのが、学習と部屋づくりどちらにも共通した私の感触です。

例えばノートの整理をしようとすれば、『自分にとって必要な情報はAのノートにはもうないけどBのノートのここにあるから、そこだけ切り取って残そう』などと考える必要が出てきます。整理整頓が、自分が何をわかっていて何をわかっていないかを選別するプロセスになっているんですね。

モノに対してのコントロールを勝ち取りにいくことで、自分の学習スタイルや知識に対しても自信を持てるようになり、これが主体性や自己肯定感につながるのではないかと考えています」

実際に東大の卒業生に対するアンケートでも、「小学校高学年の時、親はあなたの教材・プリントをどの程度整理していたか?」という質問では、半数以上の人が「自分自身で整理をしていた」という結果が出ているという。

子ども部屋「片付けなさい」に代わる魔法の言葉

整理整頓の重要性はわかったが、実際に子どもに片付けを促すには、どのように声掛けを行うのがよいのか。

「『片付けなさい』はNGワードです。子どもはモノの定位置がわからなかったり、そもそもの定位置が不便だから片付けられていなかったりということが多々あります。そんな中で『片付けなさい』だけ言われると、親の機嫌が済むまでとにかく隠せばいいという思考になったり、苦手なこととして脳に印象付けたりしてしまいます」

『要るか要らないか』という質問もNGだという。

「モノが要るか要らないかは、大人でも考え込んでしまいますよね。私がおすすめしているのは『いつ使ったか』という質問です。これなら子どもも質問の意味がわかりやすい。『昨日使った』なら当然捨てる必要はありません。

『幼稚園から使ってない』だとしたら、質問のベクトルを変えて、『〇〇(子どもの名前)にとってどういう気持ちのもの?』と、子どもにとっての重要性を聞き出します。

もしも『思い出があるから全部残したい』ということになった場合は、片付けが進まないので、『この中で一番可愛いと思うものを5個選ぼう』など、濃淡をつけて仕分けていくことをおすすめします」

少々手間はかかるが、最初のうちは子どもがイエス・ノーで答えやすいことを聞き、分類は親が手伝うのがスムーズだという。

「小学校高学年になれば、子どもに親の片付けを手伝わせるのも有効です。例えば親のクローゼットの片付けで、子どもに『これいつ着たの』と聞いてもらいます。『5年間着てない』と親がタジタジになるケースもあるでしょう(笑)。親を指導してクローゼットが綺麗になったという先生体験をすることで、片付けの重要性が腑に落ちやすくなります」

 “整理整頓”で育む「対等な親子関係」

「『片付けなさい』と言ってしまうのは、実は親自身が片付けの定義やプロセスを理解できていないから、ということも背景にあります。『こうしてほしい』と思ったならば、まずは自分がロジックを理解することが大事です。

例えば、親が子どもと同じ学校を受験することは難しくても、片付けのプロセスを学ぶことならすぐに始められます。家全体だとハードルが高いので、まずはキッチンなど、小さい空間から始めてみると、親も成功体験を積みやすいです」

(図:東洋経済作成)

こうした片付けのプロセスを学び、実践することは、「理想の親子関係」を育むことにもつながるという。

「自分ができなかったことを子どもに反面教師としてできるようになってほしいという気持ちは誰にでもあるかと思いますが、まずは自身で学ばなければ、子どものつまずきポイントや苦しみを理解することができません。

『片付けなさい』という一方的な声掛けは、上下関係にも陥りやすいですから、まずは親が実践することで子どもとも対等で良好な関係を築きやすくなるのではないでしょうか」

『勉強しなさい』と言われても子どもが勉強しないのと、同じ理論なのだろう。最後に、東大生を育てる家庭の親の姿勢についても聞いた。

「東大の卒業生に対するアンケートでは、小学校時代、親が自宅で机に向かっている姿を日常的に目にしていた人が4割という結果もありました。『親が経理部の所属で、自宅で資格の勉強をしていたことで、自分も経済学部に進みたいと考えた』など、直接的に親の仕事内容から影響を受けた方もいれば、『親が読書好きだったので、自分も読書の習慣が身についた』など、趣味の部分でよい影響を受けた方もいました。

一方で、親自身が勉強熱心でなくても、環境整備のほうに心を尽くすことで、子どもの勉強に対するやる気がアップするパターンもあるでしょう」

“子どもは親の姿を映し出す鏡”とは、まさにこのことなのだろう。まずは取り組みやすい「家庭空間」から、親がトライすることをおすすめしたい。

米田まりな(こめだ・まりな)
サマリー取締役・収納コンサルタント
2014年に東京大学経済学部卒業後、住友商事に入社。22年に一橋大学大学院にて経営修士号を取得。24年よりITスタートアップ・サマリー取締役に就任。プライベートでは整理収納アドバイザー(1級)の資格を活かし、幅広い層に向けた片付けのコンサルティングを行っている
(写真:本人提供)

(文・吉田明日香、注記のない写真:takeuchi masato / PIXTA)