約2割は“PTAは任意参加である”ことを知らない事実
まずは保護者の認識から見ていこう。PTAの必要性についての設問では「必要に思う」が61.5%と、「不必要に思う」の38.5%を大きく上回っている。
PTAにはネガティブな意見が多いものの、存在の是非については多くの保護者が必要性を感じているようだ。PTAがあることでの利点について、以下のようなコメントが目立つ。
・知らない情報を教えてもらえる
・他学年も含めて親同士の交流が持てる
・家庭ではわからない学校での子どもの様子がわかる
とくに多かったのが「親同士で交流が持てる」という意見だ。核家族化が進み、ご近所付き合いなどが薄れる現在では、保護者同士が交流を持つ機会も少ない。そうした意味では、子育て世代の情報交換や助け合いのネットワークづくりのきっかけとして捉えられているようだ。
一方で、「不必要に思う」理由を見ると次のようなコメントが多い。
・無駄な会議や集まりが多い
・仕事との両立がしにくい。時間が取れない(平日昼間に集まるのが難しい)
・必要のない役職も多い。役職を維持するために仕事をつくっている
また、PTAの活動自体は「必要」とした回答者でも、PTAのデメリットを聞いた設問では、以下の意見が寄せられた。
・仕事を休んでまで参加するのが大変
・選出が毎回大変
・任意であるはずなのに強制的
・前例重視で改革ができない
以上から見えてくるのは、PTAでは今の時代に即した運用が行われていない点と、任意と言いつつも参加が半ば強制されている点だ。PTAが任意参加という事実を知っているかどうかを聞いた設問では19.8%と、約2割の保護者が「任意であることを知らなかった」と回答している。
実際、子どもが在学中に1回はPTAの委員・役員を引き受けなければならないという暗黙のルールが存在している地域は多く、未経験者だけでくじを引いて委員・役員を決定をするといった対応も少なくない。このように強制性が否めない活動では、積極的な対応が望めず有意義な活動にもつながりにくい。近年、参加者を完全に自由意思のボランティアに切り替える組織が登場した背景には、こうした「隠れ強制」の弊害が根底にあるのだろう。
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必要ではない役職のトップは「卒業対策委員」
PTAの運用が時代に即していないことは、回答からもはっきりと確認できる。
共働きが増えているにもかかわらず、平日に会議が開催されやすいこと。近頃は平日夜や休日に会議を開催するPTAも増えてきているが、そもそも会議の回数や作業の進め方は前例を踏襲することが多く、効率化が考えられていない。これは、委員・役員が1年単位で選出されるため、その場限りの対応に終始しやすいことも一因だろう。また、IT化が遅れていた教育現場だけに、いつの時代かと思うような非効率な前例が残されていたりする。
例えば、PTA委員・役員がイベント開催の告知をしようとすると、こんな手順を踏むことが多いという。告知手段はメールなどではなく全校生徒に配布するプリントが前提。かろうじて書面はWordなどのデータが前年度から引き継がれているが、そのデータは学校保管のUSBで持ち出しは禁止。修正は学校にあるパソコンで行い、そこから学校のプリンターで出力することが大原則。
さらに学校にあるパソコンとプリンターを予約するためには、わざわざ学校に足を運んで申請をする必要があり、ネット受け付けはおろか電話受け付けすらNGだ。プリントの内容に関しても事前に1部出力して、教頭先生などに手渡して確認してもらい、承認を得なければならない。これは、都内のPTAで行われている実際の作業フローだ。これでは、とくに仕事を持つ保護者から怨嗟(えんさ)の声が上がっても仕方がない。
ちなみに、PTAを「必要」とした回答者に必要な役職と仕事を聞いたところ、以下の結果となった。「会長・副会長」が最も多い72.9%、次いで「会計」が65.9%。最も少なかったのが「卒業対策委員」の28.7%であった。これは教員にも同じ質問をしているが、同じような傾向が見られた。異なる点としては、保護者には重要視されている「書記」が、教員からはあまり必要とされていない結果になっている。
教員側もPTAを負担に感じている
今回は、教員にもPTAに関する意識調査を行っている。そこからは何が見えてくるだろうか? まずは、基礎データとして職場にPTAがあるかどうかの設問には、92.8%が「ある」と回答。PTAが任意であることも「知らない」とした回答は13.3%にとどまった。
そのうえでPTAの是非を聞いた設問を見ると「必要に思う」が54.2%、「不必要に思う」が45.8%と保護者よりも肯定的な意見が少なく、是非はほぼ半々の回答であった。
具体的にそれぞれの理由をフリーアンサーで見ていくと、以下のコメントが目立った。
【必要な理由】
・保護者との関係づくりができる
・学校行事で保護者の協力があり、ありがたい
・保護者と協力して生徒の指導ができる
【不必要な理由】
・保護者の負担が大きい
・教員にとっても負担が大きい
・結局は教員主導、教員作業になる
・形骸化している
やはり、ネガティブな意見としては負担の大きさが目立つ。それも、保護者の負担を懸念する声と同時に、教員側の負担を挙げる声も少なくなかった。勤務時間外にPTA活動にコミットしなければならないことへの負担が大きく、さらには「PTAから学校側へのクレームが激しい」といった回答も散見された。保護者も教員側も余裕がなく、半ば強制で行われるPTAは結果としてトラブルも発生しやすい。
ボランティア、シルバー人材の活用、ICTによる効率化などの改革案
では、どのような改革が考えられるだろうか? 「PTAに代わる組織、運営に関するアイデアはありますか?」といった設問を保護者と教員それぞれに聞いている。主な回答は以下となった。
【保護者】
・ボランティア組織として運営
・シルバー人材の活用、第三者への外部委託
・報酬化の検討
・不公平感のない輪番制の適用
・テレビ会議やSNSなどICTを活用した効率化
【教員】
・ボランティア組織として運営
・第三者への外部委託
・コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の導入
保護者と教員ともに多かった意見には、すでに実現している組織も現れてきた完全ボランティア化による対応だ。そのほか外部委託といった案もあり、保護者の中にはシルバー人材の活用を提案する人も少なくない。
教員側の意見としては、近年指定校が増える「コミュニティ・スクール制度」の導入を推す声もある。コミュニティ・スクールとは保護者や地域が学校のさまざまな課題解決に参画し、それぞれの立場で主体的に子どもたちの成長を支える仕組みである。一見するとPTAとの違いがわかりにくいが、PTAが保護者と教員で形成されるのに対し、コミュニティ・スクールで組織される学校運営協議会には、地域住民や教育有識者が参画し、学校運営への責任や権限の一端を担う。
このほか、保護者にのみICTを活用した効率化の案が出ているように見えるが、これは、教員には「PTAを効率化するためにICTや業務の見直しができる部分」を聞いた設問があり、そこではやはり、ペーパーレス化やオンライン会議などで活動の効率化を目指す考えが示されている。
PTAの必要性そのものについては、61.5%もの保護者と、54.2%の教員が肯定しているのだ。時代に即した活動の見直しと効率化が実現できれば、PTAの意義はあるとの見解が読み取れる。教育現場はGIGAスクール構想の進展もあり、一気にデジタル化が進んでいる。学校側のインフラが整ったことを考えても、この時期にPTAの改革は以前より着手しやすいはずだ。コロナ禍でこれまでの前例が踏襲しにくい今は、まさに改革のチャンスといえるのかもしれない。
ここでは紹介しきれなかった調査結果の詳細を別途資料にまとめた。PTAがあってよかったこと、困ったこと、PTA運営に関するアイデアについて、保護者と教員の意見を具体的に紹介している。PTAの改革を描く前に一度、参考にされてみてはいかがだろうか。資料のダウンロードはこちらから
教員関係者意識調査 調査日:2021年12月17日
対象:小学校教員300名、中学・高校教員300名
対象エリア:全国
対象:小学生のお子さんを持つ保護者300名 中学・高校生のお子さんを持つ保護者300名
対象エリア:全国
(文:福島朋子、注記のない写真:Graphs / PIXTA)