コロナ禍で加速する貧困、不登校、虐待「10代の孤立」救うNPOの奮闘とは? 「自己責任」の言葉に潜む、無関心という放置

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10代を独りにしない――。不登校や家庭内不和、経済的困難など、さまざまな境遇にある10代を孤立させないために、新たなセーフティーネットを提供している認定NPO法人D×P(ディーピー)。2012年の設立以来、“人とのつながり”を通じて、孤立に苦しむ若者たちをサポートする活動を行ってきた。だが、コロナ禍により、10代の孤立はさらに加速しているという。こうした社会的課題に対し、D×Pはどのような取り組みを行っているのか。同法人理事長の今井紀明氏に話を聞いた。

年々悪化していく「10代の孤立」と「貧困」

不登校、家庭内不和、経済的困難、あるいは虐待やいじめ、進路未定、無業……。そうした境遇に苦しむ「10代の孤立」が増えている。そんな10代の孤立を解決するために、立ち上がったのが、認定NPO法人D×Pだ。2012年の設立以来、若者へのセーフティーネットを提供し続けてきた。現在、理事長を務めている今井紀明氏の名前と顔を目にして、40代以上の人はぴんとくる方もいるかもしれない。

実は今井氏は今から18年前の2004年に大きな事件に遭遇している。今井氏は高校生のときに医療支援NGOを自ら設立し、子どもたちの不条理な状況を改善したいと、紛争地域のイラクへ支援のために訪れた。しかし、そこで現地の武装勢力に人質として拘束されてしまったのだ。解放後、帰国してからは「自己責任」という言葉とともに、大きなバッシングを受けた経験を持つ。今井氏が現在の活動に取り組み始めたのも、その経験が大きな契機となっている。

イラクの事件後、今井氏の元には想像を絶する量のバッシングが届いた
(写真:D×P 提供)

「振り返れば、一貫して子どもたちの支援を志し、20年間活動してきましたが、現在のD×Pの取り組みを始めたのは、イラクでの事件の後に4~5年くらい対人恐怖症やパニック障害、PTSD、うつ病などで引きこもりを経験したことが大きいと思っています」

当時、今井氏は引きこもりの状態からなかなか立ち直ることができなかったという。そこから抜け出せたのは、周囲の支援があったからだ。友人が自宅を訪れて学校に付き添ってくれたり、話を聞いてくれたりしたこと、あるいは高校卒業後に、高校時代の担任の先生が大学に進学するよう勧めてくれたなどのサポートが社会復帰につながった。

「自分は運がよかったんだと思います。ただ、自分には周囲の支えがあったことを、運がよかったねで終わらせたくなかった。このようなサポートを必要としている10代は、ほかにもっといるはず。自分が立ち直ったように、10代が孤立してしまうことなく、希望を持てる社会をつくっていきたい。そのための支援や仕組みづくりが必要だ。そう思って大学を卒業して大阪の専門商社で働いた後に、現在のD×Pを立ち上げたのです」

2018年、海外でのスタディツアープロジェクトでの1枚
(写真:D×P 提供)

現在、10代の孤立を取り巻く課題は多様化している。不登校や引きこもり、貧困、最近話題になっているヤングケアラーまで、孤立を深める境遇はさまざまだ。そんな10代の若者たちに救いの手を差し伸べようと、D×Pでは寄付で賄われた1.8億円という財源を元に支援を行っている。だが、最近はコロナ禍の影響もあり、より10代の孤立が悪化しているという。

10代に立ちはだかる「電話相談」の壁

例えば、D×Pで相談を受け付けるチャットの累計登録者数は2020年4月の段階で700人程度だったが、現在では8300人超と急増している。そのため、対象を10代から生活に苦しむ25歳にまで広げ、新たに現金給付と食糧支援を開始した。現在、行政の支援がなかなか届かない10代を中心に、現金給付は3400件、そして6万食前後に達する食糧支援を行っている。D×Pでは独自の支援を通じて、最終的に行政の公的支援へとつなげる地道な活動を続けているのだ。

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