受験を機に最も不登校が解決しやすいのは「小学生」

年々増加する不登校の子どもたち。その背景や事情はさまざまだが、「不登校を解決するための有効な選択肢の1つは、受験」だと、『不登校からの進学受験ガイド 受験で不登校を解決する方法』の著者である山田佳央氏は語る。

山田氏は現在、都内で個別指導塾3教室を運営しているが、自身も指導に当たっており、これまで多くの不登校の子を合格へと導いてきた。山田氏の塾は、学力の育成や受験対策がメインで不登校を専門としているわけではないが、例年一定数、不登校の子がいるという。

「2022年度は、児童生徒数約170人のうち、約1割程度が不登校生でした。私の塾は、小学生がメインの中学受験の個別指導塾ですが、これまで不登校の約90%が受験を機に解決しています。つまり、多くの子が学校に通えるようになるんです。22年度に不登校の状態から合格した10名を超える子たちのほとんどは、合格した中学校へ通っています。一部中高生も教えていますが、これまでの経験として、小学生が最も受験を契機に不登校が解決しやすいと感じています」

なぜ、小学生は受験を機に不登校を解決しやすいのか。1つは、環境がリセットされるからだという。

「私は約20年前の大学時代に家庭教師のアルバイトをしており、家から出られないような不登校の中高生を教える機会が多かったのですが、当時に比べ、今の不登校の子たちは買い物や遊びには行けるけれど学校には行けないという子が増えている気がします。とくに小学生の不登校は学校の先生や友達と合わないケースが多い。私が見てきた限り、今の学校が合わない場合には、受験に合格して環境が変わると学校に通えるようになることが多いので、経済的に可能であれば中学受験をお勧めします」

山田佳央(やまだ・よしお)
個別指導塾ココロミル塾長
早稲田大学政治経済学部卒、日本たばこ産業に勤務後、2009年に「ココロミル」を創業。「できない子にこそ良い講師が指導する」という理念で、渋谷、新宿、麻布十番に3校舎を展開。年の半分は満席、キャンセル待ちの塾。指導実績は20年、3000名を超える。子ども一人ひとりの課題の理解を重視する「聞く」授業で子どものやる気と学力を伸ばし、合格という結果を出す。また、学力の育成と同時に合格して進学先にも通えるようなステップと支援、育成を実施。年間数百名を超える相談を受け、自身も生徒指導に当たっている。3児の父。著書に『不登校からの進学受験ガイド 受験で不登校を解決する方法』(ユサブル)、『日本語力がアップする小学国語900のことば』(双葉社)、『国語の心得 最小の努力で得点を最大化する方法』(国書刊行会)
(撮影:尾形文繁)

小学生は不登校の期間が短く、学力を高めることが容易なので合格も目指しやすいそうだ。

「中高生では九九から教えなければならないこともあるなど、場合によっては何年もさかのぼって基礎から学び直す必要があります。しかし、小学生なら学習内容もまだ難しくないので遅れを取り戻しやすく、中高生より積み上げが少ないため学力も伸ばしやすい。保護者の働きかけも効果があるため受験が成功しやすいのです。実際、私の塾では、5年生の2月から準備して青山学院中等部に合格するなど短期間で成果を出す子も。昨年度は6年生の秋から受験勉強を始めて香蘭女学校に受かった子もいますね」

さらに、中学受験では、不登校がハンデにならないという。一部の学校を除き、合否は本番当日の試験のみで決まるからだ。

「例えば私どもの調査では、都内の学校では7割程度の私立中学は不登校でも合格および入学が可能だということがわかっています。しかも私立中学はケアが厚く、保健室登校やオンライン授業がOKなど柔軟な対応を期待できる学校も多いので、子どもに合った学校を選びやすいというメリットもあります」

調査書や出席日数を重視する「高校受験」は選択肢が限定的

山田氏が中学受験を勧めるのは、不登校期間が長くなるほど解決も難しくなると感じているからだ。

「高校生になって不登校になるケースは少なく、小中学生時代に学校に行けなくなる場合が多いのです。小学生の場合は、保護者の声がけで塾などの外部機関に通うことができるため、受験によって状況を変えられる可能性が高まるのですが、年齢が上がるほど保護者の働きかけが効かず、最初の面談にすら来られないことも多い。たとえ外部機関に通えたとしても、先ほどお話ししたように、本人の学力によっては学び直す量も多いため、学力を伸ばす難易度が上がります」

しかも高校受験では、調査書や出席日数が重視されるため、選べる学校が限定的だという。

「公立校だけでなく、私立も一部の高校を除いて調査書を見ます。偏差値が70近くあっても事前面接を求められることが少なくありません。その面接で精神的な疾患があるのかと聞く試験官もいます」

そのため、高等学校通信制課程(以下、通信制高校)や東京都のチャレンジスクールのような、作文と面接で受けられる学校が選択肢として挙がってくるが、この選択も本人の状態や相性を考える必要があるようだ。

「これは私の塾に来る子たちの特徴かもしれませんが、進学を目指す子は、自分を不登校のカテゴリーに入れられることを嫌います。フリースクールや適応指導教室のように不登校の子が集まる場は自分に合わなかったと言う子は多く、そういう子は通信制高校やチャレンジスクールなどの選択肢を望みません」

(撮影:尾形文繁)

また、最近では動画やオンラインで完結する仕組みが楽だからと通信制高校を選ぶ不登校の中学生も多いが、「モチベーションと学力が備わっている子でないと、入学後の学力の向上と通学の継続は難しい」と山田氏は指摘する。

「通信制高校はここ30年で3倍に増えており、中学校の先生が不登校でない子にも通信制高校を勧めるケースが見受けられますが、『学校基本調査』(文部科学省)の2021年度間データによると、公立通信制高校からの大学進学率は約14%程度。私立は約24%で、有名大学の大学合格者数を公表している学校がありますが、母数の多さを考えれば合格率としてはよくない場合が多い。進学率に中退者数を含めず計算する学校もあり、進学実績はあまり当てになりません」

また、通信制高校は入りやすいが、その分、生徒の学力にはばらつきがあり、大学受験に向けた指導を期待するのは難しいという。

「対面授業もしっかり行い、熱心に指導を行う通信制高校は一部にありますが、質がよい学校が増えているとはいえないのが現状です。高卒資格の取得が目的ならばよいのですが、大学受験を目指すなら通信制を選ぶ価値はちゃんと考えたほうがいい。そのため選ぶ際は、教員免許保持者や正社員としての教師の在籍者数、生徒1人当たりの教師数などを確認しましょう。また、『何月までに手続きしないと枠が埋まる』などと、あおる学校は要注意です」

中高生以降の不登校は「高卒認定試験」がお勧め

このように不登校の子にとって高校受験はハードルが高いが、その先の大学受験は人生を変える大きなチャンスだと山田氏は言う。調査書が不要な一般入試なら、中学受験と同様に高得点を取れば合格できるからだ。ランクを問わなければ選べる学校は多く、入学後も勉強の内容や教授も選べるため本人の環境調整がしやすいことから、不登校になる確率が中高に比べ下がるという。就職の際も最終学歴が重視されるため、大学を出ればそれまでの不登校の履歴は問われない。そこで山田氏が大学進学への近道だと考えているのが、高等学校卒業程度認定試験(以下、高卒認定試験)だ。

「不登校の場合、今在籍している学校に戻そうとすると、本人と家庭に大きな負担がかかるケースが多い。今日は学校に行けるかなと期待して行けなかった場合、本人も周囲もショックでダメージが大きいのです。とくに地方は、不登校であることが周囲に知れ渡ると余計学校に行きづらくなってしまう。それなら大学進学を見据えて準備したほうがいい。文科省の2013年調査では高卒認定試験から大学への進学率は約25%。中高生以降で不登校になった場合、勉強に向き合えるのであれば、高卒認定試験からの大学受験をお勧めします」

学ぶモチベーションがそれほど高くなければ、「就職を前提に専門学校などの選択肢がある」というが、大学進学を見据えて進路を考える場合、どのようなサポート機関を選べばよいのだろうか。

「学習に取り組むことができるなら、通常の塾を選べばよいでしょう。問題は学ぶモチベーションや進学の意欲は高いけれど、不登校の期間が長く学力が追いついていない子どもたち。どこから手をつければよいのかわからないので、伴走者が必要です。そうした子どもたちを救う機関は残念ながら多くはないのですが、私たちのような個別指導塾や不登校専門の塾、家庭教師などが選択肢になると思います」

その際は、身元のしっかりした指導者を選ぶべきだと山田氏は強調する。山田氏は大学を卒業し、大手企業と家庭教師ビジネスを行う教育ベンチャー企業の勤務を経て、09年にココロミルを創業したが、家庭教師ビジネスの仕事をしているとき、学力の向上を左右するのは指導者の質だと思い至ったという。

「家庭教師の多くは大学生なので、学業生活や就活を優先します。その中で、大学生が本業を優先すると不登校の子は『先生に見捨てられた』と感じ、モチベーションを失ってしまうことがありました。そうした苦い経験から、責任をきちんと持てる者が継続して指導しなければいけないと思い、私の塾では講師全員を正社員として雇っています。学歴、名前、住所などをちゃんと公開しているかという点は重要。塾も個人も、指導者の身元について確認が取れるところを選んだほうがよいでしょう」

フリースクールや適応指導教室は、学習については受験指導というよりは学び直しの側面が強く、受験を考える子は有意義に過ごせないことも多いという。そのため山田氏は、「出席日数の獲得など何らかの目的やゴールを決めて行くなど、居場所の1つとして活用するのがよいのではないでしょうか」と話す。

長年、塾の経営者・講師として不登校の子どもたちに寄り添ってきた山田氏は、学校や保護者にこう呼びかける。

「学校の先生方には、キャリアや職業についてもっと勉強していただきたいと思います。どんな進路や選択肢があり、それを選べばどのような可能性が広がるのかといった社会的視点を持って不登校の子の進路指導に当たってほしいですね。また高校には、出席日数をどの程度加味するのかなど、不登校の子の受験に関する情報を公開してもっと透明化していただきたい。そうでなければ、高校受験で傷つく不登校の子がもっと増えてしまいます。私は、高校受験が中学受験のようにクリアでオープンになってくれることを望みます。また、保護者の方は焦らないこと。お子さんの状況に合った選択をしないと時間と費用の無駄になるので、費用対効果も含めた選択肢の知識を得て余裕を持ち、お子さんの自信や成功体験をつくってあげてほしいと思います」

(文:國貞文隆、注記のない写真:Mills/PIXTA)