子どもの自殺が過去最多、「24hチャット相談」の現場から見る課題と必要な対策 大空幸星「1人1台端末の活用、文科省が主導を」

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厚生労働省によれば、2022年の出生数は79万9728人と過去最少を記録、その一方で過去最多となる514人の小中高校生が自殺で亡くなった。国はこの事態を重く受け止め、「こどもの自殺対策に関する関係省庁連絡会議」を開催、6月の「骨太方針」策定までに対策を取りまとめる方針だ。社会はこの問題をどう捉え、取り組むべきか。学校には何ができるのか――年間30万件以上の利用(22年度実績)がある「あなたのいばしょチャット相談」の運営元、NPO法人あなたのいばしょ理事長の大空幸星氏に話を聞いた。

電話を使わない若年層、「1人1台端末」で相談してくる子も

年齢や性別を問わず、誰もが匿名かつ無料で利用できる「あなたのいばしょチャット相談」がスタートしたのは、2020年3月のこと。当初は1日数十件だった相談件数は、今では1日約1000~1500件に上るという。

大きな特徴は、相談を24時間受け付けていること。これは珍しいといい、厚労省が自殺防止を目的に紹介している5団体のSNS相談窓口の中でも、24時間体制なのは「あなたのいばしょ」だけだ。NPO法人あなたのいばしょ理事長の大空幸星氏は、こう話す。

「厚労省などのデータからも午前0時から午前6時ごろに自殺が増えることは明らかになっていて、実際、夜は相談が増えます。そのため既存の相談窓口や行政も24時間対応の必要性がわかっているのですが、人員を24時間配置するのは難しいもの。そこで私たちは、相談員がリモートで自宅などから相談を受けられるようにするほか、ノルマを月に最低4時間と低く設定し、海外在住の方にも参加してもらうことで、相談員の心身の健康を守りながら24時間体制を実現しています」

相談員の多くは研修を受けたボランティアのスタッフたちで、現在約700名。緊急性の高い相談は、経験豊富な有給職員の専門相談員やスーパーバイザーにつなぐ形を取っている。

NPO法人あなたのいばしょ理事長の大空幸星氏

もう1つの特徴は、チャットを使った相談窓口である点だ。このツールを選んだ理由を大空氏は次のように説明する。

「行政やNPOなどが運営する相談窓口は、電話での対応がほとんど。しかし、今の若い子は電話で話す習慣がなく、友人とのやり取りもほぼSNSです。また、自分の顔や名前が特定できる状況では『頼るのは恥』というスティグマ(汚名・負の烙印)が強化されやすいので、匿名で相談できるチャットは自己開示しやすいのです。最近、LINEによる相談窓口が増えていますが、LINEは携帯電話番号の登録が必要であるため、携帯電話がないと使うことができません。だから、電話番号の登録も声を発することも必要ない、匿名で利用できるチャット相談窓口をつくりました。これなら学校のパソコン室からも相談できますし、実際、GIGAスクール構想で配付された1人1台端末を使って相談してくる子もいます」

「あなたのいばしょ」の利用に年齢制限はないが、相談者は29歳以下が約7割、10代が約4〜5割を占める。家庭の問題や友人関係、恋愛、学業、将来への漠然とした不安など、悩みの内容は人それぞれ。大空氏は、「『10代はこういう問題を抱えている』と決めつけることはできない」と強調し、こう続ける。

「18歳以下であれば親や家族がいて、学校に通っている人が多いでしょう。しかし、周りに大人がいてもチャット相談を利用するのは、きっと悩みを吐き出せないからなんですよね。その背景には『相談する・頼るのは恥ずかしい』という感情や、社会に蔓延する懲罰的な自己責任論があるのではないかと考えています」

なぜ大空氏は、頼れる誰かに24時間つながることができる場をつくったのか。そのきっかけは、自身の原体験にある。小学生の時に両親が離婚、父との2人暮らしで心身ともに追い詰められ、不登校を経験した。その後、再婚した母と暮らし始めたが、ネグレクトと経済的な困窮に直面。そんな大空氏に寄り添い、支え続けてくれたのが通っていた高校の担任の先生だった。

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