学力差、生活スタイルの定着など課題は山積

小学校に入学して約4カ月、この1学期で子どもたちは大きく成長したことだろう。自分で時計を見て、時間割どおりに行動できるようになった子も多いに違いない。宇野氏によれば、入学時に時計が読める児童は半分程度。残りの半分には一から教えるという。

宇野弘恵(うの・ひろえ)
北海道公立小学校教諭。著書に『あと30分早く帰れる!子育て教師の超効率仕事術』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝!小学校高学年担任の指導の極意』『伝え方で180度変わる!未来志向の「ことばがけ」』『宇野弘恵の道徳授業づくり 生き方を考える!心に響く道徳授業』『タイプ別でよくわかる! 高学年女子 困った時の指導法60 』(いずれも明治図書)など多数
(写真は本人提供)

「まずは小学校のシステムに慣れるため、時計の読み方や45分で1科目を勉強することを教えます。さらに休憩時間で次の授業の準備ができるよう指導します。算数で時計を習う前から、日常の中で少しずつ慣れさせていきました」

子どもにとっては、人の話に長時間、静かに耳を傾けるのも初めての経験だっただろう。

「子どもは基本的に話したがりで、状況を考えずにおしゃべりをしてしまいがち。そのため入学時は、先生が教室の前に立ったら話を聞くことを約束してもらいました。発言したいときは手を挙げて指されたら話せること、自分の話を聞いてくれたらうれしいように、友達も話を聞いてもらえたらうれしく思うことを教えるのです」

2学期までの学級の目標として宇野氏が語るのが、これらを「投げ出さずに最後まで取り組ませること」だ。勉強や課題に限らず、前述の「しっかり人の話を聞く」についても、慣れてくるとつい甘えが出てしまうという。夏休み明けは気が緩みがちだが、「怒るのではなく、よくできた時に『お友達を大事にしているね』『心が見えているね』と褒めて価値づけをしてあげると、習慣化につながります」と宇野氏は助言する。

入学当初は、出身の幼稚園・保育園によって学力差があるのも難しい問題だ。すでに小学3年生相当の学力がある子もいれば、ひらがなが読めないところからスタートした子もいる。こうした学力差の開きは時間が経つにつれて小さくはなるようだが、2学期以降も、学習が進んでいる子が退屈しない工夫は必要だ。

ひらがなの形を細かく説明したり、わざと間違えて指摘させたりするなどの工夫があるという。丁寧になぞれた子どもには「ここの曲がり方がそっくりだね」など、認めてあげることも大切
(画像:ノンタン / PIXTA)

「どんな子にもまだできないことがあり、必ず課題があります。得意なことは友達に伝えてあげることで、さらに理解が深まります。例えばひらがなの書き方なら、すでに書ける子にはよりきれいに、はみ出ないようになぞり書きをするというハードルを与えました。いずれにせよ挑戦すること自体に意味があるので、すべての子に花丸をあげます」

それでも苦手が残った子には、宇野氏が休み時間でフォローすることもあるという。保護者の多くは、わが子が学習についていけているか心配しているため、取り組んだ成果は保護者にも見せ、課題がある場合は「ここは指示と異なることをしてしまったようです。しかし、ここまでは集中して取り組めています。集中力さえあればできるはずです」などと共有して家庭でのサポートを助言し、成長に向けて協力する体制を整える。

学級経営の方針を保護者に明確にしておく

このように、保護者もわが子の生活には不安を感じており、同時に担任教師には非常に高い関心を寄せるものだ。一度不信感を持たれてしまうと、その後のクレームなどにもつながりかねないが、担任はどう信頼関係を築くべきか。

「私は、懇談会で学級経営の方針を明確に伝えるようにしています。いくら子どもに『あいさつをしなさい』『時間を守りなさい』と指導しても、その子が理由に納得できていなければ不満として保護者に伝わり、担任への不信感が募ります。そこで早めに、『私の指導はすべてここにつながっています』と説明しておくとよいでしょう。

ここで注意すべきなのが、例えば『あいさつができる子になってほしい』というのは表面的な行動にすぎないということです。実際は『自分と違う未知のものを受け入れることができる』ことの一環としてあいさつがあります。私の場合は『他者の命を大切にできる人になってほしい』から、コミュニケーションの端緒となるあいさつを重んじ、時間や約束を守らせています。また同じ理由で、どんな場合でも暴力は絶対に許さないことも伝えています」

宇野氏には、「他者の命を大切にできる人になってほしい」に加えてもう1つ方針がある。それが「自分で考えられる人になってほしい」ということだ。

「他者を大事にすることと自立することはセットだと考えています。中には、過度な心配や介入をしてしまう保護者もいますが、先回って手助けばかりすると、子どもが何でも人のせいにしたり、自分らしく生きることを手放してしまう可能性があることを伝えています。親が考える以上に、子どもは失敗から学び成長するものです。確かにわが子が忘れ物をしたらかわいそうだと思うかもしれませんが、『失敗させましょう。困ったときにどうするか考える場にしましょう』と、見守る関わり方を一緒に考えていこうと伝えて理解してもらいます。面談でも『〇〇さんは先日も、私が言う前に自分で気づいて動けましたよ』と、自立に向かって成長している様子を報告するよう心がけます」

とくに小学1年生の保護者は、教師に親身な態度が見られないと不安になりがちだ。宇野氏は「心配なときはいつでも相互に連絡しましょう」とオープンな態度で接するという。大事な子どもを、家庭と学校と同じ熱量で育てる気持ちを示すと、保護者の安心にもつながるそうだ。とはいえ、経験の浅い教員は、過度な要求にまで丁寧に対応して自身の健康を害したり、「先生には子どもがいないくせに」などと言われてしまうことも。教員は1人で約30人の子どもを見ている。あくまでもへりくだりすぎず、教育のプロとして対応することがコツだそうだ。

子ども同士のトラブルはうやむやにせず、徹底して事実確認

前述の通り夏休み明けは気が緩み、トラブルが起きやすい時期でもある。例えば登下校中の寄り道や、大人の目が届かないところで遊びたがる、そして人間関係のいざこざだ。

「入学時の緊張が解け、友達同士のけんかが増えます。けんかが起きたら担任は、双方の話をそれぞれ聞いて、2人の話が一致するまで懇々(こんこん)と事実を突き詰めていきましょう。冷静に事実を問われるうち、ヒートアップしていた児童も落ち着きを取り戻し、『これが嫌だった』『こう言ってしまった』と振り返りができるようになるのです。

最も避けるべきは、トラブルをうやむやにすること。一方が納得しないまま終わらせてしまうと、親子ともに学校や相手方に不信感を抱き、後からさらに大きな問題になることも。小学生は人間関係の築き方を学ぶ時期でもあるので、時間はかかっても『ごめんね』『僕もここが悪かったよ』と子ども自身の口から出てくるまでは向き合うべきです」

まず一方の話を聞いて記録し、次にもう一方の話をよく聞く。どちらかが相手を叩いてしまったのなら、どこを、何回、グーかパーか、など、完全に一致するまでとにかく話をすり合わせることで子どももクールダウンしてくるという
(画像:Fast&Slow / PIXTA)

一方で宇野氏は、保護者の協力も必要不可欠だと話す。例えば、なるべく子どもに考えさせて自分で決めさせようと意識したり、親の口出しを10回から7回に減らすだけでも効果がある。子どもとの時間が増える夏休み、家庭では何に気をつけるとよいのだろう。

「夏休みは子どもにぜひ、仕事を1つ与えてほしいです。毎日カーテンを開ける、など簡単なことで構いませんが、『お手伝い』ではなく『仕事』とすることで、子どもは自分が家族の一員だと自覚し責任感が芽生えます。できれば、『これをしなさい』と親から一方的に与えるのではなく、子どもが自分でしたいこと、できそうなことを話し合って決められるとさらに望ましいです。いざ決まったら、『仕事はしたの?』『やりなさい』と先回らずに見守るようにしましょう。できた時は『ありがとう。またよろしくね』と伝えることで、子どもは充足感を覚えます。

夏休み明けは学芸会や学習発表会などの行事があり、団体の中で自分ができることを見つけ、それを伸ばしていく機会が増えます。こうした行事は、自分が日々精いっぱいやってきたことや他者のために貢献してきたことが発揮される場です。集団の中で自分がどう貢献するか考える準備として、まずは自分から家族の役に立つ仕事をする経験をさせてみてください」

初めての夏休みで、休み明けは学校での指導や習慣を忘れてしまう児童も多いだろう。2学期から再び学級を束ね、保護者と協力できる信頼関係を築けるよう、参考にしてもらいたい。

(文:酒井 明子、 編集部 田堂友香子、注記のない写真: zon / PIXTA)