意外と知らない! 4月1日生まれが「早生まれ」

「早生まれがすごいって、どういうこと?」という期待がある一方で、早生まれに関して何らかの不安をお持ちの方もいるかもしれません。お子さんの成績の伸びや受験に関して、「もしかして早生まれのせいかもしれない……」と、心配をしている方もいるでしょう。また、親子で早生まれのために、早生まれとしての科学的、教育的な知識をしっかりと仕入れておきたいという要望もあるかもしれません。

では、早生まれとは、正確にはいつからいつまでのことをいうのでしょうか。そして、それはなぜなのでしょうか。

日本では、1月1日から4月1日までに生まれた人が「早生まれ」とされ、4月2日から12月31日までに生まれた人は「遅生まれ」とされます。学年の中で一番最初の誕生日となるのが4月2日、最後となるのが翌年の4月1日です。

早生まれの子は、不利。

そんな風に思われている方も多いと思います。

実際にそれを証明するような研究もあります。2020年に東京大学大学院の山口慎太郎教授が発表した論文は、「早生まれは不利」ということを裏づけるような内容であったため、多くのメディアで話題になりました※1

ただ、論文の読み方にはコツがいるというのも事実です。実際、この論文に対しては、次の部分に注目した方が多かったように思います。

・遅生まれの子どもほど成績が良い。
・学年が上がれば学力の差は縮まるが、差は残る。
・進学した高校の平均偏差値は、3月生まれは4月の遅生まれの子よりも4・5ポイント低い。

 

確かに、これらの内容に注目すれば、「早生まれの子の学力は低い」ということが証明されてしまったように思えます。

では早生まれの子は生まれつき、学力が低いのでしょうか?

ちょっと落ち着いて考えてみてみれば、そんなことはないということがわかります。4月1日が予定日だった子が、1日遅れて4月2日生まれになったことで、学力が大幅に上がるということはないからです。脳科学の観点からいえば、たった1日の違いで、その子が持つ能力が変わるということはありません。

では、何に違いがあるのか。

それは「早生まれの環境」です。
この環境の違いが「早生まれ」と「遅生まれ」に差をつくっているのです。

※1 Shintaro Yamaguchi, et al. Month-of-Birth Effects on Skills and Skill Formation, June 2023, Labour Economics, 84(4).

早生まれの成功を握るカギは「自己肯定感」

早生まれの子どもは、「先生や友だちから認められていない」と感じていることも、この調査が明らかにしたことです。対人関係の苦手意識も、このような「周囲はわかってくれない」という気持ちに起因しているのかもしれません。

実は、これはとても大きな問題です。

自分のことを大切だと思える「自己肯定感」や、自分が頑張ることで何かを達成できると思える「自己効力感」は、人の能力を大きく左右する要素であることが数々の研究で明らかにされています。

「自己肯定感が高いほど大学の成績が高い※2」、「高校生の自己効力感と学力の関係から、自己効力感は学力向上の大きな要因であることが明らかになった※3」など、「自己肯定感・自己効力感が高いほど、学力も高い」ということを、これらの研究は示しています。つまり、「人間の能力は、自己肯定感・自己効力感によって左右される」ということです。

早生まれの人の成績が振るわないとしたら、それは自己肯定感・自己効力感が低いからかもしれません。これらの感情の高低は、生まれつきのものではなく、高くもなり、低くもなります。「いかに高い状態にして維持するか」が、分かれ目になるのです。

※2 Seyyed N. Hosseini, et al. Locus of Control or Self-Esteem; Which One is the Best Predictor of Academic Achievement in Iranian College Students. Iran J Psychiatry Behavioral Sciences, 2016 Mar 15;10(1):e2602.
※3 Shahrzad Elahi Motlagh, et. al. The relationship between self-efficacy and academic achievement in high school students. Procedia - Social and Behavioral Sciences, 15, 765-768, 2011.

早生まれには「変化に強い力」が備わっている!

「早生まれが本当はすごい」のは、脳に「可塑性」という性質があるからともいえると思います。

「可塑」というのは聞きなれない言葉だと思います。これは「思い通りに物の形をつくること」をいいます。脳には、「思い通りに脳自体をつくることができる・変化させることができる」という性質が備わっています。

実は、この可塑性は何歳になっても残ります。例えば10歳になっても、30歳になっても、50歳になっても、70歳になっても、新しいことを学ぶことができるのは、脳に可塑性があるからです。ただし、可塑性は「若い脳の方が高い」ということもわかっています。新しいことを学ぶのであれば若いうちの方がいい、ということは、皆さんも実感として感じているはずです。

早生まれの子というのは、結果的に他の子よりも一足早く集団生活に入り、様々なことをスタートすることになります。多くの他者とコミュニケーションをするのも、体操をするのも、絵を描くのも、合唱をするのも、合奏をするのも、勉強をするのも、遅生まれの子よりも脳が若いうちに始めることになるのです。

これは実は、早生まれの大きなメリットです。

なぜなら脳の可塑性を、より早いうちから高めることになるからです。脳が若いうちに、いろいろな経験ができるということですね。1年早く難しい問題にチャレンジしていくことになるからです。

結果的に早生まれという状況は、脳の可塑性を高めることにつながるともいえます。思考、判断、記憶などの脳に対する負荷を、周りの子よりも早い段階でしっかりかけていくということは、脳の機能的な側面から見ればかなり大きなプラスなのです。

「3つのできる」が早生まれの才能を伸ばす

環境要因を打ち消し、脳の可塑性を生かすために大切なものの一つが、自己肯定感です。実際、本人が努力すること、周囲がその努力を褒めることで、自己肯定感が高まることがわかっています。早生まれ族がその能力を発揮するためには、夢中になることに没頭できる環境が必要です。何かに熱中することで、努力も苦にならず、周囲から認められる機会も増えていくからです。

受験においては、「いつ勝負すべきか」を、遅生まれ以上に真剣に考えると良いでしょう。中学受験をする場合は、子どもの成熟度を見極め、「結果」ではなく「努力」を認めるようにします。そして大切なのは親子で取り組むことです。親が子どもに教わるくらいの気持ちで臨みましょう。

自己肯定感を保つためには、「ちょっとできる」を3つ持つことをおすすめします。

「ちょっとできる」を掛け合わせていくと、オンリーワンになるからです。世界一でなくてもいいのです。「ちょっとできる」の集合が、いつしか個性になっていきます。

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親御さんの中には、どうしても学年で比べてしまうために、不安になってしまうという方がいるかもしれません。「群」として見れば、特に幼いうちは、差があるかもしれません。しかし、その「群」が個人に当てはまるわけではありません。

一方で、ちょっと幼いと感じられる部分があるなら、たくさん愛情をかけて育てればいいのです。子どもをしっかり見つめ、その努力を見つけて、適切に褒める。「(早生まれだから)しょうがない」ではなく、「(早生まれなのに)ここまでできてすごい」に言い換える。

そのような丁寧な働きかけこそが愛情ですし、愛情をたっぷり受ければ、自己肯定感は保たれます。それこそが将来の学業成績や生きる力につながっていくのです。

(注記のない写真:maroke / PIXTA)