PTA総会、新1年生交流会などコロナを機に活動をオンライン化

「PTA活動のオンライン化を進めたことで、これまでの活動の“棚卸し”ができていることを実感しています」と語るのは、神奈川県川崎市内の公立小学校PTA(児童数960、世帯数830)で2020年度から会長を務める保﨑幸一氏。きっかけは、20年3月から6月のコロナ休校だった。

保﨑幸一(ほざき・こういち)
川崎市内の公立小学校PTA会長。役員経歴は、2018年〜19年副会長、20年より現職。2児の父
(画像は本人提供)

「毎年5月に対面で行っていたPTA定期総会の開催が不可能になり、さあどうしようかと。活動計画や予算の議案が通らないと、その年度のPTA活動ができないため、急きょ、オンラインを活用した『書面総会のWeb開催』に踏み切りました」

保護者への連絡ツールとして、すでに導入していたメール配信システムを活用し、総会資料はPTA会員のみが閲覧できる形でPTAの専用ホームページ上に掲載。会員は、各家庭のパソコンやスマートフォンから内容を確認できるような仕組みを整えた。議決および委任はGoogleフォームで行い、自動集計で回答を確認した。

「初めての試みでしたが、8割近くの保護者が議決権を行使し総会が成立。議案も承認されました。対面総会の際に行っていた、PTA役員による会場設営や当日の議事進行、総会資料の印刷や配布、投票用紙の回収、集計などの手間が大幅に省けただけでなく、『Web移行で参加しやすくなった』という声もいただきました」(保﨑氏)

20年のゴールデンウィークには、休校期間中の不安解消を目的に、PTA主催で「20年度新1年生Zoom交流会」を実施した。発案したのは、20年度副会長の増島佐和子氏だ。

「当時はZoomを使い慣れない保護者もいたため、PTAのホームページにZoomアクセスマニュアルを掲載したのに加え、当日を迎える前にアクセス確認日を設け、役員が事前フォローを行いました。交流会は、多くの参加者が見込まれる日曜日に開催。校長先生にも参加いただき、初開催だったにもかかわらず約6割の家庭が参加し、終了後のアンケートでは、参加者の9割から『とてもよかった』という声が寄せられました」

PTA主導のこれらの取り組みに学校側も並走するように、学校全体で、全学年クラスごとのオンライン朝の会を試行したり、YouTube限定配信による学校説明会などが導入されたという。

オンライン化が、PTA活動の見直しや改善につながった

PTA主催の保護者向け講演会も、Zoom開催を実現。さらに“子どもたちのお祭り”的な意味合いが強かった「PTA文化祭」も、「子どもたちの未来につながる学びのプログラムを」という学校からの要望を組み込み、「世界幸福度ランキング上位の国、フィジーの人とオンラインでつながろう!」「オリンピックで使われるスポーツピクトグラムを学ぼう」などを企画し、オンラインで開催した。

PTA活動を「コロナ禍だからできない、やらない」で済ませてしまうのではなく、「この状況の中で何ができるか」と発想を転換し、同校ではポジティブな姿勢でPTAのオンライン化を進めてきた。

「ICTの知識を持つメンバーが執行部に複数存在したという“偶然”もありますが、オンラインを学校と家庭のコミュニケーションツールとして捉え、試行錯誤を楽しみながら主体的に活動できたと思います。今までのPTA活動の見直しや改善につながっただけでなく、学校との距離が縮まり、PTAからの提案などもしやすくなりました」

保﨑氏の言葉に、増島氏も続く。

増島佐和子(ますじま・さわこ)
川崎市内の公立小学校で、2019年〜20年副会長を務める。2児の母
(画像は本人提供)

「会場準備など“環境づくり”の手間が省けた分、『保護者にどんなことを伝えるか』『子どもたちにどんなことができるか』について集中して考えることができるようになりました。オンラン化によりPTAの意義や目的など、その輪郭がはっきりしてきたと思います」

GIGAスクール元年といわれる21年度の4月には、PTA役員が中心となり、「GIGAスクールサポーター」としてタブレット端末を使う授業のサポートも行った。

「われわれがお手伝いしたのは、初めてタブレット端末を使い、電源の入れ方などに戸惑う子どもたちをサポートするといった初歩的な内容ですが、先生の負担が減りますし、子どもたちの様子を先生方にフィードバックすることが、よりよい授業につながると思います。今後もこのようなサポートは継続していきたいですね。

これまで必要に迫られてオンライン化を進めてきた部分もありますが、PTAの基本はやはり、『対面』だと思っています。コロナの状況を見ながら、オンライン、対面それぞれのよさを生かしながら、保護者が『自分が参加したPTA活動が子どもたちに還元されている』と実感が持てるような取り組みを増やしていきたいと思います」(保﨑氏)

PTA協議会と企業がコラボしICTを活用したPTA活動を支援

前述したような好事例が存在する一方で、「ICTを活用し、PTA活動運営の効率化を進めたいのに、ICTに詳しいメンバーがおらず進め方や相談先がわからない」という課題を抱えるPTAが、数多く存在するのも現状だ。

このような状況の改善を目的に、21年4月、大阪府の公立幼稚園・小学校・中学校のPTA活動を支援する大阪府PTA協議会と、ICTに強みを持つNTT西日本が共同で、ICTを活用したPTA活動を支援する「リモートPTA」の実証事業を大阪府内で始めた。

名村研二郎(なむら・けんじろう)
大阪府PTA協議会理事、池田市立学校園PTA協議会特別委員。2018年〜20年、大阪府PTA協議会会長を3年間務めるほか、PTA会長歴5年。3児の父
(画像は本人提供)

参加を呼びかけたのは、大阪府PTA協議会。府内の小中学校のPTAなど約1200団体を対象に、「リモートPTA」の取り組みをメールで周知した。実証事業は21年9月までの予定で、府内各市町村のPTA、学校PTAは、PTA活動における困り事をNTT西日本に相談すると、ICTを活用した解決手段の提案や、アプリやシステム導入の初期サポートの支援などを無料で受けられる仕組みになっている。

大阪府PTA協議会理事の名村研二郎氏は、「任意加入問題、個人情報保護問題などさまざまな課題が挙がる中で新型コロナが流行。対面の機会が減り、PTA活動のあり方が改めて問われる時代にGIGAスクール構想が始まり、学校も子どもも新しい学びを模索し始めています。私たち保護者も、今だからこそ、主体的にICTを学んでいかなければいけない。そんな思いでいたときに、NTT西日本さんからプロジェクトの提案を受け、実現に至りました。対面のよさも大切にしながら、活動の選択肢の1つとして検討してほしいと思います」と言う。

オンライン化は目指すPTAを実現する手段の1つ

「リモートPTA」の中核となるのが、NTTグループ公式のビジネスチャットツール「elgana」(エルガナ)の活用支援だ。

竹田恵里香(たけだ・えりか)
NTTビジネスソリューションズ バリューデザイン部
(画像は本人提供)

NTTビジネスソリューションズ バリューデザイン部の竹田恵里香氏は、「コロナ禍で対面の活動が減る中、PTAの役員間で資料を共有したり、保護者の方に資料を配布する際に『elgana』を活用すれば、PTA役員がパソコンなどから保護者に資料を一斉送信できたり、チャット機能で簡単なやり取りができます。ビジネス向けの高度なセキュリティーを備えているため情報漏洩を心配する保護者の方からの理解が得やすいのに加え、送信相手全員の既読・未読状況を確認できるため、未読者へのフォローができます。また、管理者によるユーザー管理が可能で、PTA会員のみの登録とし、情報の範囲が制限できるのも特徴です」と言う。

「elgana」を導入したPTAには、初期のユーザー登録や、保護者向けの説明会を実施し利用の促進をサポートしている。「Web会議をしたいのに何から手をつけてよいかわからない」というPTAに対しても、必要な機器の紹介や通信環境の整備、会議の進め方などの相談に随時応じ、実現までのサポートを行っており、21年6月現在、「リモートPTA」への問い合わせは188件、「elgana」の導入は教育機関も含めて100団体を超えたという。

国領昭典(こくりょう・あきのり)
NTTビジネスソリューションズ バリューデザイン部 担当課長
(画像は本人提供)

「『elgana』には初期費用も月額料金も無料のフリープラン、初期費用が無料で月額料金が330円(税込み)のベースプランがありますが、多くのPTAでご利用いただいているフリープランはグループトークの上限が20グループです。ファイルの閲覧可能期間が1週間などの制限があるものの、登録人数の制限はないため、PTAのようなコミュニティーでは、十分利用いただけると思います。9月までの実証事業で得られた声を集め、ほかのコミュニケーションツールやサービス等との連携など新たな機能の追加を検討しながらサービスの向上に取り組んでいきたいですね」と語るのは、同社ビジネスソリューションズ バリューデザイン部 担当課長の国領昭典氏。

学校教育のみならず、PTAも、オンライン化が確実に進んでいる。PTAのメンバー間で模索したり、企業や団体のサポートを受けたりなど、その方法もさまざまだ。オンライン化が、これまでの活動のスリム化、効率化につながるのは自明の理であるが、あくまでも、目指すPTAを実現するための“手段”の1つ。「なぜオンライン化するのか」「オンライン化で何を目指すのか」という対話を重ねながら、参加しやすいコミュ二ティーにアップデートしていく時代に来ている。

(企画・文:長島ともこ、注記のない写真はiStock)