「Google Classroom」で一人ひとりの声を聴くことができる

文部科学省が実施した、「令和4年度全国学力・学習状況調査結果」では、小学校で1人1台端末を「ほぼ毎日」活用している学校は最も多い地域で78.3%、最も低い地域で22.7%と、地域や学校によって1人1台端末の活用状況に大きな差があることが明らかになりました。

この地域差は決して教員や学校の怠慢によるものではありません。使いたいけれど環境が整っていなかったり、ICTをどのように活用したらよいのかわからなかったり、それぞれの環境でさまざまな悩みを抱えています。

私は「Google Classroom」(以下、Classroom)を活用するようになって、授業の準備にかける作業時間が50%減少し、採点や成績処理にかける時間が60%削減されました。その分、教材研究の時間を確保でき、生徒や先生と対話する時間を生み出すことができました。そのような体験からもっとClassroomを活用してほしい、先生の本来の(先生にしかできないICTで代替することが不可能な)仕事を行う時間を十分に確保できるようになってほしいと強く願っています。

では、Classroomではどんなことができるのか、活用するとどんな変化を起こせるのでしょうか。Classroomを使い始めて私が感じる最も大きな変化は児童生徒一人ひとりの声を聴くことができるようになったことです。

「先生、なんで私の話を聞いてくれないの?」。そう言われたことがある先生も多いのではないでしょうか。Classroomでは、それぞれの課題に対して「教師」(先生)と「生徒」(児童生徒)が1対1のコミュニケーションを取ることができるので、生徒が自分の考えを伝えたり、教師に質問したりすることが容易になりました。教師はその時に返信する時間がなくても、後で見返してコメントを返すことができます。

これはもちろん、生徒との直接的な会話をやめることを推奨しているわけではありません。教師と直接話したい生徒もいれば、チャットのようにコメントで伝えるのが得意な生徒もいますし、どちらの方法でもうまく伝えられない生徒もいます。

Googleフォームでアンケートを行うと、普段はあまり話さないのに熱心に回答してくれる生徒もいます。生徒の選択肢が増えれば、その声が教師に聴こえる回数も増え、悩みや困っていることを小さなうちに発見して、生徒との良好な信頼関係を築くことができます。

教師から児童生徒に声かけを行う方法も、直接話しかける以外に、フォームで全体に質問を投げかけることや、Classroomの限定コメントで個別に声かけを行うことが選択肢として増えます。クラウド型のツールのため時間と場所の制約を受けず、コミュニケーションが円滑になることによってさまざまな問題を未然に防ぎ、良好な信頼関係を築くことができます。

生徒がさまざまな端末で使用できるのも大きなメリットです。学校を休んでいる生徒もスマートフォンや自宅のパソコン、Chromebookなどで情報を共有できます。Classroomを普段使いしていくことで、学級閉鎖や学校閉鎖になってもすぐにリモートに移行して授業を進めることができます。

授業でClassroomの[質問]の機能を活用すれば、生徒全員の意見を集めてすぐに共有できます。教師が質問すると小学校の低学年では多くの生徒が手を挙げますが、年齢が上がるにつれて発表することに不安や恥じらいが生まれ、手を挙げなくなります。教師はクラス全員の意見を聴こうとしますが、全員を指名するのは時間的に難しく、発表する生徒が偏ってしまう傾向もあります。Classroomの[質問]では、クローズドクエスチョンの質問を自動で集計したり、オープンクエスチョンの回答を共有して生徒同士がコメントし合ったりといった一歩進んだ意見の交流が可能になります。

※Classroomでは「教師」と「生徒」という名前で役割が区別されているため、ここでは「教師」と(小学校児童も含めて)「生徒」に表記を統一

教師も業務効率化、作業時間を圧倒的に削減できる

一方、Classroomを活用することで教師も業務効率化が進み、作業時間を圧倒的に削減できます。

学校が自前でサーバーを整備する場合、維持管理にコストがかかります。また、学校のサーバーを利用した際に、同時に同じファイルを編集できなかったり、一時的にアクセスできなかったりして困った経験はないでしょうか。

Classroomを含めたGoogle Workspace for Educationは、Googleが教育機関向けに提供するクラウドサービスです。学校のパソコンでも自宅のパソコンでも、個人が使用しているスマートフォンでも安全に利用でき、働く場所を選びません。教師は学校以外の場所で課題を作成でき、生徒はその課題で自宅学習することもできます。クラウドに保存されているファイルは共同で編集できるため、ほかの人が作業を終えるのを待つ必要がありません。

Classroomでプリント配布をクラウド化したことで、年間43時間もの時間短縮を達成できた学校もあります。Googleドキュメントに意見を集約して職員会議の時間を短縮することや、フォームの機能を活用して、生徒へのフィードバックと採点を自動で行うこともできます。

今後、AIの進歩によって報告書やメールの返信、複雑なテストの採点もできるようになり、教師の仕事は洗練されていくことでしょう。資料の印刷や課題の管理、成績処理などの業務は自動化されていき、教師は本来行うべき仕事のための時間が確保できるようになります。Classroomの利用はその第一歩になると考えます。

いつでもどこでも、どんな端末からも使用できることに不安を感じる人もいるかもしれません。ですが、Google Workspace for Educationには優れたセキュリティー対策が施されており、非常に高い安全性を保持しています。クラウドに保存されたデータは暗号化され、最先端の暗号化技術を使用して複数の階層で保護されています。

教育を再定義する時期が訪れる

Classroom の活用が進み、教育のDXが起こると授業はどのように変化していくのでしょうか。少なくとも教師が得た知識を生徒に伝えるだけの一方通行の授業はなくなり、「主体的・対話的で深い学び」の実現に到達し、教師の役割が変化していくことでしょう。

教師がClassroomで課題を割り当てると、生徒は情報を検索して分析し、必要に応じて対話を行い、教師はそれをサポートする授業風景に変化するかもしれません。やがて、学校は何のためにあるのか、教室や授業はどのような役割を果たすのか、AIが進化している中で教師にしかできないことは何なのか、それらの問いと向き合い、教育を再定義する時期が訪れることでしょう。

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しかし、教育のDXはすぐには起こりませんので、学校内外の先生と一緒に試行錯誤しながら、じっくりと進めていきましょう。『いちばんやさしいGoogle Classroomの教本』ではGoogle認定トレーナーでもある札幌市立定山渓小学校の平間健介先生、愛光中学・高等学校の和田誠先生、船橋市立飯山満中学校の辻史郎先生、岡山市立横井小学校の遠藤隆平先生、札幌新陽高等学校の尻江重幸先生、東奥義塾高等学校の井上嘉名芽先生、Canadian Academyの茂田可愛先生の実践事例も紹介しています。

「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければみんなで進め」というアフリカのことわざがあります。自分一人であれば決断も早く、どんどん先へ進むことができますが、大きな目標を達成することは難しいでしょう。大きな目標を達成するには、みんなで意思決定をして一緒に進めていく必要があります。

私が研修の講師をさせていただく際に、「ほかの先生がICTを使ってくれないのですがどうしたらよいでしょうか」とよくご相談をいただきます。多くの場合は、ICTがいかに先生にとって便利なものかや、生徒の学習にいかによい影響を与えるかを伝え、小さなスモールステップから取り組むことで、少しずつ巻き込んでいくことができます。

Classroomはつねにアップデートされ、より使いやすく、より学習効果を高めるツールとなっていくと思われます。GEG(Google Educator Group)やFacebookコミュニティーの勉強会に積極的に参加することで、自分自身の知識やスキルのアップデートだけでなく、学校外で共に歩んでいける仲間を見つけることもできます。

古川俊(ふるかわ・すぐる)
横浜市立公立小学校講師、大学非常勤講師。埼玉大学教育学部卒業後、日本教育大学院大学学校教育研究科を修了。中高数学教諭を4年間、小学校教諭を5年間務める。2019年Google認定イノベーターを取得し、経産省実証事業で17自治体とGoogle Workspaceを活用したオンライン学習での出席・学習評価モデルづくりのためのシステム設計を行う。現在はGoogle認定トレーナーおよびコーチの資格を取得し、多数の地域や学校でGoogle Workspaceの研修やコーチングを行う

(注記のない写真:ふじよ / PIXTA)